第19話 呪いのアイテム

「それじゃあ魔法を使うよ」

「はい、お願いします」


 緊張しているのか、いつもとは少し違う、強張った表情を見せる。

 ルーナから出ている変な波動は、左手から出ているので、おそらく中指に着けている指輪だろう。


 俺は【鑑定魔法ライブラ】を使って確認してみる。


【封印の指輪+】

 魔法やスキルを封じる呪いの指輪。

 付与魔法で魅了が追加されている。

 指輪をはめた相手に魅了されるが、効果が弱いため、対象と距離を取れば魅了が解除される。しかし再び近づけばその効果は継続される。


 ルーナが魔法を使えない理由はこの指輪だな。

 誰だこんな呪いのアイテムを渡したのは。

 だが、指輪に魅了がかけられていることで、1人だけあやしい人物が浮かんだ。

 ルーナと初めて会った時は、そいつのことをよく話していたが、盗賊達に拐われた後のルーナは、一度もその名前を呼んでいない。

 この事を言っていいものか。


「ど、どうですか。何かわかりましたか⋯⋯」


 ルーナは恐る恐る聞いてくる。

 まるで、テストの試験の合否を聞いてくるような、ハラハラした態度だ。


「魔法が使えない原因がわかったよ」

「ほ、本当ですか!」

「うん」


 ルーナは俺の答えを聞いて、喜びの表情をする。


「ルーナ、左手の指輪は外すことはできる?」

「それが、太っちゃったせいか、抜けなくなっちゃって」


「タハハッ」と恥ずかしそうにする。


 それは呪いのアイテムだから抜けないんだよ。

 どうする? 本当のことを言うか。

 それとも原因は濁して、指輪だけを外すか。

 俺はどちらが正しいのか迷ったが決断をした。


「その指輪がルーナの魔力を封じている」

「こ、この指輪が」


 原因を聞いてルーナは動揺している。


「そして、その指輪をはめた人物に魅了されるよう、付与魔法がかけられていたよ」

「うそです! ディアナちゃんからもらった指輪が――そんな――」


 やっぱりディアナが犯人だったか。

 そして俺はさらに残酷なことを伝える。


「その指輪が抜けない原因は、呪いのアイテムだからだ」

「ディ、ディアナちゃんがそんなことをするなんて! 信じたくない!」


 ルーナは真実を聞いて、涙を浮かべながら悲痛の叫びをあげる。

 信じていた友達に裏切られたんだ、辛いだろう。

 だが、俺は全て隠さず話すことを選択した。

 この先ディアナが、また何かをしてくる可能性があるので、真実を知って気をつけてほしいのと、友達であるルーナに嘘をつきたくなかったからだ。


「辛いところ悪いけど、これから呪いを解く魔法をかけるけどいい?」


 ルーナは泣きながら首を縦に振ってくれた。

 俺は解呪の魔法を指輪に向かって放つ。


解呪魔法ディスペル


 ルーナの左手が光り輝くと、封印の指輪が地面へと落ちていった。


「あっ!」


 その光景を見て、ルーナは思わず声を出してしまう。


「これで魔法が使えるはずなんだけど、何か使ってみてくれないか」

「う、うん」


 ルーナは両手を前に出し、緊張した表情で魔法を唱える。


水回復魔法アクアヒール


 左右の手から青い光が出現し、そして消えていく。


「で、できた、できたよ」


 しかしルーナは、魔法を発動させることに成功したが、表情は晴れない。

 それもそうか。これで友達だと思っていた奴のせいで、魔法が使えなくなっていたことが確定したのだから。


「ヒイロくん、私の呪いを解いてくれてありがとう。このご恩は必ずお返しします」

「そんなのいいよ。だって俺達は友達だろ」

「友達か⋯⋯⋯⋯。わたし、信じていた友達に裏切られちゃいました。どこが悪かったのかなあ」


 ルーナは俺の胸に寄りかかってくる。


「ルーナは悪くないよ。だってルーナみたいないい娘は滅多にいないぜ」


 俺の知り合いでは他にリアナぐらいだ。


「だけどこんな指輪まで渡してくるなんて、相当恨まれていたんですね」


 良い娘だからこそ恨まれることもあるんだよ。


「世の中どんな風に接しても、自分のことしか考えられない奴はいるから気にするなよ」


 例えばベイルとか。


「でも⋯⋯これからどうやって友達と接すればいいのかわからなくなっちゃいました」

「今まで通りのルーナでいいよ。だってそんなルーナが好きで俺は友達になったんだ」


 ルーナは視線を上げ、俺の瞳を見つめる。


「でも、また裏切られると思うと怖い⋯⋯怖いよ」


 その時の状況を思い浮かべたのか、ルーナの肩がガタガタと震える。


「大丈夫だ。俺はルーナのことを絶対裏切らないから」


 俺に寄りかかっているルーナを抱きしめる。


「本当? ヒイロくんのことを信じていいの?」

「ああ、信じてくれ」

「それじゃあ1つだけ⋯⋯1つだけ友達のヒイロくんにお願いがあるの」

「何でも言ってくれ」

「少しだけ、少しだけこのまま泣いてもいいかな」


 ルーナは体を震わせる。たぶんもう泣いているのだろう。


「いいよ。友達のお願いだ。断るわけないよ」

「ありがとう。うぅ⋯⋯うぅ⋯⋯」


 そして暫くの間ルーナは俺の胸の中で涙を流し、泣きつかれてそのまま寝てしまったのでベットに運んだ。



 ルーナに呪いのアイテムを渡し、暗殺を依頼した女か。

 おそらく路地裏にいた女の方はディアナだ。

 俺もそのせいで殺されそうになったから、その借りは返させてもらう。

 何よりルーナを苦しめたディアナは絶対に許さない。

 その罪、償ってもらうからな。


 俺はディアナへの復讐を胸に、ソファーで眠りについた。

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