第43話 F確定?

「お前ら何を話しているんだ、さっさと来い」


 どうやらこの先生は俺とルーナが話をしているのを見ていたようだ。


「「すみません」」


 俺達は謝罪して、直ぐに先生の所へ向かい左手の紋章を見せる。

 何故かこの人はルーナの左手以外の所をジロジロと見てきて、視線に何か悪意を感じる。


「お前は僧侶の紋章だな。なぜ一般の試験で申し込んだ」


 僧侶の紋章を持つ者は、本来だったら推薦で入学できるから疑問に思ったのだろうか。それにしても声がデカい。


「あの⋯⋯」


 ルーナは先生が威圧的に喋るからうまく話せないでいる。


「平民のグズが! さっさと答えろ!」


 更に大きな声でルーナを問い詰めてくるが、そんな言い方だと益々話しずらいだろ。

 俺は見るに見かねて2人の間に入る。


「理由があって、推薦入試の申し込みに間に合わなかったんですよ」

「貴様には聞いてないがまあいい、お前は合格だから案内を貰ってとっとと行け」


 合格? 合格ってどういうことだ?


「なんだその顔は。お前知らないのか。戦闘職の内戦士や僧侶、魔法使いなど一部の職に関しては願書を出しただけで入学が認められる。ただA~Fクラスを分けるために一応試験は受けてもらうがな。受けなかった場合は自動的にFクラスになるがそんなバカはいないだろう」


 そんな特権があったのか。しかしこれでルーナの入学は認められたから喜ぶべきことだ。


「逆に貴様は規定に記されていない紋章だから合格しても、Fクラスが確定だ」


 どんなに試験の結果が良くてもFクラス?


「なんですかそれ。実技試験や筆記試験で高い点数を取ってもAクラスには慣れないということですか」

「そうだ。ただ1つ間違っているのは劣等紋を持っているお前は筆記試験だけだ。後方支援職に戦闘力なんて期待していないからな」


 そんな理不尽なことがあってたまるか。


「Fクラスはこの学校の掃き溜めがいる所だ。卒業できるだけありがたく思え」

「ヒイロくんは劣等紋でも掃き溜めでもありません!」


 先程とは違い、ルーナが突然大声で先生に文句を言った。


「何だと貴様! 僧侶の紋章だからといっていい気になるなよ」


 この先生の言っていることはこの学校の総意かもしれないが、いちいち言い方が気に入らない。


「ちょっと何をしているのですか」


 先程受付にいたお姉さんがこちらに向かってくる。


「何か問題があるなら校長先生に報告しますよ」

「このガキ達が生意気なことを言ってきただけだ」


 お前の態度も問題だろ。


「本当ですか? 後で詳細を聞かせてもらいますよ」

「ちっ!」


 舌打ちをして男性の先生はどこかへ行ってしまった。

 なんなんだあいつは!

 俺はあの先生の態度に苛立ちを隠せない。


「ごめんなさいね。ダード先生は実力はあるけどちょっと⋯⋯」


 素行に問題があると言いたいようだ。


「とりあえず受付は終わっているようだから、あなた達は行ってもいいわよ」


 イライラした気持ちを持ちながら、俺達はこの場を後にした。



「さっきはありがとう」

「えっ?」

「ほらダードとかいう先生が俺ことを劣等紋って言ってきて、怒ってくれたじゃないか」


 あんなにハッキリと言うルーナは見たことがない。俺のことを思って無理して言ってくれたことが無性に嬉しかった。


「だ、だってヒイロくんが凄い紋章を持っていることは、私が1番よくわかっているから――」


 ルーナは照れ臭そうに語ってくれた。


「それと冒険者学校の合格おめでとう」

「あ、ありがとうございます。でも⋯⋯私なんかより、ヒイロくんの方が冒険者学校に入る資格があるのに⋯⋯」


 ひょっとしたらさっきダードが言っていたことを気にしているのかな。俺は入学出来てもFクラスが確定していることを。


「ルーナにはその資格があると思うよ。だってゴブリンに襲われた時もそうだったけど、俺が守られる立場の人間だったら他人のために動ける人が冒険者になってほしい。それに入学できたら、1番下のFクラスが1番上のAクラスを倒す。そんなことができたら面白いじゃないか」


 そしてニヤッと不敵に笑って見せる。


「ヒイロくん⋯⋯そうですよね! ヒイロくんならきっとできると思います」

「だからルーナはこのチャンスを有効に使えばいいよ。冒険者になってご両親に楽をさせるんだろ?」

「覚えていて下さったんですね」

「そりゃ仲間のことは覚えているよ」


 俺も両親や祖父母が生きていれば、そういう気持ちになったのだろうか。しかしもうそんなことはできないから、その分自分の身近の人を幸せにしていきたい。


「ありがとうございます。私もヒイロくんのパーティーメンバーとして恥ずかしくない成績を残せるよう頑張ります」


 ルーナは両手に握りこぶしを作って気合いを入れた。



 俺達は校門を出ようとした時前方にいる人が、驚きの声で話しかけてきた。


「ルーナ! 何でここに!」


「ディアナちゃん⋯⋯」


 ディアナ? こいつがルーナを暗殺しようとした奴か!


 予期せぬ場所で今、暗殺依頼者と対象者が会うこととなった。

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