第55話 襲撃の後
ボルデラが逃げたことによって、東門側に集結していた魔物も撤退したようだ。
少なくとも3キロ以内には魔物の大群は見られない。
後は他の門がどうなったか心配だけど、指揮官のエリザベートが東門にいたから、ここ以上の戦力は配置されていないと思うけど⋯⋯。
とりあえずあれこれ考えてもしょうがないので、俺は傷ついた衛兵や騎士達に回復魔法をかけていると馬に乗った兵士がエリスさんの元へと駆けつけた。
「副団長、ご無事でしたか!」
「ええ、忌々しい方に助けられ、なんとか生き延びました」
兵士はエリスさんの回答にはてなを浮かべている。
「それはどういう意味でしょうか」
「いえ、なんでもありません。それで何かありましたか」
忌々しい方って俺のことですか。それにさっきから気になっていたがエリスさんはずっとルーナをお姫様抱っこでかかえたままだ。
「ダリアさん、エリスさんって――」
「可愛い子が好きだからね~副団長は」
「ですよね」
しかもルーナが呪いで寝ているのをいいことに、さりげなく胸やお尻をさわっているのを見逃さない。けして代われるなら俺に代われなんて1マイクロも思っていないぞ⋯⋯すみません、少しいや、かなり思っています。
俺は部下であるダリアさんに視線で抗議する。
「可愛い子が大好きだからね~副団長は」
ダリアさんは苦笑いをして誤魔化す。
俺はルーナの貞操を護るためにも、このエロ者副団長を衛兵に突き出した方が世の中ためになるんじゃないかと思った。
そうこうしている内に兵士との会話が終わったのか、エリスさんがこちらに向かってきて言葉を発する。
「どうやら戦闘が終わったようです」
やはりボルデラが逃げたことによって東門だけでなく、他の門からも魔物は手を引いたようだ。とりあえずルーナとまだ意識が戻っていないマーサちゃんを連れて宿までもどるか。
「そうですか。被害の方はどうだったんですか?」
「数十人の兵や冒険者に犠牲は出ましたが、他の門もなんとか突破されず護り抜いたとのことです」
それなら街の中は大丈夫だな。女将さんも心配しているだろうから、ルーナとマーサちゃんを連れて1度宿へと戻ろう。
エリスさんに話しかけようとした時、頭を下げて沈んだ表情のリアナが目につく。
「リアナどうしたんだ」
「ヒイロちゃん⋯⋯」
リアナは目に涙を浮かべ、今にもこぼれ落ちそうだった。
「今日王都が魔物に攻められたのは、私のせいだよね」
その言葉を聞いて、どうしてリアナが泣きそうになっているか理解した。
「私がいたから兵士さんや冒険者さんが死んじゃった」
確かにエリザベートは勇者に消えてもらうのが目的と言っていた。
だが――。
「確かにリアナを殺すために王都を攻めてきたことは否定しない」
「⋯⋯そうだね」
「だけどエリザベートは目的の1つと言っていた。だからもしリアナがいなかったとしても襲撃に来ていたはず」
「で、でも⋯⋯」
「リアナの中で罪悪感があるのもわかる。もしそれが許せないのなら今度は全員を護れるほど強くなろう。一緒に」
「う、うん」
良い顔だ。やっぱりリアナには笑顔が1番似合っていると思う。
だがリアナやそしてルーナの顔を曇らせる奴らがまだまだいる。今後、そういう者達は増えていく可能性が高い。
この2人の笑顔を護る。そのためにはあらゆる手段を使うことを改めて俺は決意する。
「エリスさんありがとうございました。後はこちらで対応するので、ルーナを渡して下さい」
「いえ、ベットまで私が運びましょう」
ひょっとしたら善意で言っているのかもしれないが、良からぬことをするためじゃないかと勘ぐってしまう。
それならもうさっさと宿へと運んでしまおうか。
「リアナ、ダリアさん。先に宿に送りますからエロ副、いえエリス副団長がルーナにイタズラしないか見ていて下さい」
「あなた、今何を言おうとしたのですか」
エリスさんがギロリとこちらを睨んでくる。
こ、怖い。ボルデラやエリザベートにすら怯まなかったのにエリスさんのプレッシャーに後退りしてしまった。
「す、すみません。言い間違えました」
「私は地面に置くと寝苦しいと思って抱えているだけです。他意はありません」
逆らうと何をされるかわからないから、俺は弱腰になって反論しない。
すまん、ルーナ。
「宿に送るって言ってたけど、どういうことですか~」
ダリアさんが頭上にはてなを浮かべる。
「まさかお姫様抱っこをして宿まで連れて行かれるの~。そのままいけないこともされちゃいそうだね~」
ガシッ!
