第27話 未来の予約
「おお! まさか魔物を倒して頂けるとは」
村長さんは俺達が魔物を討伐できないと思っていたようだ。
だけど冒険者見習いが、本来Eランク相当のパーティーが挑むサーベルウルフの群を狩るなんて普通は思わないからしょうがないか。
「依頼達成でよろしいでしょうか」
「はい! 大丈夫です」
村長は小躍りしそうな位、喜びを表している。とても最初に会った時、怪訝な目で俺達を見ていた人物と同じには見えない。
「それでは報酬の方は?」
「ええ、もちろん支払います。好きなだけこの村に泊まって下され」
こうして俺達は初めての依頼を無事に達成することができた。
魔物が討伐されて安心したのか、村人達が凍り漬けにされたサーベルウルフの周りに集まっている。
「こいつがおら達の家畜を食い散らかした魔物か」
「おっかね、この牙で噛まれたら一溜まりもねえべ」
「あそこにいるわっけえ二人が退治したんだとよ。一昨日きた冒険者とはえれえ違いだ」
俺とルーナを称賛する声が聞こえてくる。
ルーナは誉められなれていないのかどこか恥ずかしそうだ。
「皆様が喜んでくれて良かったですね」
「そうだな。この光景を見て益々冒険者になりたくなったよ」
「ヒイロくんもですか? 私もです」
ルーナも俺と同じ思いを抱いてくれてて嬉しい。
困っている人を自分の意思で助けることができるから、冒険者はやりがいがある。だからこそ一昨日現れて、依頼を達成せず金だけを奪っていった冒険者の存在が許せない。
「2人で冒険者になろうな」
「はい」
俺とルーナは改めて冒険者になる決意をした。
俺は今、凍り漬けになったサーベルウルフを調べている。
今回襲撃してきた魔物は毎日決まった時間にくること、あまりにも統率がとれ過ぎていること、そして閃光玉に対する対処の早さから、テイマーの紋章を持つ者に操られていたのではないかと考えているからだ。
もしテイムした魔物であるなら、体のどこかに呪印がはずだ。俺はそのために火魔法を使わず、体の隅々まで見ることができる水魔法で凍らせることを選択した。
2匹の魔物の体をじっくりと観察する。
首、足、手、指。
しかしどこにもテイムされた証を見つけることを出来なかった。
どういうことだ。何もないということは、これはただの野生の魔物なのか。いや、そんなはずはない。俺はもう一度2匹の魔物を隅々まで、見てみるが、やはり何もない。
俺はサーベルウルフに疑念を抱いていると、背後から声をかけられる。
「ヒイロさん」
話しかけてきたのは村長だった。
「あの⋯⋯」
何か俺に伝えたいのか、言いづらそうな表情をしている。
なんだろう。俺が魔物をじっくりと注視しているからおかしく見えたのだろうか。
村長は神妙な顔で地面に座り、俺達に向かって土下座をする。
どうしたんだ。いきなりこんなことをして。
周りにいた村人達も何事かと思いこちらに視線を向けてくる。
「魔物を討伐して頂いて、満足な報酬も出せず申し訳ないのですが、恥を忍んでもう1つお願いがございます」
目上の人にこんなことをさせるつもりはないが、俺は村長の真剣な表情を見て、そのまま言葉を聞くことにする。
「今回の魔物襲来によって、家畜は半分ほど失われ、無け無しの金も一昨日冒険者に奪われ、村は今年の冬を乗り越えて行くことができないかもしれません。そこで図々しい願いだとは思いますが、このサーベルウルフ2匹を我々に譲って頂けないでしょうか」
周囲にいる村人を見ると皆痩せ干そっていて、服装も所々繕った後が見られる。
サーベルウルフの毛皮と爪は武具の素材として使われているから、金貨10枚くらいにはなるだろう。このお金で村が冬を越せるなら、渡した方が――。
でも、それで本当にいいのか。何も対価を出さず楽して素材をもらえば、この村が堕落してしまうのではないか。
それにこれは二人で狩った魔物だから、俺の一存では決められない。
