第48話 勇者と聖騎士と剛剣士
目の前にいる魔物のは、みるみると数を減らしていく。
遠距離にいる時は私や騎士達が魔法で迎撃し、魔物からの攻撃はエリスさんが防ぐ、そして近づいてきた時はダリアさんが斬り捨てる。
このパターンを幾度か繰り返していく内に、
「やったー! 勝ったぞ!」
「これも勇者リアナ様のお陰だ!」
「エリス様やダリア様の活躍を忘れるなよ」
衛兵や騎士達は200匹の魔物討伐の戦果に喜びをあらわにする。
「まだ第1陣をしのいだだけです。油断しないように」
そうだ、まだ戦いは終わったわけじゃないから気を抜いたらだめだよね。
他の人達もエリスさんの言葉を聞いて気を引き締める。
「ですがあの劣勢の中、皆よくがんばりました」
厳しそうなエリスさんの叱咤の後の激励により、全員の士気がさらに高まることとなる。
上に立つ人は褒めるやり方もうまいなあ。私も将来冒険者学校を卒業した後は、勇者としてみんなをうまく引っ張っていかなくちゃならないのかな?
先頭に立って指揮をするやり方は今まで習ったことがないから、私にできるか不安がないかと言えば嘘になる。どちらかというとこういうことはヒイロちゃんの方が得意だよね。
それにしても、エリスさんとダリアさんはとても強くて頼もしかった。
2つ名を持っているからこの御二人が特別なのかもしれないけど、魔物の攻撃を完全に防いだエリスさんの防御魔法、あれは戦士や僧侶の上位職である聖騎士が使える魔法だった気がする。
確か聖騎士は力と魔力両方に優れ、特に耐久面にかけてはトップクラスの能力を持ち、自分の真なる主を護るときには、スキル【忠義】によって、普段以上の力を発揮できる職業だ。
「副団長の魔法、いつもより広範囲に展開されてないですか~」
「それは真に仕える主を見つけたからです」
エリスさんは自信満々で、私の方に視線を向けダリアさんに返答する。
【忠義】のスキルも発動しちゃうなんて⋯⋯護衛はいらないってことを言いづらくなっちゃったよ。
これはもう御二人を護衛にするしか選択肢はないのかな。
いえ、せめてダリアさんだけでも断ることにしよう。1人も2人も変わらないかもしれないけど、冒険者学校に護衛を2人も連れて登校するなんて偉そうでなんか恥ずかしいよ。
しかしそんな私の考えを見抜いてか、ダリアさんが釘を刺してくる。
「リアナ様、私
もうエリスさんとダリアさんを護衛にするしか無いのかもしれない。
ダリアさんの強さなら、どこでもやっていけると思うけど、私なんかの護衛じゃもったいないよ。
だってさっきのジャンプ力。エリスさんの言うとおり魔法じゃないのなら純粋な足の力になる。そんなことができる職業は戦士系なら剛剣士しかない。
剛剣士は戦士の上位職で、大剣など重い武器を自在に操り、力で相手を粉砕するタイプだ。そのパワーなら地面から城壁までジャンプ出来るのも頷ける。
それに皆さんが2つ名で【剛剣のダリア】とおっしゃっていたので間違いはないと思う。
勇者に聖騎士と剛剣士。
自分で言うのもなんですけど、これだけ珍しい職がいるパーティーなんて滅多にいないと思う。
私はこれからのことが少し頭によぎったが、まずは目の前の危機に対処しなくちゃ。
地平の向こうから何やら近づいてくるのが見える。
あれは? 人? なんで街の外から?
「あちらの方向から人が向かってきていませんか?」
私は平原の奥の方を指差して、2人の意見を聞いてみる。
「人ですか? 私の目には何も見えません」
「私もです~、何かあるのかすらわかりませんね~」
そういえばラーカス村にいた時、ヒイロちゃんからリアナは目がいいなって言われていたっけ。スキルではないけどヒイロちゃんに褒められて嬉しかった思い出がある。
昔のことを考えていたら、ヒイロちゃんに会いたくなってきたけど、これから冒険者学校が始まるから当分会うことは出来ない。
そんな寂しい気持ちになっていると、皆さんからも前からくる何かについて声が上がる。
「確かに勇者様がおっしゃる通りあれは人だ」
「どうしてこんな所に」
「郊外におり、魔物の襲撃によって王都に戻れなかった人達かも知れん」
この場にいる方々が、こちらに向かってくる人達に憶測を立てる。
「御二人はどう思われますか?」
私では判断できないので、色々な経験を積んでいるエリスさんとダリアさんの意見を聞いてみる。
「魔物⋯⋯ではないと思いますが、このタイミングで来ることが少し引っかかります」
「私も同じ意見です~。あの人達の後ろにはまだ魔物の大群がいるのに、何で今こちらに来たのか⋯⋯私ならもう少し様子を伺ってから城壁の中を目指します~」
ダリアさんの言うとおり、先程門へ取りついてきた馬のような魔物のスピードがあれば、直ぐ様追い付かれてしまうと思う。
けれど現実的に、今こちらに向かってくる人達を見捨てる訳には行かないから、衛兵や騎士の方々が東門の所まで降り出迎える。
「念のため私も見てきますね~」
城壁の上には私とエリスさんだけが残り、魔物の進攻がないか確認している。
そして東門が開き、こちらに向かってきている人達が中へ入っていく所を見ていたら、ある共通点に気がついた。
皆さん年齢は若い方ばかりで、青年が4人、女性が3人、後メイドさんのような服装をしている女の子が1人、そして全員黒い腕輪のような物をしている。
耳を済ませると下から衛兵さん達の声が聞こえてきた。
「あ、あなた達はひょっとして神隠しにあった人では」
神隠し? なんだろうそれ?
「最近起こっている事件で、人がいなくなってしまうことです」
私が疑問に思っているとエリスさんが神隠しについて語ってくれた。
「では、いなくなった人達が戻ってきて良かったですね」
「しかし、なぜ今戻ってくるのか。この非常時に見つかるなんて怪しいと思います」
しばらくすると、下の方から話し声が一切聞こえなくなってきた。あれだけの人達の声が聞こえなくなるなんて、いくら何でもおかしい。
エリスさんの顔を見ると私と同じ考えだったようで、剣を取り警戒を強める。
2人で背を合わせ注意を払っていると、下から何かが飛び出してくる。
それは大剣を携えたダリアさんだった。
「ダリア、下で何かがあったのですか」
エリスさんがダリアさんに近づき質問すると、不意にエリスさんの体が地面に向かって倒れていった。
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