第4章 強奪者
第59話 2年立っても変わってなかった
エールの宿屋の娘であるマーサちゃんを救いだした後、女将さんからお礼として、今泊まっている部屋を、そのまま無料で宿泊することができるようになった。
正直ルーナが運命の羅針盤の呪いで、1ヶ月目が覚めないため助かったよ。
寝ている間の面倒を俺が見ようと思ったけど、リアナやマーサちゃんに激しく抗議された。
「身体を清めるために拭いたり、服を変えたりするんだよ? ヒイロちゃんのエッチ」
「ヒイロさんが触れていい女子は私だけですからね。だからその案は却下します」
リアナの言い分はともかく、エリザベートに拐われたマーサちゃんを助けてから、俺は熱烈なアプローチを受けている。
救ったこともそうだが、マーサちゃんを運ぶ時にお姫様だっこをしていたことで、「好きな人にされるのが夢でした」と言われ、俺のお嫁さんになると宣言してきた。
まあ小さい子供の言うことだし、何より妹のようなマーサちゃんに好かれるのは俺も悪い気がしない。
それより、マーサちゃんが拐われた経緯で、道案内を聞いてきたおじさんは、あれから見つかっていない。
魔族なのか、人間なのかどちらかわからないが、どちらにせよ脅威なのは確かだ。
魔族なら人間に変身をできるということなので、すでに人間界に入り込んでいる可能性がある。
逆におじさんが人間の場合、人族の中に魔族に協力するやつがいるということになるためどっちに転んでも厄介なのは確かだ。
しかし今は見つける術がないため、気をつけるくらいしか今はできることはない。
トントン
「どうぞ」
最近この時間にドアをノックする人物は1人しかいないため、俺は中に入るよう促す。
「ヒイロさん、おはようございます」
「おはよう」
部屋の中に入ってきたのはマーサちゃんだ。
助けて以来、毎日朝食の前に俺を起こしに来てくれている。
「今日もリアナさんは
「まあ、リアナは朝弱いからこの時間にくるなんて無理だよ。村にいた時は逆に俺が毎日起こしていたくらいだから」
リアナはマーサちゃんに対抗してか、毎朝俺を起こそうとしているが、マーサちゃんより先に来ることは一回もなかった。寝坊助のリアナがこの時間に起きるなんて絶対無理だな。
「えっ? リアナさん、ヒイロさんに毎朝起こしてもらっていたんですか?」
「う、うん」
「なるほど⋯⋯」
マーサちゃんはリアナのことを聞いて、何か1人でブツブツと喋っている。それもありですね。毎朝起こしてもらって羨ましいです、など言葉が聞こえる。
そんなことを話していると、ふらふらと何かが部屋に入ってきた。
「リアナさんおはようございます。いつもよりは早いですね⋯⋯って! 何ですかその格好は!」
俺とマーサちゃんはリアナに視線を向けると、そこにはあられもない格好のリアナがいた。
上のパジャマのボタンは本来5つされなければいけない所、2つしかされておらず、下の服に限っては何もはいていない。パンツが丸見えだ。
2年ぶりにこんなリアナの姿を見たが、身体が成長し以前にはない色気を感じる。マーサちゃんの前ということもあり、何とか平静を装っているが俺の心臓はドキドキが止まらない。
しかし残念な部分もあり、それはマーサちゃんが行動で表した。
「むむむ! まさか私より早くヒイロさんを朝起こしにこれないからって色仕掛けでくるとは⋯⋯大人はずるいです。けれど⋯⋯」
マーサちゃんは自分の胸とリアナの胸を見比べ、両方触ってみる。
「ふふふ」
勝ち誇った顔を浮かべる。
今やったことでマーサちゃんが何を考えていたかがわかった。
リアナ⋯⋯がんばれよ。
「リアナさん起きて下さい。今大変な姿になっていますよ」
返事がない。まるで屍のようだ。
それにしても、よくこんな立ったまま寝れるもんだ。
さすがにこの半裸な姿を見るのも悪い気がしてきた。
しかしそんな俺の気持ちをリアナは理解していなかったみたいだ。
「むにゃむにゃ⋯⋯ヒイロちゃん早く起きなよ。私がいないと何もできないんだね」
「誰がだ!」
「いった~い! 何? 敵襲?」
俺はありえないことを寝言で言ったリアナに対して、おもいっきりおでこにデコピンを食らわした。
「痛いよ痛いよ! 何で私のおでこがこんなに痛いの? あれ? マーサちゃんおはよう」
ようやく目が覚めたようだ。
「おはようございます。リアナさん。それより早く着替えた方がいいですよ」
「着替え? 何で?」
リアナは今の状況を全く理解できていない。
しょうがないから教えてやるか。
「リアナ、したした」
「あっ? ヒイロちゃんおはよう。した? したって何? きゃあああ!」
甲高い声が部屋に木霊する。
「どういうこと! まさか私、ヒイロちゃんと一線を越えちゃったの? 大人になっちゃったの!」
コツンッ!
「いった~い! さっきからいたいよぉ」
リアナの戯れ言に対してマーサちゃんが頭を少し小突いた。
「何をばかなことを言ってるんですか」
寝ぼけてるにしても俺を巻き込む内容はやめてほしい。
「ヒイロさんと結ばれるのは私です」
いやいや何を言ってるんだマーサちゃん。
それに結ばれるの意味がわかっているのか。最近の子はませているなあ。
「あんた達! 時間は大丈夫なのかい!」
宿屋の一階から女将さんの声が聞こえてきた。
そうだ! 今日は冒険者学校の受験日だ!
リアナはもう入学が決まり、Aクラスになっているけど、俺はまだ入れるかどうかはこの試験にかかっている。
早く着替えないと! 服、服。服はどこだ?
「今日必要な物はこちらに揃ってますよ」
どうやら俺が焦っている間にマーサちゃんが準備をしてくれていたようだ。
「あ、ありがとう」
さすがは女将の娘だ。俺はマーサちゃんの用意周到さに感心する。
「ぐぬぬぬ」
リアナが何やら1人で唸っている。
「なら私がヒイロちゃんの着替えを手伝う!」
「何をばかなことを言ってるんですか。邪魔をしたらヒイロさんが本当に遅刻してしまいますよ」
「ううぅ⋯⋯ヒイロちゃんの⋯⋯ばかあ!」
そう言ってリアナは部屋から立ち去っていった。
何? 何で俺が怒られなければいけないんだ。
「ヒイロさん急がないと――」
そうだ今は準備をしないと!
とりあえずリアナのことはおいといて、俺は今日の試験の用意を始める。
「それではがんばって下さいね」
俺はマーサちゃんに見送られながら宿屋を後にする。
学校への道のりを歩いていると木の陰からリアナが姿を現した。
「ヒイロちゃん。朝は寝ぼけててごめんなさい」
わざわざ謝りにきてくれたのか。
「いいよ。それより眠い中起こしに来てくれてありがとな」
「ヒイロちゃん⋯⋯」
リアナは俯き顔を上げると右の拳を突き出してきた。
「ヒイロちゃん! がんばってね!」
「任せろ」
俺はリアナの拳に自分の拳を合わせ、冒険者学校へと向かった。
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