第37話 激闘の末

 長い戦いが終わり、俺は疲れや肩の傷の痛みにより地面に膝を着いてしまう。


「ヒイロくん!」


 ルーナが慌てて走ってきて、俺を支えてくれる。


「大丈夫ですか」

「ちょっと疲れただけだ」

「無理はしないで下さい」


 そしてお爺さんが神妙な顔つきでこちらに向かってくる。


「お主⋯⋯わしと代わってくれ。わしもルーナちゃんに抱きしめてほしいのじゃ」

「いい加減にしろエロじじい! ルーナちゃんは俺の物だ」


 だからお前のじゃないって。


「お爺さん、助けて頂きありがとうございます。で、でも私はヒイロくんのものですから」


 ルーナは顔を赤らめて、彼女として完璧な演技を披露する。


「お、おう」


 その立ち回りの凄さに、2人は微妙な返事をする。


「と、とりあえずお主の傷を癒してやろう」


「【完全回復魔法パーフェクトヒール】」


 暖かい光が俺を包み込み、傷を完全に癒してくれる。


「重ね重ねありがとうございます」

「孫を助けてくれた礼じゃ」


 孫? 孫って誰のことだ? まさか!


「俺だよ俺」


 やっぱりグレイだった!

 だからあの打ち上げた花火のようなものでお爺さんを呼べたのか。

 それにこのお爺さんの孫なら、グレイのステータス値が高いのも納得できる。


 あれだけ強いお爺さんの紋章はなんだろう。孫のグレイは遊び人だから

 おじいさんは⋯⋯気になる。しかし紋章は手袋で隠してあるから、聞くのは失礼な気がするからやめておこう。


「では、わしはもう行くかのう」

「⋯⋯じじい、ありがとな」

「ふぉっふぉっふぉ。たまには孫の面倒をみないとのう」


 そう言って俺達に背を向けるが、何かを思いだしたかのようにまた振り向く。


「そうじゃ、若人に1つアドバイスをしておこうかのう。鑑定は絶対の魔法ではない。お主、氷魔の斧に鑑定を使ったじゃろ」

「はい、使用しました」

「その時にさっきわしが説明した、1度だけ5秒以内に使えることは視えたか?」

「いえ、視えませんでした」


 今の言い方だと本当はまだ何か記載してあったということか。


「魔道具や魔法を使って隠蔽したり、改竄することもできるから鑑定魔法の結果を鵜呑みしてはならん。今回は偽装するために盗賊の指輪を使用しておったようじゃがの」


 俺はスキル【魔法の真理】を使って隠蔽する魔法を確認してみる。

 え~と⋯⋯あった!

 確かに鑑定を防ぐことができるようだ。

 MPもそんなに必要ないし、試しに隠蔽魔法を使ってみるか。


「【隠蔽魔法ハイド】」


 そして鑑定を自分に使ってみるとステータスを確認することができなくなっていた。


。早速その魔法を使うとは――」


 さすが? ザイドとの戦いで極大魔法を使用したからそう言ってくれたのか?


「じゃが魔道具で隠蔽する場合と違って、相手の魔力が高かった場合は視られてしまうので気を付けるのじゃ」

「はい」

「それと最後に⋯⋯」


 おじいさんが異空間収納から何かを取り出している。


「あれでもないこれでもない―」


 ゴミやガラクタが次々と出てくるが、ようやく目当ての物が出てきたようだ。


「見た目もかっこいいし、女の子にモテモテになる逸品じゃ。お主にやろう」


 そう言って柄の部分が翼になっている立派なつるぎを俺に渡してくれた。


「いいんですか。こんなすごい剣をもらって」


 俺は鞘から剣を抜くと、光輝く剣身が姿をみせる。


「孫を救ってくれた礼じゃ」


 ちょっと照れ臭そうな顔をして俺に伝えてくる。

 なんだかんだいってお爺さんはグレイのことが大切なようだ。


「わあ、きれい~」


 ルーナはこの剣に目が奪われている。

 確かにその気持ちはわかる、美しくて見てると吸い込まれそうだ。こんな物をもらってもいいのだろうか。

 しかし先程の戦いで短剣を失っているから正直な話助かる。


「こんな素敵な剣を持てるなんて羨ましいです」

「ふぉっふぉ、ルーナちゃんにはこれじゃ」


 赤い宝石の付いたブレスレットを手渡す。


「エーッ! 私ももらってもいいんですか?」

「いいんじゃいいんじゃ」


 お爺さんはまるで孫にプレゼントを贈るような表情をしている。


「でも⋯⋯」


 ルーナはただでもらうことに気が引けているようだ。確かにこのお爺さんに貸しを作るとエロいことをされる可能性があるな。


「受け取った方がいいと思うがのう⋯⋯お主、鑑定で視てくれんか」


 俺はおじいさんの要望でブレスレットに【鑑定魔法ライブラ】をかける。


【修練のブレスレット】

 身に付けていると経験値が1.25倍になる。


「経験値1.25倍!」

「エッ?」


 鑑定の結果に驚き、思わず声を出してしまった。

 これは伝説級の魔道具じゃないのか!

