第54話 ボルデラ
「ふぉっふぉっふぉ。エリザベートを倒すとは中々やるのう」
「ボルデラ様!」
こいつがボルデラ? 黒い腕輪のような汚い魔道具を作るだけあって、狡猾そうな雰囲気を持っている。
まずは鑑定魔法を使ってこいつの能力を確認する。
「【
しかし、ルドルフさんの時と同じように何も視ることが出来ない。
そうなると魔道具を使って隠しているのか、それとも単純に俺より魔力が高いかのどちらかだ。
俺はボルデラに対して、警戒レベルを最大値まで引き上げる。
「ボルデラ様申し訳ありません。次こそは必ず仕留めますから助けて下さい」
「次ですか? そんなものがあればよいがのう」
やはりエリザベートは、運命の羅針盤を使うとどうなるか気づいてないようだ。
そのことを教えるかのように、左手で持っている魔道具から無機質な声が鳴り響く。
「それでは代償として30秒後に使用者の魂を頂きます」
「はっ?」
俺が鑑定で視た通りの言葉が放たれた。
エリザベートの体から黒い物が出て、羅針盤に吸い込まれようとしている。おそらくあれがエリザベートの魂だ。
「ボ、ボルデラ様どういうことでしょうか」
「羅針盤を使えば使用者は死ぬ。ただそれだけじゃ」
無情な言葉がボルデラから発せられる。
「そ、そんな⋯⋯最初から私は貴方の捨てごまだったのですか」
「おかげでカーズブレスレットの良いデータが取れた。褒めてやろう」
エリザベートはボルデラに取って自分は特別だと思っていたが、他と変わらないただの石ころだと気づかせられる。
「私はあなたの右腕ではなかったのですか!」
「お主は何を言っておるのじゃ。右腕? わしの右腕はここにある」
ボルデラは左手で自分の右腕を指す。
「貴様!」
憎しみの気持ちを込めて言い放つが、時既に遅し、エリザベートの黒い魂が羅針盤に吸い込まれていく。
「こんな⋯⋯奴に⋯⋯仕えていた⋯⋯なんて」
そう言葉を発するとエリザベートの体は、塵になって消えていった。
「見苦しいやつじゃ。わしのために死ねることを光栄に思え」
元部下が消えても、まるで虫けらを見るような視線でエリザベートのいた場所を見る。
「さて、目的は果たしたので、わしも戻るとするかのう」
「逃がすと思うか?」
何とか無事だったもの、マーサちゃんを操ったり、ルーナを殺そうとしたボルデラをこのまま行かせるつもりはない。
だが今の俺はMPがほとんどないし、リアナやエリスさん達も満身創痍のため、正直な話まともに戦える状態じゃない。何より呪いをかけられたルーナが心配だから、あまり時間をかけたくない。
「せっかくカーズブレスレットから逃れ、拾った命。無駄にしてもよいのか」
鑑定で見れないからハッキリとしたことはわからないが、少なくともボルデラはザイド級の実力者と見ていいだろう。
そんな奴と戦って、ただで済むはずがないか。
俺は構えていた剣を納める。
「さっさと行け」
俺は断腸の思いでボルデラを見逃すことを決断する。
「エリスさん、リアナいいですか?」
2人にも意見を聞くと、苦々しい表情で答えが返ってくる。
「仕方ありません。私の手で殺してやりたい気持ちはありますが、今は東門を護る方が先決です」
「騎士さんや衛兵さん、ルーナちゃんの治療をするためには仕方ないよ」
エリスさんとリアナも同じ結論だったので、やりきれない思いを持ちつつ、ボルデラがこのまま去ることを認める。
「賢明な判断ですな。しかしあなた方の許しを得ないでも去ることは簡単に出来ますが」
そう言ってボルデラは魔法を唱える。
これは転移の魔法だ。
この魔力。やはり今の俺と同等以上の力は持っていたのは間違いないな。
「では、さらばじゃ」
「おそらく隠れて見ていたと思うが、今回のカーズブレスレットを解呪したのは俺だ。勇者を殺すなら先に俺を倒してからにしろ」
「ほほう、お主名は?」
「ヒイロだ」
「ふぉっふぉ。ヘルド司令官とザイドが言っていたのはお主か。覚えておこう」
「【
ボルデラの体は光と共に消え、ようやくピリピリとした空気がこの場から無くなった。
「ヒイロちゃんルーナちゃんを!」
俺はエリスさんが抱きかかえているルーナに向かって鑑定魔法をかける。
するとステータスの欄に運命の羅針盤による睡魔の呪い、そして29日23時45分12秒、11秒、10秒と減っていく秒数が視えた。
「大丈夫。魔道具の呪いで寝ているだけだ。期間もあの時聞こえた通り1ヶ月で間違いない」
「良くないけど良かったよ。1ヶ月待てば目が覚めるということだよね」
「ああ」
俺は念のため自分にも【
「それにしてもヒイロちゃん、あんなことを言っても良かったの?」
「何がだ?」
「勇者を殺すなら先に俺を倒してからにしろって」
「別に良いんじゃないか?」
「良くないよ! 私のせいでヒイロちゃんが狙われるなんて我慢できないよ」
「けど結局は意味はないか」
「意味ないってどういうこと?」
「リアナが狙われれば必然的にパーティーを組んでいる俺も襲われるだろ」
「ヒイロちゃん⋯⋯」
私とパーティーを組んで、冒険者になることを覚えていてくれたんだ。
「ありがとう。ヒイロちゃん」
そのことが嬉しくて私はヒイロちゃんの胸に飛び込んでいった。
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