第30話 ルーナの演技力?

 俺とルーナは盗賊に襲われていた商人を助け、商人が所有している馬車に乗ってエリベートへと向かっていた。


「いや~、馬車に乗れて助かったな」

「そうですね。エリベートまで2日間歩くことは覚悟していましたから」


 グレイが気兼ねなく俺の肩を組んで話しかけてくる。

 なんだこの人は? 初対面の人に気安くないか。


「ヒイロくんって何歳なの?」

「15歳です」

「おっ! マジで! 俺も15歳なんだ。なら敬語なんていらないぜ」

「わかった。じゃあグレイって呼ぶけどいいか」

「いいぜ。ヒイロ」


 なんだ。話してみると結構普通な感じがする。

 思ったよりはいい奴なのかもしれない。


「それであのルーナって娘も15歳なのか?」

「そうだけど」

「金髪童顔、スタイル良し! げへへ、最高だな。俺を紹介してくれよヒイロ」


 前言撤回。やっぱりいい奴じゃなく、危険人物のようだ。目が犯罪を犯す一歩手前の変質者に見える。


 ルーナはそのいやらしい目付きを感じてか、俺の陰にささっと隠れてしまう。

 このままだとルーナはグレイの舐めるような視線に堪えながら旅を続けなくてはならないことになってしまう。


「2人は恋人同士じゃないでしょ?」


 若い男と女が2人で旅をしていれば、ほぼ彼氏彼女の関係だが、グレイは俺達が恋人同士ではないことに疑いの目を向けてきた。


「ヒイロとルーナちゃんはカップルに見えないこともないけど、付き合ってる空気が感じられないんだよな」


 まさかこんな早く見破られるとは。こいつやるな。伊達にチャラくないか。


「実は昨日恋人同士になったばっかなんだよ」

「ふえっ」


 俺の答えにルーナは変な声を出し、そしてどういう意味か理解したのか頬を赤くする。


「恋人としてまだ1日目だから、そういう風に見えないのかも知れないな」


 俺はルーナの肩に手をやりこちらに抱き寄せる。

 これもグレイにチョッカイ出させないためだ。心の友ならこれくらい大丈夫だよな。

 ルーナに視線を向けると、真っ赤な顔になり、足に力が入っていない。


「話を合わせて」


 俺は小声で伝えると、ルーナは目が覚めたようにハッとなり、グレイに向かって宣言する。


「しょ、しょうです。私達はこ、こ、こい⋯⋯恋人同士なんです!」


 ルーナさん噛んでますよ。これじゃあグレイに付き合っていると信じてもらうことができないぞ。

 グレイは俺とルーナの目をジット見る。

 やばい。嘘をついていることを見破られたか。

 ここで目をそらしたら負けな気がするので、俺もグレイの目を見つめ返す。

 しかしルーナは見られていることが恥ずかしくて、目をそらしてしまう。


 バレたか!


「やっぱりルーナちゃん可愛い」

「ただ、ルーナを見たかっただけなのかい!」


 俺はグレイの頭をスパンッと叩く。


「いてっ! 中々いい突っ込みじゃねえか」


 しまった! つい勢いでやってしまった。

 ちょっと馴れ馴れしくしすぎてグレイは怒っているかも知れない。

 しかしグレイは俺の考えとは裏腹に右手を差し出してきた。


「気に入ったぜ! よろしくな」


 よかった。怒っていなかったみたいだ。

 俺はグレイの右手を取りがっちりと握手をする。


「ルーナちゃんもお近づきの印に握手しよ」


 ルーナはおずおずと右手を出すが、グレイの笑みが、でへへと聞こえてきそうなほど下衆かったので、もう一度俺がグレイと握手をする。


「俺の彼女の手に気安く触らないでくれるかな」

「なんだよ過保護だなあ。まあいいや、今度ヒイロが居ないところでやれば――」


 出会って間もないけど、グレイはかなりの女好きだということがわかった。


「私に触れていいのは彼氏のヒイロくんだけだから、グレイくんごめんね」


 ルーナは幸せそうな笑顔で応対する。

 慣れたのか演技が上手くなってきているぞ。


「残念だけど諦めるか。けどもしヒイロと別れた時はすぐに教えてね」


 しかしグレイは簡単には諦めず、その様子を見てルーナは苦笑いを浮かべていた。


「ザッシュさん、若い子達は楽しそうですね」

「私にもあのような時期がありましたよ」


 エドワードとザッシュは、ヒイロ達の様子を自分の青春時代に照らし合わせて見ていた。



 馬車に乗ってしばらくした後、俺は先程の戦いの話題を切り出してみる。


「そういえばさっき襲われた時に、射手を倒して頂きありがとうございました」


 一応ルーナが対処するはずだったから特に問題なかったが、助けられたことは事実なのでお礼を言っておく。

 その時エドワードさんは俺の後ろで尻餅をついていたので、ザッシュさんかグレイのどちらかだ。


「別に気にしないでいいぜ。俺らもヒイロ達が来なかったらやばかったしな」


 どうやら射手を撃ち落としたのはグレイのようだ。

 あの時魔法を使ったり、短剣を投げた様子もなかったのでどうやったのか少し気になる。


「どんな方法で攻撃したんだ」


 俺はグレイに聞くと、種をあっさり教えてくれた。


「こいつを投げたんだ」


 グレイの手にはトランプがあり、凄まじい勢いで切り始める。


 は、はやい!


 俺の目でも、ギリギリ見えるか見えないかのスピードだ。

 正直トランプを投げたと聞いたとき、そんなことはできないと疑ってしまったが、今の光景を見ると信じるしかない。


「せっかくだからルーナちゃんを賭けてゲームをするか?」

「いや、やめておくよ」


 これだけの腕を持っているなら、おそらくイカサマをやられて負けるような気がする。


「チッ! つまんねえな」

「その技術をみて受けるバカはいないだろ」

「せっかくルーナちゃんを奪えるチャンスだったのに」


 グレイの腕へともかく、普通彼女(仮)を賭ける奴なんていないだろ。


「それじゃあザッシュさんやりますか」

「いや、俺もやめておく」


 グレイは遊び相手を失ったようだ。

 まあ賭けなければやってもいいかな。そう口にしようとした時、ザッシュさんがエドワードさんに質問をする。


「そういえばこの馬車、積み荷がねえけどこれから仕入れに行くのか?」

「そうですね。今宝石をスキルで異空間に収納してあるので、これを売ってラームに物資を持ち帰る予定です。私の異空間スキルではせいぜい50センチ四方くらいまでしか収納できませんからね」


 ちなみに魔力の大きさにもよるが、異空間収納に関しては断然魔法の方が容量を多く入れられる。おそらく俺はエドワードさんの50倍くらい多く収納ができると思う。


「それじゃあ物資を街に持ち帰るためにも、気をつけて帰らないとな」

「はい。ですから今回は皆様がいて下さって本当に助かっています」


 改めてエドワードさんから感謝の言葉をもらう。


「ラームの街に寄って頂いた時には、必ずお礼はさせていただきます」

「じゃあ娼館に連れていってほしいな」


 グレイが間髪入れずに答える。

 こいつは何を言っているんだ。俺も行きたいじゃないか。


「ヒイロくん。まさか行きたいなんて思っていませんよね」

「そ、そんなこと一ミリも考えてないよ」

「そうですよね。ヒイロくんには、わ、私という彼女がいるんですもん」


 ルーナの演技力は本当にすごいな。

 一瞬本当の彼女に見えたよ。


 しかしこうして俺はまた、大人の階段を上る機会を失ってしまった。

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