第66話 決闘

「リアナ様、そんなくそみたいな妄想はお止め下さい」

「はっ! 私はいったい⋯⋯」


 どうやら正気に戻ったようだ。

 リアナが変なことを叫んだことにより、この場に微妙な空気が漂う。


「と、とにかく決闘ですよね。どこでやりますか?」


 街中で始めるわけにはいかないよな。


「王城の訓練場で行うつもりでしたが⋯⋯」


 王城の訓練場か。

 騎士とか兵士とかがたくさんいて集中できなそうだな。

 それにそこだと狭すぎて俺が本気を出せない。


「ベーレの村とエリベートの街の間にある、街道のそばはどうでしょうか」


 ザイドと戦った場所なら人もいなそうだし、ひらけているから戦うにはもってこいだ。


「しかしわざわざ1日かけてそこまで行くのも⋯⋯そうでした。貴方には転移魔法がありましたね」


 そう、転移なら一瞬で街道そばに行くことができる。


「それでしたらすぐに行きましょう」

「わかりました」


 俺はエリスさんとダリアさんに向けて転移魔法シフトをかける。

 そして自分に向けて魔法をかけようとした時。


「待って!」

「待ってください」


「私も行く」

「私も連れていってください」


 リアナとマーサちゃんも決闘に向かうと言ってきた。


「エリスさんとダリアさんが決闘すると言ったことは、私が関係している気がするの」

「私は助けて頂いたヒイロさんの戦いを見てみたいです」


 来るなって言いたいけどいいか。


「わかった。いいよ」

「本当」

「本当ですか!」


 俺は2人にも転移魔法をかけ、自分も街道そばへと飛ぶ。



 転移した場所は、以前ザイドとの激闘などなかったかのように静かに存在していた。

 しかしよく見ると木々が折れていたり、焼け焦げた後がある。


「それではさっそく始めますよ」


 エリスさんとダリアさんは俺と距離を取る。


「ヒイロさんは大丈夫ですか?」

「何?」

「御2人は騎士団の中でもエリートなんですよね?」

「そうだよ。しかも【聖なる壁エリス】、そして【剛剣のダリア】という2つ名を持ってるんだよ」

「そ、そんな人達に勝てるんですか」


 リアナの言葉にマーサちゃんは不安になる。


「私、ヒイロさんが勝ったらお嫁さんにしてもらう約束しちゃったんですけど」

「い、いつのまにそんなことになってたの!」

「リアナさんが叶わない妄想に入っていた時です」

「叶うから!」


 マーサちゃんの言葉に突っ込んでリアナは、ハアハアいっている。


「そんな約束は認めないけど、残念ながらマーサちゃんは賭けに勝つよ」

「なぜですか?」

「ヒイロちゃんはそれ以上に強いから」


 幼き時からどんな時でもヒイロが負けるとは思っていない。それだけ信頼している、それはもう太陽が東から西に行くようにリアナにとっては当然のことだった。



「で、どちらから戦いますか?」


 さて、どうしようか。

 聖騎士であるエリスさんと戦うか、それとも剛剣士のダリアさんと戦うか。それとも⋯⋯。


「どちらかじゃなきゃダメですか?」


 俺の言葉に2人がピクッと反応する。


「どういう意味ですかそれは」


 静かな怒りを込めた声で問いかけてくる。


「2人一緒で構いません」


 俺は大胆不敵な言葉を口にする。


「後悔してもしりませんよ」

「後悔をするのはあなた達ですよ。2人で負けたら言い訳ができなくなりますからね」


 三人の中で火花がバチバチと走る。


 できればこんなことはもう終わりにしてほしい。

 だから今日ここで完膚なきまで叩き潰す。

 いつ殺されるかびくびくするのも嫌だしな。



「リ、リアナさん。ヒ、ヒイロさんあんなことを言ってますけど大丈夫なんですか」

「だ、大丈夫。ヒ、ヒイロちゃんなら勝つよ」


 マーサとリアナは、ありえないことを言ったヒイロに動揺する。

 少なくともリアナはこの2人と同時に戦って勝つ自信はない。


 けどヒイロちゃんなら⋯⋯。


「私の嫁入りがかかっていますから、ヒイロさんに勝って頂かないと困りますぅ!」


 街道そばにマーサちゃんの悲痛の叫びが木霊する。



「2人とも30メートルは離れてくれ」

「わかった」

「わかりました」


 リアナとマーサちゃんを俺達の戦いに巻き込まないよう下がらせる。


「合図はどうしますか?」

「リアナ様。合図をお願いします」

「了解だよ」


 リアナは右手をゆっくりと上げ勢いよく振り下げる。


「はじめだよ」


 エリスside


 ヒイロはリアナ様達をこの場からかなり離れさせた。

 ということは、広範囲の魔法をスタート時に仕掛けてくる可能性がある。

 もしそうきたら私のスキルで防いで、その隙にダリアが接近戦で倒す。

 そう私の中でこの戦いの行く末を思い描く。


 ヒイロside


 俺は右手に剣を、左手に魔力を込める。

 時間をかけるつもりはない。

 一気に勝負を決める!


「【煉獄魔法インフェルノ】」


 地獄の業火が、辺り一面を焼け野はらへと変貌させる。


 エリスside


「予想通りです!」


 私の考えていた通りの展開となった。


「【聖壁魔法セイントウォール】」


 縦横10メートルに渡って光の壁が展開され、灼熱の業火から私達の身を護ってくれる。


 よし! 後はこれを防いでダリアが行けば⋯⋯えっ?

 今まで何人たりとも通したことのない聖なる壁が溶けている!


「そ、そんな! ありえません!」


 信じられない。今までひびすら入ったことがない私の壁がまさかこうも容易く――。


「ダリア! 作戦変更です! 1度下がりますよ」

「わかった」


 あまりの出来事にダリアは語尾を伸ばすことすら忘れていた。


「あれ? ヒイロがいないよ」


 しまった! 【聖壁魔法セイントウォール】が破られたことに動転して、相手を見失ってしまうなんて! 私は騎士団に入りたての新兵ですか!


 エリスは普段行わないミスを犯してしまう。そしてそれが敗因の1つとなる。


「どこですか奴は!」


「後ろだよ」


 後ろ! いつのまに!

 爆炎に紛れて近づいてきた? いえ、違います。転移魔法を使ったんだ。

 首に剣を当てられる。


「私の敗けです。⋯⋯ですが


 ヒイロが私に剣を当ててる間に、今度はダリアがヒイロの背後に周り剣を振り下ろす。


「やあ~」


 ダリアの力のない声が響き渡る。


 勝った!

 あのタイミングなら剣をかわすことができず、受け止めるのが精々だ。

 そうすればダリアの力で押し潰すことができる。


 キィン!


 互いの剣が当たり力の押し合いになる。


「くぅっ!」


 苦悶の表情を浮かべている⋯⋯あのダリアが!


「どうしたんですか! あなたが力負けするなんてありえないでしょ!」

「む、無理~」


 しかしエリスの願いも虚しく、ダリアの剣は空へと高く舞い上がった。


「まいった~」


 こうして3人の決闘は20秒もかからずに終わりを遂げた。

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