第29話 盗賊から馬車を守れ

 俺達はベーレの村を出て次の目的地へと向かう。


「次はエリベートの街ですね」


 ルーナが言うエリベートの街は王都に近いこともあり、ラームの街より栄えているところだ。そして1年前に魔王を倒した勇者パーティーの1人である、賢者ルドルフの出身地でもある。

 エリベートはここから徒歩で約2日かかるため、今までと違いどこかで野宿をしなければならない。どこか夜営をするのに良い場所があればいいけど――。


「あれ? ヒイロくん。荷物はどうしました?」


 ルーナは俺が手ぶらでいることに気づいたようだ。


「荷物はちゃんと持ってきているよ」


 俺は異空間から夜営用のテントを取り出す。


「えっ? えっ? 今のはどこから出したのですか」

「異空間収納魔法だよ」

「聞いたことがあります。商人のスキルか、魔力が高い人が使える魔法だって」


 力を取り戻した今ならできると思って試してみたら、見事に成功したので、今は短剣以外の荷物も全て異空間に収納してある。


「ルーナの荷物も入れておこうか?」

「ありがとうございます」


 ルーナは荷物を下ろし、俺に渡そうとしたが、何かに気づいたのかまた、リュックを背負い始めた。


「やっぱりいいです。その⋯⋯下着とかも入っています」


 顔を紅潮させてことわった理由を教えてくれる。

 そ、そうだよな。下着を異性に渡すことはできないよな。

 2人の間に気まずい空気が流れる。

 何か、何か別の話題はないかと考ていると、不意に男声の叫び声が聞こえてきた。


「だ、誰か助けてくれ!」

「ヒイロくん今のは」

「誰かが襲われているようだ」


 今の声は前方から聞こえてきた。100メートルくらい先に馬車が見え、何やら金属音らしき音が響いている。


「ルーナ、前方の馬車だ! 俺が先行するからフォローを頼む」

「はい! わかりました」


 俺は馬車の元へ走りながら、現状を把握するため、探知魔法を唱える。


探知魔法ディテクション


 俺を中心に魔力の波が広がっていき、前方の情報を伝えてくれる。

 盗賊らしき者5人が3人の男と戦っている。そして馬車の近くにある木の上にも弓矢を構えているやつがいるから、気を付けた方が良さそうだ。

 俺はルーナに向かって指示を出す。


「5人の男が馬車を襲っているようだ。後木の上にも1人いるからルーナは閃光玉をそいつに向かって投げて目を眩ませてくれ」

「わかりました」


 俺は急ぎ馬車の元へ駆けつけるが、視線を向けると盗賊の1人が商人風の男の剣を弾き、尻餅をつかせている所だった。


 まずい。間に合うか!


 盗賊のシミターが商人の男に向かって振り下ろされる。


「うわぁ!」


 商人の悲鳴が街道に鳴り響く。


 カキンッ!


「どうにか間に合った」


 俺は何とか盗賊の前に踊り出ることができ、短剣でシミターを受け止めることが出来た。


「大丈夫ですか!」


 俺は倒れている商人に話しかける。


「は、はい」


 返事は返ってくるが、腰を抜かしてしまったようで動けないみたいだ。


「なんだてめえは!」


 盗賊は俺が受け止めたシミターに力を込めてくる。どうやら俺をここに釘付けにして、木の上にいる仲間に弓矢で狙わせる作戦のようだ。


 しかし、それは読んでいる。

 ルーナは射手に向かって閃光玉を投げようとするが、その前に何かの攻撃をくらい、地面に落とされた。


「くそっ! ずらかるぞ」


 俺と戦っていた奴の一言で、盗賊達は街道から外れたところに逃げていった。

 意外と退散するのが早かったな。射手が見つかったら逃げることが決まっていたのだろうか。

 俺は疑問に思ったが、とりあえず今は考えるのを後にして、襲われた人達の所へいこう。


「怪我はありませんか?」


 俺は地面に座っている商人に向かって話かける。


「あ、ありがとうございます。お陰で助かりました」


 しかし、商人は体を起こそうとするが、立ち上がることができない。俺の予想通り腰を痛めてしまったようだ。


「ヒイロくん。回復魔法をかけてもよろしいですか」

「ルーナ、お願いできるか」

「はい」


 ルーナは商人に向かって回復魔法をかける。

 これでこの人は大丈夫だな。

 そしてルーナが魔法をかけている間に、一緒に戦っていた2人がこちらに向かってくる。


「皆様見ず知らずの私のために、加勢していただき、ありがとうございました」


 商人の男が全員に向かって礼を言う。

 どうやら2人も、商人と知り合いというわけではないようだ。


「いや、いいってことよ。困った時はお互い様だ」


 腕っぷしが強そうな男が、殊勝なことを言う。


「俺は近くにいて巻き込まれただけだ。君みたいな可愛い子がいれば積極的に助けにいったけどね」


 俺達と同じ年くらいの軽そうな男は、見た目通りルーナをナンパしてきたが、ルーナは困った顔をして俺の背後に隠れてしまった。


「なんだ、彼氏持ちか。それなら手を出さないから安心していいよ。以前恋人がいる女の子に手を出したら、彼氏に半殺しにされたことがあるから――」


 見た目で判断してはいけないが、本当に手を出してこないか怪しい。

 俺はルーナのためにも、一応この青年を警戒することにした。



「皆様これからエリベートへ向かわれるのですか?」


 商人の問いかけに全員が頷く。

「先程助けて頂いたお礼に、もしよろしければ私の馬車でお送りしますけどいかが致しますか?」

「それは助かるぜ」

「楽できるからその方がいいな」


 腕っぷしが強そうな男と軽薄そうな男は馬車に乗るようだ。


「どうしますか? ヒイロくんにお任せします」


 ルーナは俺に意見を求めてくる。ルーナのレベル上げのためにも歩いて魔物と戦っていきたいけど、王都に早く行ってそこでレベル上げをする方向でもいいか。


「では、俺達も乗せてもらってもいいですか」

「わかりました。ですがその前にまずは旅をする仲間を知るため、自己紹介をしませんか? 私は宝石商をしているエドワードと申します」


「俺はザッシュだ。用心棒をしている。友人に会いにエリベートへ向かっている」

「俺はグレイ。都会にいる可愛い子と知り合うために王都へ行くんだ。後もう1つ用事があるけど秘密だ」


 グレイの自己紹介を聞いて、益々ルーナを狙っているのではないかと思ってきた。


「俺はヒイロ、冒険者学校に入るために王都を目指している」

「私はルーナです、ヒイロくんと同じ理由で王都へ向かっています」


 エドワードさんは左手に商人である【硬貨の紋章】が。しかしザッシュさんは手袋をしていて、グレイは上着で隠されていて何の紋章かわからないな。


 しかし、基本紋章は隠す物であるから2人が一般的である。そうしないといざ戦闘になった時に対処されてしまうからだ。もし【剣の紋章】で戦士とばれてしまうと、遠距離攻撃をされてしまったり、【杖の紋章】で魔法使いだと見破られてしまうと、接近戦で攻められてしまうからだ。

 念のために後で鑑定魔法を使って確認しておくか。


 ちなみに俺の紋章は見られても何の紋章かわからないから特に隠していない。むしろわかる人がいたら教えてほしいから、自分から見せている。

 ルーナは⋯⋯たぶん人が良いからあまり気にしていないのかも知れない。今度隠すように言っておくか。


「では、エリベートまでこの5人がパーティーになるので、よろしくお願いします」


 こうして俺達は即席のパーティーを作り、馬車に乗ってエリベートへと向かった。

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