第44話 予期せぬ再会

「何でこんな所にあんたがいるの」

 

 ディアナはロングの赤髪、目付きは少しきつそうだが中々の美人だ。

 先程は突然だったためか、憎しみの感情を消せていなかったが、今は平静を取り戻しているように見える。

 それに今の言い方で、ルーナ暗殺に対してクロだということがわかった。


「何でって。一緒に王都へ向かっていたよね」

「そ、そうだったわね。突然あなたがいなくなってビックリしましたわ」


 俺が見るに、互いに互いを恐れている。

 ルーナは自分を呪った相手がいるから、ディアナは殺しを依頼したターゲットが生きていて、その犯人が自分だと疑われるのではないかと思っているからだろう。


 ふとディアナはルーナの指に目を向ける。


「あっ! あなた、指輪はどうなさったの!」


 ディアナの剣幕が凄かったので、ルーナは恐怖で俺の後ろに隠れてしまった。これは答えられそうにないな。

 そんなルーナを見てディアナは苛立ちを覚えている。


「ルーナさん、あなたはいつもそう! 誰かに庇ってもらって! そんなあなたがなんで僧侶の紋章を!」


 誰かに庇ってもらえるということはその人に人徳があるからだ。

 昔のことはよくわからないが、ディアナが言っていることは八つ当たりな気がする。


「今度はその方をたぶらかしたんですか? 気をつけた方がいいわよ。この娘はそういうことが得意ですから」


 俺の後ろに隠れて服を掴んでいたルーナの手に力が入る。

 仲間をそこまで言われたら俺も黙っていられない。


「ディアナさんっていいましたっけ?」

「そうですが何か?」


 名前を呼ばれてジロリと俺の方を見てくる。


「あなたの声をどこかで聞いたことがあるんですよ。確か⋯⋯ラームの街の路地裏で誰かと話をしていませんでしたか」

「な、なんのことですか? 私は南側の路地裏など行ったことございませんは」


 ディアナは俺の視線から明らかに目を逸らす。


「誰も南側なんて言ってませんけど⋯⋯やはりあなただったんですか」


 もう今の言葉で犯人だと言っているようなものだ。


「い、いえ。た、確か路地裏があったのは南側だけだった気がして⋯⋯」


 やはり惚けるか。それならルーナには秘密にしていたことを口にする。


「その時を殺すって聞こえてきたけど」


 俺は殺気を込めて睨むとディアナはヒイッ! と声を上げ、地面に座り込む。


「ちなみに呪いをかけた相手を魅了するようになっていた指輪は取り除いた。そしてを暗殺しようとした奴も俺が衛兵に突き出した」

「なんですって!」

「いずれリーダーも捕まえて依頼者を問い詰めるつもりだ」


 俺の言葉を聞いてディアナの顔が青ざめている。


「べ、別に私には関係ない話しね。と、とにかく少し用事が出来たので失礼するわ」


 そう言ってディアナは来た道とは逆の方向に、急ぎ戻っていった。


「ディアナちゃん待って!」


 俺の背中に隠れていたルーナが前に出て、ハッキリとした声で呼び止めるとディアナはその足を静止させる。


「呪いの指輪をくれたなんて嘘だよね。私、そんなに嫌われていたのかな? 何かディアナちゃんを傷つけるようなことをしてたの⋯⋯そうだったらごめんなさい」


 ルーナは今回の件は全て自分が悪いと思っているのか、ディアナに謝罪する。


「そういう所が嫌いなのよ」


 しかしディアナは何かを呟き、後ろを振り向きもせずそのまま走り去ってしまう。


 俺の方からはその顔は見えないが、ルーナの肩が震えている。

 俺から呪いのことを伝えたけど、まだディアナのことを信じていたんだな。

 争い事が嫌いなルーナらしいといえばルーナらしいが、誰が善で誰が悪かを見極めないと今回のように痛い目をみてしまう。


 とりあえずずっとここにいるわけにも行かないから俺はルーナに向けて魔法を唱える。


「【転移魔法シフト】」


 そして俺自身にも【転移魔法シフト】をかけ宿屋の自分の部屋へと飛ぶ。


 部屋に着くと、ルーナは先程と変わらぬ姿で呆然と立っていた。

 その姿形を見て、俺は声をかけるのを躊躇ちゅうちょしてしまう。

 以前も同じようなことがあったけど、今回は直接ディアナ本人にいわれてしまったようなものだからショックは計り知れない。

 それと最初は呪いの指輪のせいで、ディアナを盲信しているように見えたけど、元々ルーナには依存癖がある気がする。何かをする時や決める時は相手の意見を尊重する。現にこれまでの旅で何かを決定する際は全て俺の意見だった。

 そして今ままで心の拠り所であったディアナからは完全に拒絶されたため、これからどうすればいいのかわからないのかもしれない。


 そんなルーナに向かって俺は言葉をかけるのではなく、態度で示すことにした。


「⋯⋯ヒイロくん」


 ルーナを後ろから包み込むように抱きしめると、その体はいつもより小さく感じる。


「どうしたの?」

「心友が辛い目にあったから抱きしめているだけだ」


 しばらくルーナを抱きしめたままでいると、か細い声で言葉を紡ぐ。


「わたし、ヒイロくんにディアナちゃんのことを聞いていたけど、どこかで信じてた。けど今日のディアナちゃんの様子を見ていると呪いのことは本当だったんだね。それと⋯⋯ヒイロくんが聞いていた暗殺って私のことでしょ」


 やはり気づくよな。

 俺は話すかどうか迷っていたら、それが答えになってしまったようだ。


「やっぱりそうなんだ」


 今のルーナには酷だけど、これ以上は黙っているわけにはいかないな。


「さっきディアナに聞いたように、実はラームの路地裏で、魔法が使えない僧侶を暗殺するって話が耳に入って、それであの時ルーナを探していたんだ」

「どうしてこんなに早くヒイロくんが助けに来てくれたのかずっと不思議に思っていましたが、そういうことでしたか」


 あの時はルーナを助けられて良かったと心の底から思っている。


「この間も言ったけど、ディアナのことは気にするな。今までどおり優しくて、他人のことを考えられるルーナでいいんだ」

「⋯⋯いいんですか。今までの私で。ヒイロくんの迷惑になっていませんか」

「心友の俺が良いって言ってるから大丈夫だ」

「⋯⋯わかりました。私は、今まで通りの私でいます」


 ん? 何か今の言葉の意味がちょっと引っ掛かるぞ。


「けどこれからは悪い奴や自分のことしか考えられない奴を見極めた方がいい。そういう人と付き合うとこっちが疲弊してしまう」

「今後は今を守るようにします」


 悩みが消えたのかルーナの顔に生気が戻ってくる。

 これってもしかして、その依存する相手が俺に変わってないか。

 それはそれでいいのかな⋯⋯いや良くないだろ!

 しかし今の晴れやかなルーナの表情を見て、そのことを指摘することができなかった。

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