第26話 不自然な魔物
夕暮れ時、俺とルーナは農具を置く小屋に隠れてサーベルウルフを待ち構えている。
「魔物は俺が倒すから、ルーナは家畜を守る方を頼む」
「頼ってくれてうれしいけど、その役目私に出来るでしょうか」
ルーナは任せたられたことに対して不安があるようだ。
もし今冒険者ランクが与えられたとしてもルーナはFランクだろう。
本来Eランクパーティーに相当するサーベルウルフと戦うのは難しいけどやりようはある。
「これを渡しておくから、もし魔物が来たら投げてくれ」
俺はバッグの中にある、ボールのような物を取り出す。
「こ、これは⋯⋯わかりました。ヒイロくんの期待に答えられるようがんばります」
ルーナに渡したのは閃光玉の魔導具で、敵は倒せないが、一時的に自分や家畜を守ることができるはずだ。
戦う=敵を倒すわけではない。後方にいたとしても役に立つということをルーナに感じ取ってほしい。特に僧侶は後衛職だから、今回は支援が魔法から魔導具に変わっただけで、いずれ今日の実践が役に立つ時が来るだろう。
俺達は身を潜め、獲物が来るのをじっと待つ。
するとすぐに何かの遠吠えのようなものが聞こえてきたので【
思ったより数が多いな。バラバラに来られると困るので固まっている内になるべく数を減らしたい。
「ルーナ、魔物が来たら最初に閃光玉を投げてくれ。目が眩んだ所で一発魔法を叩きこむ」
「わかりました」
サーベルウルフのいる方に体を向けて身構えていると、草むらから次々と何かが飛び出してきた。
「今だ!」
俺は掛け声と共に目を閉じ、ルーナは手に持っていた閃光玉を前方の魔物に向かって投げると、光の洪水が辺りに広がっていった。
「キャウンッ!」
サーベルウルフは虚をつかれたようで、犬のような鳴き声を上げその場に
俺は目を開けると同時に、目標に向かって魔法を唱える。
ルーナが作ってくれたチャンスを無駄にはできない。
【
俺の手から放たれた魔法が炎の波となり、サーベルウルフを飲み込んだが、4匹ほどまだ目が見えていない状態で【
うそだろ。なんで今のをよけることができるんだ。
4匹の魔物は俺からは距離を取り、目が見えるようになるのを待っている。
やはりさっきの魔法は視力が回復していない状態でかわしたようだ。野生の感が働いたのか? そんなものがあるなら俺もほしい。
サーベルウルフな姿形が見えてくる。
さっきは魔法を唱えることに集中していたので気づかなかったが、上顎犬歯が恐ろしく尖っていて、少なくとも20センチくらいはあるので、あの歯で噛まれたら、どの部分だろうと体に穴が空きそうだ。
さすがサーベルの名前は伊達じゃないな。
目が見えるようになったのかサーベルウルフ達は、俺を敵として見据え、
軍隊のように横一列に隊列を組んで突撃をかけてくる。
俺はその一糸乱れぬ攻撃に対して魔法を唱えようとするが、突如4匹のうちの三匹が左に方向転換をして、家畜がいるルーナの方へと向かう。
なんだこの魔物達は。統率がとれ過ぎてないか。
「お願い!」
ルーナは3匹の魔物達に向かって、先程のように閃光玉を投げつけると、光が広がり、辺り一面が白き世界へと変貌する。
しかし、サーベルウルフ達は動きを止めない。
いくらなんでも、あの光をまともに浴びて走れるはずがない。
俺はサーベルウルフを注視してみると奴らは目を閉じて走っていた。
こいつら本当に魔物か? いくらなんでも対応が早すぎるだろ。
3匹の魔物は勢いを落とさないまま、ルーナに向かって襲いかかる。
「キャーッ!」
ルーナの悲鳴が夕暮れの村に木霊するが、そんなことは関係なしにサーベルウルフは獲物を食いちぎるため口を大きく開ける。
まずい! いくらルーナのレベルが上がったとはいえ、このサーベルウルフの攻撃をかわすことはできない。
俺は自分に向かってきた魔物の攻撃は魔法で迎撃せず、身を捻ってかわす。そしてルーナと3匹の魔物の間に魔法を放った。
【
突如生まれた炎の壁に2匹のサーベルウルフが突っ込み、その体は燃え尽きて灰となって消える。
これで残りは2匹だ。
無惨な姿になった仲間を見て、ルーナの方に向かっていたサーベルウルフは一度下がり、こちらに攻撃してきた1匹と合流する。
「ヒイロくんありがとう」
「この魔物は普通の魔物と違って、頭が切れるから気をつけていこう」
今までのサーベルウルフの動き、何かがおかしい気がする。閃光玉にはすぐに対応し、まるで軍隊のように訓練された動きをする。
このレベルだったら、Eランクのパーティーでは狩ることはできないぞ。
この後も何をしてくるかわからないから、早めに決着をつけた方が良さそうだ。
俺はルーナと魔物を狩る時に使った【
やはり当たらないか。
しかし避けられても俺は【
「ヒイロくん」
その様子を目にして、ルーナが心配そうな表情を浮かべる。
傍から見ると当たりもしない魔法を連発で撃ち、ただMPを消費しているだけに見えるからだ。
しばらく同じ行動を続けると、サーベルウルフは開けた場所へと移動する。
よし!
俺は麻痺魔法ではなく、範囲魔法を唱える。
【「
空気中の水蒸気が細氷となり、サーベルウルフごと辺り一面を氷の世界へと変えた。
「やったぁ」
動かなくなった魔物を見て、ルーナは喜びの声を上げる。
上手く凍らせることができて良かった。
先程まで使っていた麻痺魔法はここまで誘き寄せるための布石だ。
周囲に家や家畜、畑などがあり、広範囲の魔法を使用することができなかったため、麻痺魔法を使ってこの場所まで追い込んだ。
そのまま火魔法で倒しても良かったけど、どうしても調べておきたいことがあったので凍らせることにした。
こうしてベーレの村を苦しめていた鋭い牙を持つサーベルウルフは退治された。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます