第60話 武道家のエルフ?
王都北東地区にある冒険者学校へと向かう。
本来なら俺の隣にはルーナがいて、一緒に試験を受けるはずだったが、エリザベートの呪いによって後3週間ほど目が覚めない。
ルーナが持っている紋章は、初級職の中でも上位グループに位置する僧侶の紋章のため、試験を受けなくても入学できるが、筆記試験も実技試験も受けないためFクラスが確定しまった。
だけど運命の羅針盤の効果の中では、マシな方の呪いだったので文句を言うことはできない。
今は俺が合格すれば同じクラスでがんばれるということで満足しておこう。
暫く歩いていると冒険者学校が見えてきた。
前回願書を提出しに来た時とは違い、人の姿があり、賑わいを見せている。
「冒険者学校の入学試験を受ける方はこちらの会場で行います。筆記試験を終えた後、一部の紋章の人は実技試験となります帰宅しないで下さい。その他の紋章の方は帰って結構です」
先生らしき人が試験の会場へと案内している。
やはり俺は実技試験を受けることはできないのか。
この学校の教師であるダードが言っていたことは間違いじゃなかったようだ。
紋章によってここまで差別されるなんて⋯⋯。
俺もそうだけど例えば遊び人の紋章を持つグレイは、異常にステータスが高かったけど実技試験を受けることができない。
おそらくグレイなら、ここにいる受験者の中でもトップクラスの結果を取れるはずだ。ひょっとしたら勝てるのはリアナくらいかもしれないな。
どこか納得がいかない思いを胸に、俺は教師の案内された筆記試験の会場へと向かった。
「え~と俺の番号は244番だから⋯⋯あった」
左から4番目の列の1番後ろか。悪くない席だ。
「1番後ろの席ですか。悪くないですね」
どうやら俺と同じことを考えている人がいる。
しかし今の声、どこかで聞いたことがあるような⋯⋯。
声の主の方を見ると、そちらもこちらに目を向けてきたので視線が合う。
「あ、あなたは⋯⋯」
「お前は⋯⋯」
隣の席はルーナに呪いをかけたディアナだった。
まさか300人近くいる会場で、隣の席になるなんてどんな確率だよ。
お互いにげんなりした顔をし、逆の方を向く。
とりあえず今は関わらないようにしよう。試験に集中だ。
「ちょっとあなた」
無視しようとした俺の思いをよそにディアナが話しかけてきた。
「何?」
「ル、ルーナさんはどこにいますの?」
「さあ? その辺りにいるんじゃないか?」
また何かルーナにしようと考えているのか? 今呪いで寝てるなんていったらそれこそ暗殺されかねないので適当に答えておく。
「そうですか⋯⋯」
何だ? 殺しの依頼をしたことがバレるのが怖いのか、どこか前にあった時と雰囲気が違う気がする。
「その⋯⋯」
「静かにして下さい。これより試験を開始します」
今、何か言おうとしてなかったか?
ディアナの方に視線を向けるが特にこちらの方を見てはいなかった。
気のせいか?
「問題用紙を配るので裏にしたまま待て」
しかし試験が始まるため確認することはできない。
俺は頭の中で少し気にしながら、筆記試験に望んだ。
1時間後。
筆記試験は概ね問題なく解くことができたので、冒険者学校に入学することができるような気がする。
試験が終わり、ディアナの方を見るが、むこうはこちらを見ず席を立ち上がった。
さっき話しかけようとしていたのは勘違いだったのか?
俺の方からは別にディアナに言うことはないので、そのまま席を後にする。
「では実技試験を受ける者は闘技場まで集まってくれ」
俺は受けることができないから関係ないが、どうな奴がいるか興味があるので見学していこうかな。ただ筆記試験で緊張したせいか先にトイレにいきたい。
俺は急ぎトイレを探していたせいか、曲がり角から飛び出してくるものに気づかなかった。
「きゃっ!」
やばい当たる!
何かと衝突しそうになったので、かわそうと右に体を捻るが、相手も同じことを考えて左によけた為、俺はそれと激突する。
「いった~い」
どうやら女の子と当たったみたいで、相手は俺に当たった衝撃で尻餅をついている。
そして女の子の服装がスカートだったため、中のピンク色の眩しい物がもろに見えた。
「ちょ、ちょっとどこみているのよ!」
「ご、ごめん」
慌てて視線を逸らすが、女の子を瞬時に立ち上がり、俺の顔面に向かって回し蹴りを繰り出してくる。
速い!
俺は向かってくる蹴りに対して胴体を後ろに反らしかわすが、かわした蹴りが、戻ってきた⋯⋯だと⋯⋯。
「くっ!」
今度はよけるのが不可能だったため、俺は右腕の甲でガードする。
「あなた⋯⋯やるわね」
「君こそすごい蹴りだね。とりあえず色々謝るから足を下げてくれないか」
「なぜ? 私的には一発入れないと気が済まないのだけれど」
「俺的にはこのままでもいいけど」
女の子は足は俺の顔面の近くにあるため、またパンツが丸見えだ。
「ば、ばかあ! どこみているのよ!」
俺の視線に気づいたのか、女の子は慌てて足を下ろし、バク転で後方へと下がり睨み付けてくる。
今気づいたけどこの娘はエルフでとても美人さんだった。
腰まである金髪の髪が眩しく、目は怒っているせいかとても鋭いが、またその姿がとても似合っている。
それにしても今の動きや蹴りを見る限り、この娘は武道家か? めずらしいな。
基本エルフは人族より魔力に長けているため、魔法系の紋章を持つことが多い。
「この変態!」
「いやいや不可抗力だよ。でも見てしまったのは事実だから謝る。ごめん」
「ふ、ふん! 初めからそうしてればいいのよ」
エルフの娘は俺が素直に謝罪すると思わなかったのか、少し呆気に取られている。
「こんなことをしている場合じゃなかったわ。早く行かないと――」
そう言ってエルフの娘は実技試験の会場の方へと向かっていったが、突如こちらを振り向いて言葉を発した。
「貴方、中々良い動きしているわよ」
「それはどうも」
少なくともこの娘の動きは、勇者であるリアナよりは速かったな。
「私はラナ、次会った時はぶっ飛ばすから覚えてなさい」
そしてラナは走り去って行った。
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