「私は魔物を討伐するのにあまり役に立っていないから、ヒイロくんが決めてください」
ルーナは答えを俺に一任するようだ。
しかし、もしルーナが決めるのであれば、おそらく村人達に無料で渡しているだろう。
俺はルーナのこと、村人のことを考えて結論を出す。
「わかりました。このサーベルウルフ2匹はあなた方にお譲りします」
「おお、ありがとうございます」
俺の答えに村人達は喜び、そして安堵する。
「ただし!」
俺の言葉によって村長達の動きが止まる。
「2~3年後にまたベーレ村に来ますので、その時に一番良い馬を2頭安く売ってください」
村人達は俺の願いに胸を撫で下ろす。
「わかりました。この村は馬の産地。必ずや最高の馬をお売りすることを約束しましょう」
こうしてベーレ村のサーベルウルフの騒動は幕を閉じた。
「では、お部屋はこちらになります」
俺達は村長と共に宿屋へと向かい、受付にいた若い女の子に部屋まで案内してもらった。
「あの、もう1部屋準備してほしいのですが」
「えっ? なんでですか?」
この人本当に驚いているよ。昨日の件もあり、俺の精神的HPは瀕死寸前ですよ。ルーナのためにも今日は部屋を別にしてもらわないと。
「俺達は恋人同士じゃないから、さすがに同じ部屋はまずいと思います」
「ですが本日は他の部屋は空いていません」
空いていないって何で? 俺達村長の依頼をやり遂げたのに。
俺は店員さんに食い下がろうと声をかけようとした時、ルーナに左腕を引っ張られた。
「昨日も同じ部屋だったし、別に私はいいですよ。ヒイロくんが嫌ならしょうがありませんけど」
俺に取って一大事のことを淡々と話す。
ルーナさんや冷静なふりをしているみたいですけど。顔を真っ赤にして言っても可愛いだけです。
「では、そういうことで。ごゆっくり~」
店員の一言もあり、俺とルーナはまた同じ部屋で寝ることになってしまった。
宿屋の部屋に入るとベッドは1つだけ。今回はソファーで寝るという選択肢を選ぶことはできないようだ。
「ル、ルーナ。本当に同じ部屋でいいのか?」
やめるなら今のうちだ。何かがあってからだと遅いぞ。
「先程も言いましたけど、昨日も同じ部屋に泊まりましたし、私達は、こ、心の友達だから別にいいのです」
その心の友達の定義がおかしいような気がするけど⋯⋯。
「そ、それよりなぜ報酬の件を、お馬さんにしたのかを教えて下さい」
部屋の件が有耶無耶になるけど、ルーナには聞く権利があるから話しておこう。
「今ベーレの村から何か報酬をもらうと、村が潰れてしまう可能性があるから未来にもらうことにしたんだ。それにこれから冒険者になって世界を回るなら馬があった方が楽だなと思って」
「なるほど。でもなんで2頭購入すると言ったのですか」
「俺とルーナの分」
指を差して誰の物か補足する。
「わ、わたしですか? そ、それって冒険の旅に私も着いてこいってこと⋯⋯。ヒイロくん誘ってくれてうれしいです」
ルーナは顔を赤らめて喜びの言葉を口にする。
やばい。
今回の報酬はルーナももらう権利があるから、2頭でお願いしただけだとこの笑顔を見たらもうそんなこと言えない。
けれどルーナは性格も良く、一緒にいると元気をもらえるから、それもいいかなと思ったので訂正することはしない。
「ルーナは冒険者になってやりたいことはないのか」
しかし返事はない。
「ルーナ?」
ルーナの方を見ると、目を閉じて寝ているようだ。今日正式ではないが、初めての依頼だったから疲れて寝てしまったのかな。
そういえば、俺も今日初めての依頼だったな。
そう考えたらなん⋯⋯か俺も⋯⋯ねむ⋯⋯くなって⋯⋯きた。
こうして二人は1つのベットの上で、安らかな寝息を立てて眠ってしまった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます