なん⋯⋯だと⋯⋯~世界でただ1人の紋章を授かり、あらゆる魔法を使えるようになったが、今では、初級魔法すら発動できず見下されるため、力を取り戻し、バカにした奴らに無双する~
第45話 魔物の大群? そして消えたマーサ
第45話 魔物の大群? そして消えたマーサ
ディアナと再会した翌日。
俺達は宿屋エールの食堂で朝食を食べていた。
今日のメニューはパンとスープで、昨日と同じように朝から美味しいご飯を食べさせてもらっている。
しかし何か1つ足りないと思っていたら、その答えをルーナがくれた。
「今日マーサちゃんがいませんね」
そうだ、マーサちゃんがいないんだ。
会って2日だけど、不在だと物足りないと思わせる。さすが王都1の看板娘だ。
毎日働いているわけじゃないからいない日もあるだろう。
残念だけど今日はマーサちゃんスマイルは諦めるか。
それより今はルーナを観察する。
昨晩とは違い落ち込んでいる様子はなく、いつも通りのルーナに見えるが、表面だけ取り繕っている可能性がある。
俺はその一挙手一頭足を観察していると、
抗議の声が上がった。
「ヒイロくんどうしたの? そんなに見つめてきて」
やっぱり普段通りのルーナだ。ディアナに会ったことは忘れてしまった? いやいや、さすがにそれはないだろう。
それとも昨日思った通り、俺に依存させてしまったのだろうか。
しかしどんなに考えても答えが出ることはない。
ルーナのことを考えていたら食事を食べ終わっていたので、俺達は食堂を出ると、女将さんが話しかけてきた。
「ああ、あんた達。マーサを見なかったかい?」
「いえ、昨日の夕食以降は見ていませんが」
「実は今日の朝、お使いを頼んでから帰ってきてないんだよ」
少なくとも今日は見ていないな。ルーナに視線を向けると首を横に振っている。
「そのお使いの場所はここから近いのですか?」
もしここから2キロ圏内なら探知魔法を使えば、マーサちゃんがどこにいるかわかる。
「そうだねえ、1キロくらい先の八百屋に、野菜を取りに行ってもらっているんだ」
「それなら魔法でわかるのでちょっとお待ち下さい」
「えっ? ど、どういうことだい」
「まあまあ女将さん、見ていてください」
驚いている女将さんをルーナが押し留める。
「【
俺を中心に魔力の波が広がっていき、2キロ圏内の人達を捉える。
しかし俺の魔法でマーサちゃんを見つけることはできなかった。
「どうなんだい、マーサはどこに――」
「少なくとも2キロ圏内にはいないみたいです」
「そんなはずはないよ! あの娘が仕事をほったらかして他の場所に行くなんて!」
女将さんは俺の胸ぐらを掴んで問い詰めてくるが、いないものはいない。
「ちょっ、苦しいです!」
「ハッ! まさか今王都で起きている神隠しに――」
その言葉を聞いて周りがざわめきだす。
「神隠し? マーサちゃんが?」
「消えた人間は結局誰も見つかっていないらしいぜ」
「それじゃあ消えたら最後ってことか」
周りの声を聞いて女将さんの顔が青ざめ、地面に膝をつく。
そしてこの後、さらに最悪な事態が起きる。
「た、大変だ!」
宿屋のエントランスに、1人の男が血相を変えて飛び込んでくる。
何だ? 何かあったのか?
その場にいた者達の視線が、その男に集中する。
「ま、魔物だ! 大群の魔物が王都に攻めてきたぞ!」
その言葉を聞いた者達に緊張感が走る。
「魔物? それは本当なのか」
「ほ、本当だ! 今騎士団の人が避難するよう誘導している」
避難? 避難するということは、騎士団や冒険者達でも守りきることができないほどってことか。これは相当数の魔物がいるようだ。
「に、逃げろ!」
「どこに行けばいいんだ」
「こんな所にいたら殺されてしまう」
この場にいる人達が一斉に騒ぎ動き出す。
けれどもそんな中、1人だけそこに留まっている人がいる。
「マーサ、マーサはどこに⋯⋯」
女将さんは当惑し、わなわなと震えている。
「誰か、誰かマーサを探しておくれ!」
だが皆逃げることに夢中で、その話を聞くものは誰もいない。
「お願い⋯⋯お願いします」
しかし女将さんの悲痛の願いは届くことはない。
そして宿屋には誰もいなくなった。
俺達以外は。
「俺が探しますよ」
「ほんとかい?」
女将さんは頭を上げ、信じられない者を見るような表情をする。
「ヒイロくん、俺じゃなくて
「そうだな、ごめんごめん」
本音をいうとルーナには避難してほしいけど、ルーナの性格からいって、マーサちゃんを置いて逃げるなんて選択肢はないか。
「あ、あんた達いいのかい?」
「だけど1つだけ条件があります。女将さんは避難して下さい」
「何いってるんだい! あたしも探すよ」
やはりマーサちゃんの母親だから自分で探すと言うと思っていた。
「今、王都には魔物の大群が向かってきています。そんな中戦闘職の紋章を持たない人がいたらどうなるかわかりますよね? マーサちゃんが無事でも女将に何かあったらどうするんですか」
「そ、それは⋯⋯」
「マーサちゃんは私のせいだと、一生自分を責め続けますよ」
俺の言葉を聞いて冷静になったのか、女将さんは俺とルーナの手を握る。
「任せていいのかい?」
「「はい」」
俺達は女将さんの言葉に同じタイミングで返事をする。
「私の命より大切な子なんだ。頼むよ」
その手から、女将さんのマーサちゃんに対する思いが伝わって来た。
「では女将さんも避難して下さい」
「わかったよ」
「ルーナ、必ずマーサちゃんを見つけるぞ」
「はい」
俺とルーナは急ぎ宿屋を後にした。
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