第3章 激闘王都ルファリア

第41話 王都ルファリア

 エリベートの街を出ると街道があるが、今までのように土が剥き出しになっていることはなく、綺麗な石畳がビッシリと詰められていた。


 ルファリアまでは歩いて半日もかからない。王都に近いせいか人も多くいるため、今までのように魔物や盗賊に襲われる心配はなさそうだ。


 しまったな。王都の近くがこんなに整備されているとは思わなかった。

 これだと魔物を倒してルーナのレベルを上げることができない。せっかくルドルフ様から頂いた、修練のブレスレットが意味をなさないな。


「今日はいいお天気ですね」


 確かに晴天で、出掛けるのに最適な日だ。


「そうだね、けど魔物を倒してレベル上げする計画が――」

「それでしたら、王都の西に魔物がいる地域があると聞いています。騎士団の方や冒険者の方はそこで訓練も兼ねてレベルを上げているみたいですよ」

「そうなんだ」


 そんな場所があるのか。それなら大丈夫だな。


「それに今まで大変でしたから、王都まではゆっくりしたい気持ちはあります」


 確かにその通りだ。

 ルーナと出会ってからは、ラームへの街道でゴブリンに襲われ、街に着いたら着いたらでルーナが拐われ、そして教会のシスターに俺が殺されかけた。

 そしてベーレの村までの道のりでスライ、スラゾウにエッチな目に遭わされ、村ではサーベルウルフと戦い、エリベートの街道の途中では盗賊達に襲われ、魔獣軍団団長のザイドと激闘を繰り広げた。

 俺としても少し休みたいのが本音だ。


 そしてそんな俺達の思いが通じたのか、王都までは何事もなく到着することができた。


「うわ~」


 ルーナは目の前の光景を見て思わず感嘆の言葉が漏れる。

 今俺達は少し離れた丘の上から王都を眺めており、視界には何処までも続く城壁そして都市の中心には壮大な城が見えた。

 都市の広さはラームの街の10倍はあり、城を中心に上級貴族や騎士団の方々が住み、西側が商業施設、東側は冒険者ギルドや製造業施設、北側は下級貴族が住み、南側が平民街となっているらしい。


「すごいです! さすがルーンフォレスト王国の中心地ですね!」


 興奮気味にルーナが話す。

 ルーンフォレスト王国は他の国と比べると中の下くらいの大きさの国だが、魔王ヘルドを倒した勇者の出身国であるため、今は他国から一目おかれている。


「まずは都市の中に入り、泊まる所を確保しよう」


 この間のようにルーナと同じ部屋にされてしまったら、俺の理性のHPが失くなってしまうのでまずは宿を取ることが先決だ。

 俺達はルファリアの南門を通り、都市の西側の商業施設へと向かう。



「すごいなこれは」


 西側の商業施設は大変な賑わいを見せていた。


「らっしゃいらっしゃい、野菜が安いよ」

「この武器はあの名工が作った剣だ。今なら金貨10枚だよ」

「うちの宿は有名なミシランブックに載った宿だよ。後2部屋しか空いていないから泊まるなら今だよ」


 平民街を通った時も人の多さに圧倒されたが、商業施設はそれに輪をかけてたくさんの人がいる。

 これは歩くだけでも相当大変だぞ。

 俺は人混みの多さに圧倒されていると、不意に左腕が引っ張られた。


「ヒイロくん、はぐれると困るから袖を掴んでてもいいかな」


 確かに初めてくる土地で迷子になったら大変なので、俺はルーナの申し出に対して頷く。


「いいよ、こんな所で離れ離れになったらもう2度と会えなそうだからな」

「はい。では失礼します」


 ルーナは満面な笑みで返事をした。はぐれてしまうと思って不安だったのかな?


 そして高級でもなく、かといってみすぼらしくもない宿屋を見つけたのでここの宿でいいかルーナに聞いてみる。


「ちょっとここの宿を見てみようか」

「私はそんな決められる立場ではないので、ヒイロくんにおまかせします」


 ルーナの了承も得られたので、俺達は宿の中に入ってみる。


「いらっしゃいませ、エールの宿屋へようこそ」


 ドアを開けると入口の所で、メイド服っぽい可愛らしい仕事着を着た12歳くらいの女の子が出迎えてくれた。


「お客さん、お目が高いですね、うちは王都で1番人気の看板娘がいる宿ですよ」

「そうなの?」

「そうですよ」

「ちなみにその1番人気の看板娘は君のことかな」

「はい!」


 女の子は最高の笑顔で返事をする。確かに可愛い服を着ているし、人気はありそうだ。


「そんなに早く看板娘を見破ったのはお客さんが初めてだよ。安くしてあげるから是非泊まっていって下さいね」

「わかった。じゃあ1週間を2部屋でお願いできるかな」

「ありがとうございます。私はマーサよろしくお願いしますね」

「俺はヒイロこちらこそよろしく」

「ルーナです。お世話になります」


 俺はマーサちゃんの愛想の良さで早々に泊まることを決める。


「それでは銀貨5枚になります。食事は朝と夕に付きますから1階の食堂で召し上がってください」


 俺とルーナはそれぞれ銀貨5枚を支払うと、マーサちゃんが部屋の鍵を渡してくれた。


「ではでは、ごゆっくり~」


 俺達は2階の部屋へと向かう。


「ヒイロくん、私は同じお部屋でも大丈夫でしたよ」


 ルーナが上目遣いで問いかけてくる。お金のこと気にしているのかな?

 2人で1部屋なら銀貨8枚で安く泊まることができる。しかし今回は以前とは違い、試験の勉強もしないといけないから、1人部屋の方がいいだろう。


「試験のこともあるし、今回は別々に泊まろう」

「わかりました」


 了承してくれたが、ルーナは少し納得していない表情を浮かべているような気がする。しかしそのことを聞く前に、1階から俺の名前を呼ぶ声が聞こえてきた。


「ヒイロさん」

「マーサちゃんどうしたの」


 なんだろう、何か手続きで不備でもあったのかな。


「もう御存知かもしれませんが、最近王都では突然人がいなくなることがあります。お城の衛兵さん達も調べて下さっていますが、まだ原因がわかりませんので、彼女さんを1人にしないで下さいね」

「か、彼女ですか!」


 ルーナは思わず大声を出してしまう。


「宿屋に入った時から、ヒイロさんの袖を掴んでいたからてっきり――」


「マーサ! ちょっと来て!」


 1階からマーサちゃんを呼ぶ声が聞こえる。


「ではでは、今度こそ失礼します」


 そう言ってマーサちゃんは颯爽と下まで降りていった。

 本当元気な子だな。


 突然人がいなくなることが王都ではあるのか。今まで色々なことが俺の周りで起きて巻き込まれているから一応頭の隅に入れておこう。

 それより今は部屋が別々のことをルーナに聞いてみよう。


「ルーナ、部屋の件だけど」

「別にこのままでいいですよ」


 先程とは違い、ルーナは満面の笑みを浮かべている。

 あれ? さっきは浮かない表情をしていたのに。


 俺は突然のルーナの豹変を理解できず、宿の部屋へと入った。

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