第18話 脳内勇者VS魔王
俺とルーナは201号室に入る。
2人とも顔を赤くしているため、その姿はまるで、恋人達が初めて同じ部屋に泊まるかのように見えた。
部屋には1つのベットとソファーがある。
「とりあえず座ろうか」
ルーナはベットの方にちょこんと座った。
ソファーじゃなくてベット⋯⋯だと⋯⋯!
これは俺を誘っている? それとも俺が信用できる男か試しているのか。
くそっ! ルーナはとんだ小悪魔だ。
俺の中の勇者と魔王が戦い始める。
勇者:彼女はあなたを信じているからこそ、1人で部屋の中に入ったのです。
魔王:何言ってんだよ。部屋の中で男と女が二人っきり、犯るためにきたんだ。空気読めよ。
勇者:彼女にさっき言った言葉を思い出しなさい。友達と言ったじゃないですか。
魔王:そんなことは関係ねえ。友達だろうがなんだろうがチャンスは最大限にいかせ。
勇者:魔王、あなたとは決着をつけた方がいいみたいですね。
魔王:やんのか!
勇者
レベル:25
HP:382
MP:162
力:S
魔力:B
素早さ:A
運:SS
魔王
レベル:18
HP:241
MP:281
力:B
魔力:A
素早さ:B
運:C
勇者と比べて魔王は弱くないか。
魔王が現れた。
勇者の攻撃。
魔王に100のダメージを与えた。
魔王は魔法を唱えた。
【煉獄魔法インフェルノ】
地獄の業火が勇者を襲う。
勇者は326のダメージを受けた。
これは魔王が勝ちそうだな。
勇者の攻撃
会心の一撃!
魔王に356のダメージを与えた。
魔王をたおした。
そんなバカな!
残念ながら勇者が勝ったようだ。
俺は戦いの結果に従って、紳士にいくと決める。
「私、ヒイロくんのことをもっと知りたいです」
「えっ?」
「私の知らないことを教えて」
それって、まさか恋人同士がすることですか!
相手からくる場合は仕方ないよね。
俺は全てを受け入れる覚悟をする。
「ヒイロくんが、どうして魔法を使えるようになったか
ですよね。
最初からわかっていましたよ。こんな落ちになることを。
今日会ったばかりの俺と、そんな関係になるはずないよな。
そんなことになったら、ルーナの清楚なイメージが崩れてしまいそうだ。
「黙っているということは、答えづらいこと何ですか」
ルーナが申し訳なさそうな顔をする。
余計なことを考えていたせいで、誤解させてしまったようだ。
「いや、大丈夫だよ。ただ良くわからない部分もあるから、わかる範囲でいいなら」
「それで構いません」
ルーナは佇まいを正し、背筋を伸ばす。
「強力な魔法を使える理由だけど、この【門と翼の紋章】のおかげなんだ」
俺は左手の甲にある紋章をルーナに見せる。
「なんの職かわからないけど、成人の義で紋章を授かった時に、【魔法の真理】というスキルをもらって――」
「【魔法の真理】? どんなスキルでしょうか?」
「MPと魔力があれば、全ての魔法を使うことができるスキルだ」
「えっ? 全ての魔法を?」
「うん」
「それでは、私の胸の傷を治療して下さったのも」
「⋯⋯俺の魔法だ」
ルーナは瞳から涙を流しながら、俺の手を取り言葉を紡ぐ。
「やっぱりヒイロさんが私を救って下さったのですね」
「もう少し早く魔法が使えたら、痛い思いをさせずに済んだのに⋯⋯ごめんな」
「いいえ! ヒイロさんが助けてくれたから、私は今ここにいるんです」
ルーナは距離を詰めてきて、俺の両手を握る。
「あの時私を救って下さってありがとうございます」
お礼の言葉を口にして感極まったのか、ルーナが俺の胸に飛び込んで、抱きしめてくる。
ルーナの体から、俺に対する感謝の気持ちを感じた。
しばらく抱きしめ合っていたが、これはどうすればいいのだろう。
ルーナの首元を見てみるが、真っ赤に染まっていた。
これは、ルーナもどうすればいいのかわからなくて動けなくなったのかな。
残念だけど、俺はルーナの頭をポンポンと叩いて、体を離す。
「ご、ごめんなさい。私ったらはしたない」
「いいよ。俺も役得だったし――」
ルーナみたいな可愛い娘に抱きしめてもらえるのは、大歓迎だ。
「それで魔法が使えなかった理由だけど、2年前にちょっと強い人と戦って、その時に未来を犠牲にする魔法【
その相手が元魔王と言ったら腰を抜かすだろうな。
「未来を犠牲に? どういうことでしょうか」
「未来に使えるはずの力や魔力を先取りすることによって、一定期間その凝縮した力を使用することができるけど、代償として2年間、身体能力と魔力が低下するんだ」
「そんな魔法、私は聞いたことないです」
「そして記憶喪失になって、その事を忘れていたけど、今日が2年目だったから力を取り戻して、全てを思い出したんだ」
本当に危なかった。魔法が使えるのが後数秒遅かったら、俺達は確実に死んでいただろう。
「私が魔法を使えなくなった原因とは、違いそうですね」
俺の場合は紋章が特殊だから、ルーナの件とは同じじゃないだろう。
「有名な先生に見てもらうこともできないし、私が魔法を使えるようになるのは当分先になっちゃいました」
ルーナは自虐気味に話す。
金貨20枚はどこにいったかわからないから、その先生に診てもらうのは不可能だろう。
だけど俺の力が戻って、魔力が高くなったせいか、ルーナから変な波動を感じるんだよな。
「ルーナ、金貨を今すぐ取り戻すのは厳しいけど――」
「そうだよね。いくらヒイロくんでも無理だよね」
ルーナは下を向いて落ち込んでしまった。
「魔法が使えない原因はわかるかも」
「えっ!」
ルーナは顔を上げて、真っ直ぐな瞳で俺を見つめる。
「ほ、本当にわかるの!」
「魔法で確認しないとわからないけど」
ルーナの顔が俺に迫ってくる。後10センチ近ければキスしてしまいそうだ。
「と、とりあえず落ち着いて」
俺はルーナの肩に手を置き軽く押し返す。
「す、すみません。原因がわかるかもしれないと思ったらつい――」
その気持ちはわかる。
俺も魔法を使えるようになった時はうれしかったから、今度はその喜びをルーナに味わってほしい。
俺はルーナの願いを叶えるため、左の手のひらに魔力を集中させた。
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