第42話 冒険者学校

 宿屋の部屋に入ると、ベットが一つとソファーが一つのシンプルなタイプの個室だった。

 しばらく休んでいるとドアがノックされ、ルーナから夕御飯を食べないかと誘われたので、1階の食堂へと向かう。


 食堂に入ると賑やかな会話、そして美味しそうな匂いが俺の食欲を刺激してきた。


「お腹空きましたね」

「匂いからして、夜ご飯は期待できるかも知れない」


 俺達は座して待っていると、マーサちゃんが料理を運んできた。


「ヒイロさんルーナさんお待たせしました。ホワイトラビットの照り焼きとシチューになります」


 テーブルの上にはマーサちゃんが紹介してくれた料理プラスデザートのような物が置かれている。

 俺達の視線に気づいたのか、マーサちゃんから補足の言葉が足された。


「こちらはイチゴのヨーグルト和えです。私から追加の差し入れになります」


 なるほど商売がうまいな。

 周りを見ると他のテーブルにも同じものが載っている。

 追加と言われるとお得感があって喜ばれるということが。


 しかし俺達はそんな詮索はせず、ありがたく頂く。

 料理の味はうまそうな匂いどおりで、この宿を選んで良かったと改めて思った。


「明日はどうしますか?」

「冒険者学校に行って受験の受付に行こう」


 確か今日から1週間ほど受付をしているはすだ。

 こういうことは早めに行った方がいいだろう。何か良からぬことが起きて申し込みが出来なかったら洒落にならない。


「わかりました」


 こうして明日の予定が決まり、俺達はそれぞれの部屋へと戻った。



 翌朝

 俺は恥ずかしながらドキドキして眠れなかった。

 実際に入学したわけではないが、ようやく冒険者学校に行くことができる。

 眠い目を擦りながら食堂に行くと、ルーナも寝不足なのか、可愛らしくあくびをしていた。


「ご、ごめんなさい。今日冒険者学校に行くのが楽しみでつい」

「実は俺もなんだ。どんな所か想像していたらいつの間にか朝になってた」

「ふふ、私達似た者同士ですね」

「そうだな」


 その後、冒険者学校の話をしていたら、マーサちゃんが朝食を運んできてくれた。


「なんだか朝から楽しそうですね。何の話をされていたのですか」

「冒険者学校について話をしていたの。今日受験票を出しに行くから」


 冒険者という言葉が出て、マーサは目を輝かせる。


「お二人は冒険者になるんですね。憧れちゃうなあ」

「マーサちゃんは冒険者志望なのかな?」

「私は来年成人の儀を行いますので、その時に出る紋章次第ですね。もし戦闘職の紋章を神様から頂ければなりたいと思っています」


 実際マーサちゃんみたいに紋章を貰ってから冒険者になるか決める子はけっこう多い。せっかく修練を積んでも、紋章のせいで成長が見込めないことがあるので、もらった紋章を見極めてから将来を決める。だから成人の儀より前から鍛えていた俺やリアナは、かなり特殊なタイプだった。


「最近は、昨日お話した神隠しが起こったりして物騒ですから、もし冒険者か騎士になったら私を守って下さいね」

「わかった。冒険者になってマーサちゃんを守って上げるよ」

「わ、わたしも頑張ってマーサちゃんを守れるようになります」

「ありがとうございます」


 そう笑顔を残して、マーサちゃんは他のお客さんの所へ行ってしまった。


「それじゃあ冒険者になるために、まずはしっかり食べないとな」

「はい」


 俺達は目玉焼き、ご飯、スープの朝食を頂き、冒険者学校へと向かう。



 冒険者学校は都市の北東部、平民街と下級貴族そして城の中心部の境目にあり、平民からも貴族からも登校しやすい場所となっている。


 学校に着くと広い校庭と三階建ての校舎が見えてきた。建物は歴史を感じさせる作りとなっており、どこか雰囲気が今まで見た建築物とは違うような気がした。


「冒険者学校を受験する方達はこちらで受付をしています」


 若い教師? が案内をしてくれている。


「そ、それでは行きましょう」


 ルーナの顔つきが強張っていてちょっと怖い。


「今日テストを受けるわけじゃないからそんなに緊張しなくてもいいんだぞ」

「わ、私ったら学校の雰囲気に呑まれちゃいました」

「そんなんだと今日も眠れないぞ」

「はわわ⋯⋯そうですねリラックスしないと。深呼吸深呼吸」


 はわわ? いつものルーナから聞くことができない言葉が耳に入ってきた。

 こりゃだめだな。しかし逆に今日が試験日じゃなくて良かったと思うことにしよう。


「それではこちらの用紙に名前と出身地を記載してください。終わりましたらあちらで紋章の確認を行います」


 俺はヒイロ、ラーカス村と書いてお姉さんに提出する。


「あら? ラーカス村って今年入学の勇者様と同じ出身地ね」

「はい。リアナとは幼なじみです」


 俺の答えを聞いてルーナが驚きの表情をする。

 あれ? そういえばルーナにはリアナのことを話していなかったっけ。


「そうなの。それならあなたも有望そうね。では次に、あそこにいる男性の先生が紋章の確認をするから移動して下さい」


 俺とルーナはお姉さんが指定したところへ向かう。


「ヒイロくん、勇者様と知り合いだったんだ⋯⋯」

「家が真向かいだったからね」


 やはり勇者という言葉がルーナは気になるようだ。


「名前がリアナっていうことは女の子だよね」

「うん。いい奴だからきっとルーナとも気が合うから、今度紹介するよ」


 しかし、俺の問いに答えてくれない。何か考え事をしているようだ。


「彼女?」


 ルーナは上目遣いでポツリと話す。


「違うよ。ただの幼なじみだ」


 間違ってはいないはずだ。けれどルーナの考えに例えると、心友と言っていいはずだ。


「そうですか。私もヒイロくんのと仲良くしたいから是非会わせて下さいね」


 ルーナは急に元気になって話をしてきた。さっき考え事をしていたように見えたけどなんだったんだ。


「それでリアナさんはどのような人でしょうか」

「明るくて、正義感が強いやつだな。困っている人を見過ごせない所はルーナに似ているから、きっと仲良くなれるはずだ」

「それは楽しみです」


 俺の予想だが、おそらく2人は心友と呼べるほどの仲になると思う。


「あっ! ただ朝は中々起きないからそこが欠点と言えば欠点だな」

「ちょっと待ってください。なぜヒイロくんはリアナさんが朝弱いことを知っているのですか?」

「それは毎日俺が起こしていたからだよ」


 俺の言葉を聞いてルーナはうつむき、肩をプルプルと震わせている。


「ヒイロくん」


 突然喋りだしたかと思えば、その声はとても冷たい感じがした。


「毎朝起こすなんてそれはただの幼なじみではありませんから」


 そして小さい声で何かを呟いていたが、俺には聞こえなかった。


「どうしたんだルーナ。何か変だぞ」

「知りません、それより早く紋章を見てもらいましょう」


 昨日の部屋を別々にした時といい、今のことといい、女の子はやっぱりよくわからないな。

 そういえば昔リアナにも、ヒイロちゃんは女心がわかっていないと怒られたことがあったっけ。


「早く行きましょう」


 とりあえず今は試験の受付を済ませて、ルーナのことは後で考えよう。

 俺はルーナの後に続いて男性の先生の元へ向かった。

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