第24話 勇者? の逃走

 それにしても、このスライムは強かったな。

 とても最弱の魔物とは思えない。

 俺は、ルーナと素晴らしい戦いを繰り広げたスライムに【鑑定魔法ライブラ】をかけてみる。


 名前:スライ

 性別:不明

 種族:スライム族

 レベル:12

 HP:52

 MP:19

 力:D

 魔力:E

 素早さ:D

 知性:E

 運:A


 レベル12⋯⋯だと⋯⋯!

 確かスライムのHPは、最大でも10だと聞いたことがある。

 こいつはその5倍以上もある。強いはずだ。

 もう1匹は名前がスラぞうで、スライと同じくらいの能力を持っていた。


 ちなみにルーナはどれくらいのステータスなんだろう。

 ちょっと確認してみるか。

 ルーナに向かって鑑定魔法をかけてみる。


鑑定魔法ライブラ


 名前:ルーナ

 性別:女性

 種族:人族

 レベル:2

 HP:8

 MP:12

 力:F

 魔力:E

 素早さ:E

 知性:C

 運:E


 俺はルーナのステータスを見て言葉が出ない。

 なんでこんなに弱いんだ。この能力だったら普通のスライムでも、今と同じ目に遭ってもおかしくないぞ。


「ルーナ、自分のステータス値がどれくらいか、把握しているか」


 思いきって聞いてみる。


「わからないです。2年前の成人の儀の後すぐに魔法が使えなくなってしまいましたから」


 なるほど、もしわかっていたら【聖約】を結ぼうなんて思わないよな。

 俺は【鑑定魔法ライブラ】で見たステータス値を紙に書いてルーナに渡す。


「レベル2ですか⋯⋯」

「うん」


 ルーナは鑑定の結果を見て、絶望して肩を落とす。

 正直な話このステータスだと、冒険者学校の一般の入試で受かるのか不安になってきた。

 そして合格できなかったらお金を稼ぐことができず、俺の奴隷になってしまう。


 奴隷のルーナか――。もしそうなったらメイド服でも着せて――。ちょっとそれもいいなと思ったが、頭を振って思い直す。


「このままだと冒険者学校に入れないかもしれないぞ」


 ルーナが落ち込む姿は見たくないが、心を鬼にして現状を伝える。


「もし僧侶の紋章で優遇されて入学しても、このステータスだと1ヶ月で銀貨10枚稼ぐのは厳しいと思う」

「レベル2では難しいですよね」


 ルーナが俺の言葉を聞いて益々落ち込んでしまった。


「だから王都に着くまで、なるべく魔物を倒しながら行こう」

「えっ?」

「魔物を倒せばレベルが上がって、ステータス値も上がるから、冒険者学校の入学試験にも合格できるよ。俺も手伝うからさ」

「ヒイロくん⋯⋯、すみません私のために」


 ルーナは申し訳なさそうな表情で、謝罪してくる。


「そういう時は、ありがとうの方がうれしいな」

「うん、ありがとう」


 そう言ってルーナは俺の胸に飛び込んでくる。


「私、ヒイロくんと友達になれて本当に良かったよ」


 感謝の言葉を述べつつ、ルーナは抱きしめた両手に力を入れてくる。

 お腹の所に柔らかい2つの山が当たって気持ちいい。

 このままだと下半身がえらいことになりそうだ。


「ル、ルーナ。友達はこんなに密着しないと思いますが」


 俺の理性が持つうちに離れるよう促す。


「わ、わたし達は心の友達なので、これくらい普通です」


 本当に普通なのか? 俺の常識が間違っているのか?

 確かにラーカス村を出たことがない俺が、世間一般を語るのはおかしいと思うが――。


 いつまでこの気持ちいい状態が続くのだろうと考えていたが、不意に終わりが訪れた。


「兄ちゃん達昼間からイチャついていいなあ」

「見ちゃダメよ」

「俺達もせめて腕を組ながら行くか」

「バカ」


 冒険者のカップルが通りかかって、俺達が抱き合っていることをからかってきた。

 その言葉を聞いて二人とも慌てて後退る。


「い、今は魔物を退治すること考えよう」

「そうですね、抱きしめ合うことは後でもできますから」


 えっ? また後でするんですか! これ以上そんなことをされたら、俺の心のHPがやばいことになっちゃいますけど。



「さしあたってレベルを上げるためには、このスライムから倒していけばよろしいでしょうか」


 ルーナは短剣を構えながら、先程麻痺させたスライム達に照準を合わせる。


 えっ! あんなに素敵な時間をプレゼントしてくれたスライム達を殺しちゃうの!


「倒してはダメでしょうか?」


 ダメだと言いたい所だけど、そんなことを言ったらルーナに軽蔑されてしまうから言葉にできない。


 くそっ! 見殺しにするしかないのか。

 俺は勇者2匹を助けることができないほど無力なのか。

 絶望に落とされた俺に、一筋の光が舞い降りた。


「ルーナ! 後ろから魔物がきているぞ」

「えっ?」


 ルーナの視線が、背後にいる小型イノシシのスモールボアに向く。


「俺が魔法で麻痺させるから、その間に倒してくれ!」

「わ、わかりました!」


 俺はスモールボアに向かって魔法を放つ。


麻痺魔法スタン


  雷を食らい、体がビクンッ! と反応し、その後動かなくなる。


「今だルーナ!」

「はい!」


 ルーナは動けなくなったスモールボアに向かって短剣を突き下ろす。


 ここだ!

 俺はスライムの麻痺を治すため、状態回復魔法をかける。


浄化魔法クリア


 蒼白い光が包むと、スライム達は動けるようになり、大きい岩の方へと走って行く。

 そして見えなくなる直前に、2匹共俺の方に体を向けて何かを言いたそうな表情だった。

 その姿は俺にお礼を言っているかのように見える。

 何言ってるんだ。お礼を言いたいのはこっちの方さ。

 スライにスラぞう、お前達のことは忘れない。また会える日までその名前は心に刻んでおくぞ。


 こうしてスライム達はこの場から立ち去って行った。



「見てください。ヒイロくんのお陰で魔物を倒すことができました」


 どうやらルーナはスモールボアを倒したようだ。


。この調子で魔物を倒していこう」


「はい。次は私に恥ずかしい思いをさせたスライムですね」


 ルーナは先程までスライム達がいた場所に視線を送るが、既にそこには魔物がいなかった。


「あれっ? いないです」

「どうやら麻痺が解けて逃げちゃったみたいだな。しょうがない、次の魔物に切り替えていこう」

「残念ですけど仕方ないですね」


 こうしてスライム達はヒイロのお陰で逃げ延びることができた。

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