急に背後から肩を掴まれた。
ば、ばかな! 気配を全然感じなかったぞ!
俺はおそるおそる後ろを振り向くと、そこには笑顔だが目が笑っていないリアナがいた。
「ダリアさんが言っていることは本当なの?」
痛い痛い! ステータス値は俺の方が上なので痛いはずがないのだが、よく分からない力が働いて肩に激痛が走る。
「ち、違う! もう見せた方が早いから2人で手を繋いでくれ」
「こう?」
リアナとダリアさんが手を繋いだのを見て、俺は魔法を唱える。
「【
2人は一瞬にしてこの場から姿が消える。
俺はエリザベートと東門の魔物を倒したことによってレベルが上がり、2人までなら転移で送れるようになっていた。
「あなた! リアナ様とダリアをどこにやったのですか!」
俺は説明するのもめんどくさいので、今度はエリスさんとルーナに向けて転移魔法をかける。
そして最後に意識を失っているマーサちゃんをお姫様抱っこをして、転移魔法で宿屋エールへと向かう。
宿屋に飛ぶと、先に転移した4人は驚きの表情を浮かべ、言葉を発することが出来ずにいた。
「どうしたの? 何かあったの?」
「な、何かあったのじゃありません! 今のはなんですか!」
「魔法で宿屋に移動させたけど問題がありましたか」
「大有りです! そんな魔法、人族で使えるのはルドルフ様しか知りません。あなた何者ですか」
「転移魔法ってお伽噺の中の魔法じゃなかったんだね~。顔もイケメンだし、凄い魔法を使えるから将来有望だ~。これは本当に宿屋にお持ち帰りされてもいいかも~」
「やっぱり魔王に負けちゃった時、魔法で自宅まで運んでくれたのはヒイロちゃんだったんだね」
三者三様で話してくるため対処できずにいると、不意に入り口のドアが開いた。
「マーサ」
女将さんが、俺の腕の中で眠っているマーサちゃんを見て駆け寄ってくる。
「マーサ! マーサ! まさか魔物に殺されて⋯⋯」
目を覚まさないため、女将さんはマーサちゃんが死んでしまったと勘違いしている。ただその間違いはすぐに訂正されそうだ。
「う、う~ん。お、お母さん」
マーサちゃんが眠い目を擦りながら、目を覚ます。
「マーサ!」
「あれ? おじさんに道案内をしてそれから⋯⋯わわっ! ど、どうして私、ヒイロさんにお姫様抱っこされているの!」
意識を取り戻したため、俺はマーサちゃんを地面に下ろす。
「良かったよ! この娘ったら心配かけて」
女将さんは思いっきりマーサちゃんを抱きしめると、涙を流して喜びを
「痛いよお母さんどうしたの?」
「あんたはヒイロくんとルーナちゃんに助けてもらったんだよ」
「そうなの??」
本当のことを言うか迷ったけど、道案内をお願いしてきたおじさんのことが知りたいので俺は真実を話す。
「魔物に、奴隷の首輪のような物をはめられていたけど覚えていない?」
「う~ん、わからないですね。道案内をしたおじさんのことは覚えてますけど」
俺はそのおじさんのことを聞いてみたかったけど、今は親子の再会を邪魔したくないのでそれ以上のことは聞かなかった。
こうしていくつも疑問を残しながらも、魔物による王都侵略は終わりをとげた。
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