第36話 決着の刻
「おせえぞじじい!」
「しょうがないじゃろ。思っていた場所より遠かったからのぉ」
どうやらあのお爺さんがグレイの切り札のようだ。
今使っている魔法でこのお爺さんが凄い人かわかる。
飛翔魔法は転移魔法並に魔力がないと使用できないことと、その飛翔魔法を発動しつつ中級の攻撃魔法を放った。
「誰だ貴様は!」
ザイドは突然現れた乱入者を睨み付け、名前を訪ねる。
「ふぉっふぉっふぉ。ただの老いぼれじゃ気にするな」
そう言いつつ、いつの間にかルーナの所まで移動している。
「じょ、嬢ちゃん、魔法を使ったせいで持病の癪が⋯⋯」
そして体調が悪いのかルーナの方に倒れ込みしがみつく。
「大丈夫ですか、お爺さん」
「しばらく支えてくれれば大丈夫じゃ」
そう言ってルーナの腰に抱きついているが、その時の様子は、ぐへへと聞こえてきそうなくらい、エロイ目付きをしていた。
「何やってるんだエロじじい!」
グレイの跳び蹴りがお爺さんの後頭部に炸裂し、ゴロゴロと転がっていく。
お爺さんはヨロヨロと立ち上がり、グレイに向かって文句言う。
「何するんじゃ! 老い先短い老人の楽しみを奪うつもりか!」
「俺のルーナちゃんに触るんじゃねえ!」
お前のじゃないけどな。
正直、お爺さんが現れてからの展開に着いていけてない。
それは俺だけではなかったようで、ザイドが苛立ちを見せる。
「貴様ら舐めているのか!」
ザイドの殺気が今まで以上に膨らみ、ルーナとエドワードさんはあまりの恐怖に座り込んでしまう。
「じじいが変なことを言うから怒ってるじゃねえか」
「若い者はせっかちで困るのう」
それでも2人の態度は変わらない。ホントいい度胸してるよ。
「しかし、ルーナちゃんをこのままにはしておけんから、そろそろやるかのう⋯⋯。そこの若いの」
俺のことか? お爺さんに呼ばれ耳を傾ける。
「わしの魔法の3秒後に魔法を放て」
氷魔の斧の特殊能力を知っているのか、的確な作戦を伝えてきた。
「なんじゃ、驚いた顔をして。あれは氷魔の武器じゃろ。昔あれを持った奴と戦ったことがあるから弱点もわかっておる」
グレイの切り札は魔法だけでなく、知識や経験も豊富のようだ。
「わかりました。お爺さんに従います」
お爺さんは杖に膨大な魔力を集めている。
「何をごちゃごちゃと言っている! 死ねえ!」
ザイドはこちらに向かって口を開き、炎の玉を3つ吐き出してきたため、俺は防御魔法を唱えようとするが、その前にお爺さんの魔法が完成した。
「【
炎の渦がお爺さんの杖から放たれると、何もなかったかのように炎の玉を飲み込み、そのままザイドに向かって一直線に突き進んで行く。
「甘いわ!
ザイドを中心に氷の壁が三重に展開され、炎の渦がその壁にぶち当たる。
1枚⋯⋯2枚⋯⋯3枚⋯⋯そしておじいさんの魔法は消滅する。
そしてさらに俺の魔法が完成し、ザイドに向かって解き放つ。
「行けぇ! 【
地獄の業火がザイドに向かって
勝った! 俺は魔法が放たれた瞬間に勝利を確信する。
しかしザイドは俺の魔法に対して笑みを浮かべる。
なぜ笑う。
いくらなんでもこの極大魔法を食らえばただじゃすまない。
大丈夫、地獄の業火はもう間もなくザイドを燃え尽くすはずだ。
「残念だったな。 果てろ!
ザイドを中心に氷の壁が再度展開される。
「バカな!」
俺の魔法と氷の壁が激突し、互いに消滅する。
俺とグレイの予想が外れた! 確かに宝玉は輝いていなかったはず。
ダメだ。
これで俺のMPは尽きた。
短剣も破壊され、肩に傷を負っている。
ザイドには勝てないのか。
「だから弱点はわかってると言っておるだろ」
【
「何!」
俺達の魔法を防ぎきったと思い、完全に油断したザイドは【
「ぐわぁぁぁ!」
燃え盛った炎の中からザイドの断末魔が聞こえる。
「勝った⋯⋯の⋯⋯か」
俺は目の前の光景を見ながら、思わず言葉を漏らす。
「そうじゃ、お主のお陰での」
「そんな⋯⋯お爺さんが力を貸してくれたからです」
お爺さんが、もう一発魔法を放っていなかったら勝てなかっただろう。
だけど、何でザイドは直ぐ様武器の特殊能力を使えたんだ。
「斧の宝玉が輝いていなかったのに、どうしてザイドは氷の壁が張れたのですか」
「本来は5秒経たんと特殊能力は使えんが、1度だけ5秒待たずに使用することができるのじゃ。しかしそれを使うと、その日に宝玉の輝きが戻ることはなくなるから、1日特殊能力を使うことはできなくなる」
「そうなんですか。俺とグレイはそのことに気づかず、危うく殺られるところでした」
「どんなことがあっても油断をしてはならん。例えば今もの――」
お爺さんの視線の先には、炎に焼かれたザイドの姿がある。
「くっくっく⋯⋯見事です。まさか氷魔の斧の特性を見破られるとは思いませんでした」
「お主は切り札を出した後、油断したのが敗因じゃ」
俺も【
「その言葉覚えておく」
「逃がすと思うか?」
お爺さんとザイドの間に火花が飛び散る。
「今回は引かせてもらうぞ」
ザイドは黒い翼のような物を取り出してきた。
「転移の翼か」
転移の翼? 魔道具の一種か。
「ヒイロに続いて楽しみが増えた⋯⋯また会おう」
そう言葉を残すとザイドの体は黒い光に包まれ、何処かへ消えてしまった。
俺はもう会いたくないけどね。
何はともあれ、お爺さんの協力もあって、なんとか魔獣軍団団長ザイドを退けることができた。
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