第28話 やはりお前だったか

 村長の依頼を達成した翌朝。


 あれ? 俺はいつの間に寝ていたのだろう。

 どうやらスライムとの激闘、サーベルウルフ討伐で疲れていたようだ。

 ルーナはどこだ? ベットにはいないようだが。

 今日は昨日みたいに一緒に寝るということはしなかったようだ。

 俺はベットから起き上がろうとした時、背後から気配を感じたので振り向くと、ルーナの顔が間近にあり、俺は思わずビックリしてしまう。


「おはようヒイロくん」

「おはようルーナ」


 朝から美少女の顔を至近距離で見る。最高ですね。

 なんか照れ臭いな。

 俺は清々しい気分でベットから降りて旅の準備をする。


「ルーナは昨日と違って、今日は起きるのが早いんだな」

「昨日は特別です。普段と比べると今日は遅い方ですよ」


 僧侶の紋章の人は教会に勤める方が多いから、朝が早いイメージがある。

 だからルーナも早起きなのかな。いや、紋章によって起きる時間が違うなんてそんなことはない。

 もしそうならばリアナは寝坊助だから、勇者は朝が弱いということになってしまう。

 だから紋章起床理論などない。


 ギシッ!


 不意に廊下から、床を踏み歩いた音が聞こえてくる。

 誰かが外にいる?

 気配はドアの外で止まったまま、まさか俺達を監視しているのか。

 一番最悪のパターンは、強奪者スナッチャーがサブリーダーを捕まった報復に、俺達を襲撃しにくることだ。

 俺は念のために【探知魔法ディテクション】をかけると、やはりドアの向こうに1人いるようだ。


 俺は音を立てず、部屋の入口まで移動し、勢いよくドアを開ける。


「ワアッ!」


 ドアのカギ穴から中の様子を伺っていたのか、若い女の子が転がり込んできた。


「えっ? 受付の子?」

「あはは⋯⋯おはようございます。夕べはお楽しみでしたね」


 ルーナはそのセリフを聞いて顔が真っ赤になる。昨日ラームの街で教わったから、今はこの意味がわかっているようだ。

 しかし宿屋では若い二人が泊まると、必ずこの言葉を言うことになっているか。

 そのことも聞きたいが、今は何で覗いていたのかを問い詰めよう。


「何で中を覗いていたのかな?」

「な、なんのことですか。ドアを開けようとしたら開いてビックリして転んじゃっただけです」


 俺の問いに答えた声が若干震えているから、これは嘘をついているな。

 それにドアを開けられたくらいで、前のめり転倒することはない。


「それじゃあ女将にも今の状況を話して、検証してもらおうかな」


 女の子は女将という言葉に反応し、慌てふためく。


「わ、わかりました。言いますから女将に話すのはやめてください」


 最初からそう言ってくれれば良い物を。



「それで何で覗いてたんだ」


 女の子は俺の問いに顔を赤らめて、ポツリと話し出す。

 ん? なんで顔を赤くするんだ。


「その、お若い二人が同じ部屋に泊まると、お楽しみでしたね的なことをするかと思って」

「そ、そ、そんなこと、し、してませんから」


 女の子の言葉にルーナが反論する。

 しかし、今のどもった言い方だとしているように思われるぞ。もし俺が女の子の立場だったら、こいつら昨日やったなと断定する。


「わ、私彼氏がいて、まだお姉さん達みたいに大人の階段を登っていないからどんなことをするか興味があって――」


「そんな階段。の、登っていませんから」


 だからどもるのをやめい。


「けれどどんな理由があるにせよ、覗きはいけません。このことは雇い主の方にお伝えいたします」


 ルーナの言葉により、女の子の顔が青ざめる。


「それだけはやめてください。この間も別の件で怒られているので、これ以上問題を起こしたら私――」


 今回は特に何か見られたわけでもないので、許してもいい気がするけど、ここはルーナに任せてみるか。


「今回見つかったのが私達だから良かったですけど、怪しい人達だったらどうするのですか?」


「そ、それは⋯⋯」


 確かに俺達だったから良かったものの、下手すると迷惑防止条例の罪で賠償としてお金を取られるかもしれない。

 なるほど。ルーナの狙いがわかったぞ。ただ許すだけだと、罪の意識も軽く、またやってしまうかもしれないから、見つかったらどうなるかを踏まえて話、事の重大さを伝えてから許すつもりだ。


