第25話 とんでもない冒険者?
スモールボアを倒した後、街道沿いを歩いてベーレの村へ向かう途中、数匹の魔物と遭遇し戦闘することとなった。
しかし、先程と同じように俺が魔物を麻痺させ、ルーナが止めを刺すやり方で問題なく倒すことができ、ルーナは2つだけレベルが上がる。
そして夕方前にベーレの村に着くことができた。
ベーレの村を見ると広大な畑や、牛、豚、馬がたくさんいるので農業や畜産が主体の村のようだ。
「ヒイロくん見てください。お馬さんがいっぱいいますよ」
ルーナの視線がある方を見ると、軽快なリズムで走る馬の姿が見える。
いつかこんな馬に乗ってみたいもんだ。
しかし、俺は馬に乗ったことがないので、その前に乗馬できるようにならないとな。
まずは宿をとるために宿泊施設を探しに行く。
村の中を進んでいくと、馬の世話をしている中年の男性がいたので、俺は話しかけてみる。
「あの、お仕事中すみません。今日この村で宿泊したいのですが、泊まれる場所を教えて頂けませんか」
男性は訝しい目で俺達の方を見てくる。
「あんたら、冒険者か?」
「いえ、冒険者の見習いです」
俺の言葉を聞いて目付きが変わり、睨んでくる。
「一昨日、冒険者を名乗る男に酷いめにあったからその質問に答えたくねえな」
冒険者に酷いめに遭わされた?
「それはどういうことでしょうか?」
「話すのも腹立たしいことだ!」
男性は苦々しい顔をして怒りの言葉を発した。
よほど嫌なことをされたのだろうか。
「俺からは何も言いたくない。もしここに泊まりたいのであれば、あそこに村長の家があるからそこで聞け」
そう言って男性は馬に乗って走り去ってしまった。
「ヒイロくんどういうことでしょうか」
「よく分からないな。とりあえず男性が教えてくれた村長の家に行こうか」
「はい」
俺達は中年の男性が教えてくれた村長の家へと向かった。
トントン
「失礼します。どなたかいらっしゃいませんか」
俺はドアをノックし、人がいないか確認すると、家の中から足音のようなものが聞こえる。
「誰だ」
ドア開け1人の老人が顔を覗かせる。
「すみません。今日この村に泊まらせて頂きたいのですか」
「お主ら冒険者か? いや、それにしては若い」
「今年冒険者学校の試験を受けようと思っています」
「冒険者の見習いか。だが冒険者にかわりはない。残念ながらあなた方をこの村に泊める場所はない」
先程の中年男性と同様に冒険者のことを好きじゃないようだ。
なぜそこまで冒険者を毛嫌いするのだろう。
「先程馬の世話をしている方から、一昨日冒険者を名乗る男に何かされたとお聞きしましたが、何があったのですか?」
老人は目を閉じて何かを考えている。
そしてポツリと冒険者を嫌う理由を語る。
「今この村は夕暮れ時になると長い牙を持った狼、サーベルウルフの群れが現れて、家畜を襲うのです」
サーベルウルフ! Eランクのパーティーが挑む依頼だ。
「そして一昨日村を通りかかった冒険者の男が、退治すると言って、前金として全額支払ったのですが――」
「まさか持ち逃げされたのですか」
「いえ、実際に村を襲ってきたサーベルウルフとは戦いました。しかし群れの一番小さい魔物だけを倒して、敵わないと思ったのか、そのまま逃げ出してしまったのです。そして我々が依頼料を返してほしいと言うと、1匹だが討伐は討伐だと言ってそのまま金を持って村を出て行かれました」
「依頼は冒険者ギルドを通さなかったのですか?」
「冒険者ギルドを介して依頼を立てると、金額が上がってしまうので――。それと毎日サーベルウルフが襲ってくるため、冒険者を待つ時間がなかったのです」
ギルドを通していないのか。
こういう違法行為を起こさないために、ギルドを通しているのだが、農村とかだと金額のことや時間の問題もあって依頼を出すのは難しいのか。
それにしてもそいつは、冒険者の風上にも置けないやつだな。
「依頼を書面にしていないこともあり、衛兵に訴えることもできず――」
老人は下を向き落ち込んだ表情を見せる。
「そういうことで、村人は冒険者に対して良い感情は持っていない。サーベルウルフもそろそろ現れるし、あんたらはとっとと出ていってくれ」
この村の人達にとって冒険者は、信用できない存在になってしまったんだな。
今後、もし本当に困った時があっても冒険者を頼らず、下手をすると村が壊滅するかもしれない。
ベーレの村をこのままにしていいのか。
俺は横にいるルーナに視線を向けると、何か言いたそうな表情をしている。
「あの、ヒイロくんなんとか出来ませんか」
「俺達で魔物を倒すってこと?」
「悔しいけど、私の実力だと力が足りないです。でもヒイロくんなら――」
本当はルーナ自身が助けたいだろうに、自分の能力が不足していることを自覚して、俺に断腸の思いで託してきた。
「まさかあなた方がサーベルウルフを退治して頂けるのですか」
困っている人を助けられるようになる。
俺が冒険者になる理由の1つだ。
「わかりました。俺達が魔物を退治しましょう」
老人の依頼を承諾すると、ルーナの表情が明るくなる。
「ほ、本当にサーベルウルフを討伐して頂けるのですか!」
「はい、任せてください」
俺の言葉に老人が一瞬喜ぶが、すぐに落胆してしまう。
「しかしわしらには依頼料を払うお金はもう⋯⋯」
「報酬はなしで大丈夫です」
まあ、今はお金はいっぱいあるからな。
「な、なんですと!」
「その代わりに、うまく依頼を達成できたら、今日ベーレ村に泊まらせて下さい」
「そんなことでよろしいのですか」
「はい、それで結構です」
「ありがとうございます、ありがとうございます」
老人は俺の手を取り、感謝の言葉を何度も言ってくる。
「私からもありがとうございました」
そう言った他人のために動けるルーナの笑顔は、どこかリアナに似ていた。
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