第47話 東門での攻防

 ここからだと北門か東門が近いため、どちらに向かうか迷っているとエリスさんが助言をくれる。


「リアナ様東門に向かいましょう。おそらく北門の方は大丈夫です」


 北門は大丈夫? 騎士さんは四方から攻めてきているって言っていたのに?

 私が疑問に思っているとダリアさんが答えを言った。


「王都の北区画は貴族の住居があるため、他の場所より多くの騎士が投入されていますから~」


 相手の戦力より、護る人の地位で配置が決まるの? そんなことはおかしいと思い唇を噛むが、その姿を見たエリスさんから言葉が発せられる。


「本当にヘドが出ますよね。民を護る騎士団にいながら、護るべき人達を護れないなんて――」


 ひょっとしたらそういう思いがあったから、私の護衛をしてくれるって言ってくれてのかな?

 私は今の発言を聞いて、エリスさんのことが少し好きになった。やっぱり勇者だったら差別せずに皆を護らないとね。


「あの~」

「ダリアさんどうしました」

「今副団長がいいかんじに話をまとめていましたけど、ただリアナ様に好かれたいと思って言っているだけですから~」


 えっ? そうなの?

 私は後ろを振り向くと少し焦った顔をしたエリスさんがいた。


「そ、そんなことありませんことよ」


 口調がいつもと違う、なんだか怪しく見えてきたよ。


「本当ですか~」


 ダリアさんがジト目で見つめると、エリスさんは白状する。


「⋯⋯ほんの少しはそういう考えがあったかもしれない。で、ですが!弱い人達を護りたいという気持ちは本物です!」


 エリスさんはハッキリと私に向かって宣言する。


 王都までの旅で、エリスさんとダリアさんがどういう人か見てきました。

 正直で決して嘘をつかない人だと思っていますよ。


「お二人の事を信じています。危険を顧みず私のわがままに付き合ってくれていますから」

「リアナ様⋯⋯」


 私の言葉を聞いてエリスさんの顔がほころぶ。そしてダリアさんは表情には出ていないが、どこか照れているような気がした。


「良かったですね副団長~。これで次の就職先が決まりましたね~」

「そうですね。恥ずかしかったですが本音を言ったかいがありました。後は目の前の魔物を倒すだけです」


 エーッ! 今のはそういうつもりで言ったわけじゃないのに。


 しかし私はやる気になっている御二人に水を差すようなことを言えなかった。



「リアナ様、東門が見えてきました」


 エリスさんの声を聞いて城壁をみると、40名ほどの衛兵や騎士達が、魔物の進行を必死に食い止めている。

 良かった。まだ東門は落ちていない。

 私達も急ぎ城壁の上へと駆け上がると、すでに50名ほどの死体が地面に横たわっていた。

 もう半分以上の人が殺られちゃったの。その様子を見て東門は既に破られそうな状況だと言う事を理解する。


「リアナ様、どうしますか? 今なら逃げることも可能ですよ」


 死体を見て一瞬怯んでしまったことを、エリスさんに見破られちゃったみたい。私は自分の顔を両手で叩き、気合いを入れる。


「いえ、私達の手で王都を護りましょう」


 前方には200弱の魔物が、東門に向かって突撃をしている。ここの城壁の作りだと、もし門に取りつかれてしまったら上から攻撃をすることが出来なくなっちゃう。だから何としてでも門に近づく前に倒さなきゃ。


 私は1番近くにいる魔物に向かって魔法を放つ。


「【聖稲妻魔法ホーリーライトニング】」


 私の手から放たれた白き稲妻が、魔物の群れに向かってほとぱしる。


「ぎぃぃ!」


 断末魔を上げて20匹ほどの魔物が焼け焦げる。

 その様子を見て、野生の本能で危険と感じとったのか、群れの後方にいた魔物が、私に向かって一斉に炎を吐き出してきた。


 避けなくちゃ!

 けど避けたら他の騎士さんや衛兵さんに当たってしまう。

 私がどうするか考えている隙にエリスさんが前に出る。


「お任せ下さい」


「【聖壁魔法セイントウォール】」


 エリスさんの声と共に、縦横10メートルに渡って光の壁が展開され、炎から私達の身を護ってくれる。


「す、すごいですエリスさん」

「そ、そうですか」


 私に褒められたせいか、さっきまで凛々しき女騎士だったのに、一瞬でデレ騎士に変わってしまった。


「ヤバい! 今の攻撃を目眩ましに門に取りつかれてしまったぞ!」


 騎士さんの指を指す方向をみると、リザードマンが馬のような魔物に乗って近づいてきた。


 ドオンッ! ドオンッ!


 門が魔物達によって攻撃されているけど、城壁の上からだと魔法が届かない。飛び降りて直接魔物達を倒すしかないの? けど一度降りてしまえば、魔物が入ってきてしまうため、東門が開けられることはない。


 どのみちこのままだと門が壊されてしまうので、私は飛び降りる覚悟をする。


「リアナ様、お待ち下さい」

「エリスさん離して! 門が破壊される前に行かないと、街に魔物がなだれ込んでしまいます」


 エリスさんだってそれはわかっているはず。誰かが降りなくちゃいけないなら私が行く。


「リアナ様降りることは許可いたしません」

「だけど魔物を倒さないと門が――」

「行かないとは言っていません。ダリア」

「はいは~い」


 エリスさんの命令でダリアさんは大剣を持ち、城壁から外へと飛び降りる。


「ダリアさん!」


 私が声を発した時には既に着地した後だった。

 そんなあ。これでダリアさんは城壁の内側に戻ることが出来なくなってしまった。


 エリスさんは何で部下を死地に送るようなことを。


 私が膝を着き、絶望に明け暮れていると、城壁の外から何かが飛び乗ってきた。


「リアナ様どうされたんですか膝を着いて~」

「えっ!」


 顔を上げると目の前にはダリアさんがいた。


「どうして」

「普通に下からジャンプして戻って来たのですよ」


 魔法ならまだしも普通に足で飛んできたの! 信じられない。

 私が疑問に思っていると、周りの騎士達が答えを教えてくれた。


「さすがは【剛剣のダリア】だな」

「【聖なる壁エリス】様だって負けてないぞ」

「それと光の雷を出したあの娘はまさか⋯⋯」


 衛兵さんや騎士賛の視線が私に集まる。

 そんな大勢に見られて恥ずかしいよ。

 私は赤面してうつむいてしまう。


「これは良くないですね」


 エリスさんは私が恥ずかしがっているのに気づいて、何とかしてくれると一瞬思ったけど、その真逆のことをしてくれた。


「こちらに御座す方は勇者リアナ様! 皆の窮地を見かねて、学生の身で在りながら加勢に来て下さった! 先程の闇を打ち払う魔法を見たであろう! リアナ様がいる限り私達が負けることはない、このまま奴らから王都を護り通すぞ!」


「うおおおお!」


 エリスさんの号令により、皆さんの士気が最大限に高まっていく。


「エ、エリスさん」


 私はエリスさんの方に視線を向けると、「どうです、これでリアナ様の名声が響き渡りました。褒めてください」的な表情をしている。


 そ、そんな顔をされたら怒るに怒れないよ。


 仕方がないので、私は皆さんに手を振るとさらに大きな声が返ってきた。


「皆! もう1度体を奮い立たせろ」

「勇者様がいるなら勝てるぞ!」

「リアナ! リアナ! リアナ」


 私の掛け声まで始まってしまった。恥ずかしいから止めてほしいよ。

 しかしこの中で1番権力があるエリスさんが、誰よりも大きい声でコールしているから終わる様子はない。


 けれどこれで皆さんのやる気が出るなら、我慢します。


 こうして人族は士気は高まったまま、これから来る魔物の大群と対峙した。



 魔物の陣営にて


「どうやら私の方に勇者がいるようだねえ」


 頭に角を生やした女性の魔族が不敵な笑みを浮かべる。


「普通の魔物達だと苦戦しそうだから、ボルデラ様から頂いたを使うとするか」


 かくして東門では、悪意に満ちたボルデラの企みが襲いかかろうとしていた。

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