「ご、ごめんなさい。お姉さん達が素敵なカップルに見えたからつい――」


 おそらくルーナの話まだ終わらないだろう。

 そういえば教会には罪を聞く懺悔室があるから、僧侶はこういうことが得意なのかな。


「⋯⋯許します」


「えっ?」


 俺の予想より早く女の子を許したため、思わず声が出てしまった。


「ほ、本当ですか」


「今神より、許し、信じてあげることも大切ですと神託がおりました」


 ルーナって神託を聞くことができるの?

 いやいや、そんなことできないでしょ。

 まさか素敵なカップルって言われて、許したわけじゃないよね。

 神に仕える者がそんなことするはずがない。

 しかしルーナは真面目な顔をしているが、一瞬ニヤケている姿を見てしまったので、俺は信じることができなくなってしまった。


「人間誰しも過ちを起こします。次に同じ事をしないで下さいね」


 ルーナは先程までの僧侶としての威厳は見る影も無く、乙女の顔になっているように見える。


「本当に申し訳ありませんでした」


 そう言って女の子は急ぎ部屋を出ていった。


「ルーナ本当にいいの?」


「神は許されたので大丈夫です」


 本当かよ!


「さあ、ヒイロくん今日も良いお天気です。がんばって王都まで行きましょう」


 そして清々しい表情をしたルーナと共に、俺達は宿屋を後にした。



 宿を出ると村長さんが見送りに来てくれていた。


「ヒイロさん、ルーナさん昨日はよく眠れましたかな。それともお疲れですか」


 ルーナはハテナを浮かべている。今の言葉の意味がわかっていないようだ。

 やはり村長が、俺達を1つの部屋に泊めるよう、裏から手を回していたのか。

 昨日見た感じでは、宿屋に俺達以外の客はいなかったからな。


「冒険者学校を卒業する頃にまた来てくだされ。その時には最高の馬を用意させて頂きます」


「楽しみにしています」


 俺達は村長と握手をかわし、次回の再会を約束する。


「しかし、あなた方が村に来てくれて良かったです。あのベイルという奴のせいで危うく冒険者を誤解するところでした」


 ベイルだと!


「村長。まさか3日前に来た冒険者は、戦士の紋章を持っている奴ですか」


「そのとおりじゃ。今思い出しただけでも腹立たしい」


 あいつはどこへ行っても迷惑をかけるどうしょもない奴だな。


「そのベイルは冒険者ではなくて、俺達と同じ冒険者見習いですよ」


「なんじゃと! 我々を騙したのか! しかしなぜそれをヒイロさんが御存知なのですか」


「残念ながら俺と同じラーカス村出身で、同い年なんです」


 本当に最悪だよ、あいつと同じ村に生まれるなんて。俺の運は大丈夫かと心配したいくらいだ。


「そうですか。しかし冒険者でないなら、衛兵に話をすれば捕まえることができますか?」


「証拠がないので難しい所ですが、一応伝えた方がいいと思います。もしベイルが別の事件を起こせば、衛兵さんも怪しい奴と認定して念入りに調べてくれますから」


「わかりました。ではそのようにしてみます」


 まさか。いや、やはり傍若無人の冒険者はベイルだったのか。

 今まではラーカス村内のことだったから地主の息子ということで許されてきたが、ここはもうそんな特権は使えないのがわかっていないのか。

 もし目の前で犯罪を犯したら、同じ村のよしみで、俺が捕まえてやるから覚悟しておけよ。


 俺は新たな決意を胸にベーレ村を後にした。

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