第33話 新たなる強敵
「なんですって!」
「そういうわけでザッシュ、いやギードは盗賊で、エドワードさんの宝石を目当てに近づいてきたのです」
俺は掻い摘んでこれまでの経緯を説明すると、エドワードさんはとても驚いた表情をしていた。
それもしょうがないか。俺もあの時トイレに行っていなければギードのことを疑ってなかったかもしれない。
そして俺はギードの左手の手袋を取ると【短剣にバンダナの紋章】が出てきた。
「そんなあ」
人が良いエドワードさんは目の前の光景に絶望する。しかし、今はそんなことをしている暇はない。
「ヒイロは【
「使えるぞ。それとすでにさっきから魔法で確認している」
後方2キロくらいの所に、昼間襲撃してきた6人がこちらに向かってきている。だが、もう俺達が眠っていると思っているのか、警戒心がまるで無さそうだ。
「後ろから盗賊達が来ているけどどうも油断しているみたいだ」
「おそらく自分達の作戦がうまくいったと思っているのか」
グレイも俺と同じ見解のようだ。
「それならおとりを使って誘き寄せるのはどうだ」
「おとりか。ちなみに誰がおとりになるんだ」
3人の視線がグレイに集まる。
「ちょっと待て! ヒイロはまだしも、ルーナちゃんとエドワードさんまで、か弱い俺におとりになれって言うの!」
お前はか弱くないだろ。ステータスはちゃんと確認しているんだぞ。
2人は罰が悪そうにポツリとしゃべりはじめる。
「グレイさんは逃げるのが得意そうだと思って」
「わ、わたしもルーナさんと同じです」
ルーナとエドワードの言葉を聞いて、グレイは両手を目の所に持ってきて泣き出す。いや泣いた振りをしている。
「じゃあそれで行こう」
「いやだからちょっと待てい!」
どうしても嫌なのかグレイが反対する。
「わかった。しょうがないから縄で縛ったザッシュさんを置いて、近寄ってきた所を一網打尽にするのはどうだ」
俺の提案に全員が頷く。
「それでは残念だけどこの作戦で行きましょう」
「残念じゃないから!」
グレイの突っ込みもあり、こうして盗賊に対する方針が決まった。
静まった暗闇の夜。1人の男が猿ぐつわを噛まされてう~う~と唸っている。(ちくしょう! こんなガキどもにやられるとは。頭、来るんじゃねえぞ。罠だ!)
しかしギードの叫びは虚しく夜の闇に飲み込まれていく。
そんな思いも知らず盗賊達はたいまつに火をつけて、馬車の方へと接近していた。
暗闇の中、明かりをつけるなんて相手に自分の位置を知らせているようなものだ。このことから盗賊達は油断していることが伺える。
「今回もチョロい仕事だったな」
「そうっすね」
「どんな宝石があるか楽しみです」
まだ何も手にしていない奴らが、もう成功したかのようにはしゃいでいる。おそらく睡眠薬を飲ませるやり方法で何度も甘い汁を啜ってきたのだろう。
しかしその幻想も今終わる。
「か、頭! あそこに誰かいやすぜ」
街道に縛られて置いてあるギードが映る。
「あれはギードじゃねえか! 何で縛られてんだ!」
ギードは首を振って何かを伝えようとするが、盗賊達は仲間を助けに一斉に駆け寄る。
「どうしたんだ! 何があった!」
「う、うしろだ!」
猿ぐつわを外されたギードが、ようやく仲間に伝えようとするが、その時はすでに遅かった。
【
6つの白い牙が盗賊達を捕らえ、そのまま拘束する。
「なんだこれは!」
「魔法なのか!」
「抜けようとすると牙が食い込んでいてえ!」
スキル【魔法の真理】から選んだ拘束魔法だが、これはかなり使えそうだな。
抵抗しなければ拘束するだけで済むが、抜け出そうとすると鮫のような牙が体に食い込み苦痛を与える。
これは今後頻繁に使いそうな魔法だ。
「もう身を以って体験しているけど、逃げようとすると牙が食い込むから気を付けた方がいいよ」
「それを早く言え! ぐわぁぁ!」
俺に文句を言うときに力んだことを、牙は逃げだそうとしたと捉えたみたいだ。
「い、意外とあっさりと終わっちゃいましたね」
隠れていたルーナ達が姿を現す。俺も思いの
「これはヒイロの魔法がすげえからだ」
「そ、そうですよね! 私もヒイロくんの魔法を凄いと思っていましたが、今まで他の人の魔法を見たことがなかったので、本当に凄いかわからなくて」
ルーナは俺の魔法がグレイに誉められて、自分のことのように喜んでくれている。
「まるでじじいの魔法だ」
グレイが独り言のように言葉を発した。
じじいの魔法? 誰のことだ。
俺は、グレイが何気なく話した言葉が頭の中から離れなかったが、エドワードさんの声で引き戻された。
「ヒイロさん、この方達はどうしますか」
「とりあえず縄で縛って、エリベートの街で衛兵に引渡しましょう」
エドワードさんとグレイが盗賊達を拘束し、地面に座らせた。
「どうするよこれ」
「夜は2人体制で見張りを立てた方が良さそうですね」
「うわ、面倒くさ」
寝る時間が少なくなるがしょうがない。こいつらに逃げられたらまた悪さをするからな。
「それなら見張りを立てなくて済むようにしてやろう」
声がする方を振り向いたら、強烈な殺気とともに冷たい空気が駆け抜けてきた。
「逃げろ!」
俺は全員に見えない敵の存在を知らせ、近くにいたルーナを抱き
「ほう、今の攻撃をかわしたか。戦い甲斐がある
奴ら? どうやらグレイも今の攻撃を避けたみたいだ。
エドワードさんは元々俺達から離れていたから無事のようだ。
だが⋯⋯。
「ヒイロくん。盗賊さん達が⋯⋯」
俺達の近くにいた盗賊は、まるで彫刻のように綺麗に凍りついていた。
もうこいつらは助からない。
俺は盗賊達を殺した奴を見据える。
身長は2メートルくらいで、人間の顔をしているようだが、所々に鱗があり、何より人と違うのは尻尾があることだ。
亜人か? 俺が疑問に思っていると奴が話しかけてきた。
「我が部下であるサーベルウルフを殺したのは貴様らか?」
サーベルウルフが部下? ということは奴は魔族か。
正直に話して恨みを買うのは勘弁願いたいが、奴の目を他の3人に向けないためにも俺は本当のことを話す。
「サーベルウルフを倒したのは俺だ。それがどうした」
「くっくっく、なるほど、先程の反応の早さを見る限り、それも可能だな」
こいつは部下が死んだというのに笑っている。
「別に恨んではいないから安心しろ。弱いものは淘汰される。ただそれだけだ」
「安心しろと言うなら、その殺気をやめてくれないか」
俺やグレイはいいけどルーナとエドワードさんは、殺気に当てられてさっきからずっとガタガタと震えている。
「て、てめえは何者なんだ!」
グレイが未知の敵に対して正体を問いかける。
「俺か? 俺は大魔王様の
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