 今のルーナには最も必用な物だ。お爺さんの欲望があるかもしれないけど受け取ってほしい。


「ではそういうことで、さらばじゃ」


 お爺さんは何か魔法を唱えると一瞬で消えてしまった。


 これは転移魔法だ。


 あのお爺さんには感謝しかないが、グレイの身内とわかっただけで他は全く謎だった。


「さすがは魔王を倒した勇者パーティーの1人、賢者ルドルフ様ですね」

「「エッ?」」


 エドワードさんがお爺さんのことを賢者ルドルフと言った。


 賢者ルドルフ? 勇者パーティー?


「「エッ――――!」」


 ただ者ではないと思っていたけど、まさかそんな凄い人だとは思わなかったぞ。


「私達、賢者ルドルフ様に会ったんだ。すごい、すごいよ! 感激だよ!」


 ルーナは興奮気味に話す。でもその気持ちはわかるぞ。

 魔王ヘルドを倒した勇者パーティーは、今や冒険者の憧れだからな。


「こんなことならもう少し話をしてみたかった」


 けどグレイの身内なら頼めば会わせてくれるのか。

 俺は期待の眼差しでグレイを見る。


「無理だぞ。じじいはエリベートの街にはいると思うが、神出鬼没だから俺もいつでも会えるわけじゃない。今日も2ヶ月ぶりに顔を見たくらいだ」


「そうか、それは残念だ」


 父さん達ともパーティーを組んでいたはずだから、色々と聞いてみたかったけど、またいつか会うことができるかな。


「それではこのブレスレットはどういたしましょう」

「さっきも言ったけどじじいには当分会えないから、もらっちゃっていいんじゃない」

「そ、そうですね」


 ルーナは先程とは違い、愛おしそうにブレスレットを撫でる。

 賢者ルドルフ様に頂いた物だから嬉しくてしょうがないようだ。


 しかし俺にもルドルフ様にもらった剣がある。

 どんな剣か鑑定で確認してみよう。


「【鑑定ライブラ】」


 シーン⋯⋯。

 えっ?

 まさか隠蔽魔法がかけられているのか!


「グレイ、鑑定魔法でこの剣がなんなのか、視れないのだけれど」

「じじいはたまにイジワルなことをするけど、無駄なことはしないからきっと何か意味があると思うぞ」


 よもやこの剣の正体を知りたければ、賢者ルドルフを越える魔力を身に付けろという無茶なことじゃないよな。


「それより今日はもう疲れたから休もうぜ。三人とも家に泊めてやるよ」


 今は深夜だからどこの宿泊施設もやってないだろう。その申し出はありがたいので俺達は全員頷き、グレイの家へと向かう。



「グレイ坊っちゃまお帰りなさいませ」


 深夜にも関わらず執事が出迎えてくれる。それもそのはず、グレイの家は上級貴族にも劣らないほどのお屋敷だった。

 そうだ、グレイはルドルフ様の孫なんだ。立派なお屋敷に住んでいてもおかしくない。

 正直色々と突っ込みたかったけど、深夜からの逃走劇で皆疲れていたため、その日は早めに休んだ。



 翌日。

 屋敷の入り口の所で俺達はお別れのあいさつをする。


「昨日も申しましたけどもしラームの街にお越しの際はご連絡下さい。必ず、救って頂いたお礼をさせていただきます」


 そう言ってエドワードさんは馬車に乗って去って行く。


「じゃあ俺達も行くわ」

「グレイくんお世話になりました」


 俺達はグレイや執事さんに挨拶をする。


「ヒイロはいらないけどルーナちゃんはもう一泊してもいいんだよ」


 その言葉にルーナは苦笑いを浮かべる。グレイは最後までグレイだったな。


「まあ、ヒイロ。危ねえ目にあったけど、お前と一緒にいてそれなりに楽しかったぜ。ルーナちゃんを幸せにしろよな」

「ん? ルーナを? なんで?」

「彼女だろ」


 そうだ、そういう設定だった。すっかり忘れてた。


「ありがとうございますグレイくん」


 俺の代わりにルーナが答える。


「たくっ、しっかりしろよな。そんなんじゃ俺が奪いに行くぞ」

「残念だがそんなことはさせないぞ」


 言葉と視線でグレイを牽制する。


 ふと、このやり取りもなくなるかと思うと何だか少し寂しくなってきた。


「それじゃあなグレイ」

「ああ、またな」

「さようなら」


 こうして魔獣軍団団長ザイドとの激闘は終わり、俺達は王都ルファリアへの旅へと向かった。

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