第17話 ラームの宿、そして

転移魔法シフト


 俺は魔法を使って、ルーナの所へ戻る。


「わぁ! ヒ、ヒイロくん。どこにいたの」


 俺がいきなり現れたため、ルーナは驚いて、地面に座り込んでしまった。

 ちょっと転移した場所が良くなかったかな。

 手を差し伸べると、ルーナは俺の手を取り立ち上がる。


「ありがとう」

「ごめん。びっくりさせちゃったな」

「ううん、私は大丈夫。それより見て下さい!」


 ルーナは自分の首元を差す。


「白い肌に綺麗な首だね」

「ち、違うよ。でもありがとう」


 ルーナは顔を赤くする。


「奴隷の首輪が取れたんです」


 制約を結んだ奴隷商人を殺したからだろう。

 ルーナはリアナと同じで、どんな奴でも死んだら心を痛めるタイプだと思うから余計なことは言わない。


「本当だ。良かったね」

「あれ? ヒイロくんの足元にいる人って?」

「ルーナを殺そうとした奴の1人だよ」

「えっ? 捕まえたの」

「うん」

「すごい! ヒイロくんすごいよ」

「魔法が使えるようになったからね」

「そういえば使えるようになったって、いってましたけどそれって」

「とりあえずその話は後にしようか。衛兵の方々が来てくれたみたいだし」


 だんだんとランタンの光が近づいてきた。

 10名くらいの甲冑を着た兵士が、こちらに向かってくる。


「あなたが我々に出動の要請をかけた方ですか」


 1人の衛兵が俺達に声をかけてきた。


「そうです。わざわざ来て頂きありがとうございます」

「それで、話に聞いていた女の子は見つかったのかね」

「はい、こちらにいます」


 ルーナは衛兵の方に向かってお辞儀をする。


「そうですか、それは良かった」


 衛兵の方は、ルーナの姿を見て安堵する。


「ところで女の子を殺害しようとした者達は?」

「それなら」

「た、隊長!」

「どうした! 今は話中だぞ」

「す、すみません。しかし、こちらに強奪者スナッチャーのサブリーダーが倒れています」


 スナッチャー? なんだそれ。


「本当か!」


 隊長さんは驚きの表情を浮かべる。


「すみません。少しお待ち頂いてもよろしいでしょうか」

「大丈夫です」


 隊長さんは俺が気絶させた盗賊の所へ向かう。


「こ、これは確かに、強奪者スナッチャーのサブリーダーのドゥウマだ。どうしてこんな所にいるんだ」

「その人達がルーナを殺そうとしたので、捕まえました」

「まさかこんな所にいるとは。君、お手柄だよ」


 どうやら盗賊は大物だったらしく、隊長さんからお褒めの言葉を頂いた。


「詳しい話を聞かせてもらいたいから、とりあえず街に戻るけどいいかな?」

「わかりました」


 俺とルーナは隊長さんの言葉に頷く。


 こうして、俺達は衛兵の方々に守られながら、ラームの街へと向かった。



 俺達は街に戻り、1時間ほど衛兵所で事情聴取を受け、解放された。

 俺が気絶させた盗賊は、神出鬼没の盗賊団、強奪者スナッチャーのサブリーダーで、強奪者スナッチャーのいる所には魔物が出てくることが多く、裏で繋がっているんじゃないかと隊長さんが言っていた。

 確かにルーナが最初に襲われたのはゴブリンだったので、考えたくはないがその話の信憑性は高いかもしれない。

 今日は色々なことが起きたから、早く宿をとって休みたい。


「ルーナ、今日泊まる場所を早く確保したいから、西区画に行ってもいいかな」

「わ、わかりました」


 俺達は南区画から西区画へと移動する。



「ルーナ、宿はとってあるの?」

「や、宿ですか。とってあるような、ないような」


 ん? さっきからルーナの受け答えがどうもあやしい。

 何か隠し事をしている気がする。


「もう時間も遅いから、部屋が取れるか心配だな」


 俺達は、何件か宿泊施設に行ってみるが、予想通り予約がいっぱいで、部屋を取ることができなかった。


「お兄さん、この時期王都へ向かう人が多いから、もう少し早く来ないと部屋は取れないよ」


 宿泊施設の店員さんからアドバイスをもらうが、もう少し早く言ってほしかった。

 う~ん、どうしようか。

 さすがに野宿はきついぞ。

 しかし空いてないものは仕方ない。

 とりあえず夜ご飯でも食べに行くか。


「ルーナ、お腹空かないか? ご飯を食べに行こうか」

「えっ! ご、ご飯ですか。私はお腹が空いてないので大丈夫ですよ」


 ぐぅ


 最高の(ルーナにとっては最悪の)タイミングでルーナのお腹の音が鳴り、ルーナは顔を真っ赤にして両手で覆う。


「ルーナさんや、さっきから何か隠してるでしょ」

「そ、そんなことありませんよ」

「本当に?」

「本当です」


 こっちから言いやすいように聞いてみたが、どうやら話す気はないようだ。


「はあ。ルーナとは、生死を共にした仲間だと思っていたけど、そう思っていたのは俺だけか。悲しいなあ」


 俺はため息をつき、下を向いて落ち込んだふりをする。


「わ、わかりました。言います。言いますから落ち込まないで下さい」

「で、何を隠してるんだ」


 俺はルーナの言質を取り、すぐに立ち直る。


「あっ! 私を騙しましたね」

「さあ早く教えてくれ」


 ルーナは諦めて少しずつ話してくれた。


「実は、盗賊さん達に捕まっていた時にお金を取られてしまって⋯⋯」

「まさか有名な先生に見てもらうための金貨20枚も?」

「はい。それ以外のお金も全て⋯⋯」


 ルーナはお金を取られ、泣きそうな表情をする。


「衛兵の方にはそのことを」

「言いました。私が拐われた時にもう1人いたから、たぶんその人が持っていってしまったんだと思います」


 もう1人? そいつが路地裏で声を聞いた奴なのか。


「お父さんとお母さんが頑張って貯めてくれたお金をわたし⋯⋯」


 ルーナはこみ上げてくる悲しい思いを抑えきれず、泣いてしまう。


「あのう」


 宿泊施設の定員さんが、タイミング悪く話しかけてくる。


「ちょっと今取り込み中で、後にしてもらえませんか」

「いや、後にするとなくなってしまうかもしれませんよ。1人宿泊のキャンセルが出たので、お泊まりになりますか?」


 部屋が空いた?

 とりあえず受付だけしてしまうか。

 ルーナのことは部屋でゆっくり話を聞こう。


「わかりました。宿泊するので部屋をとってもらってもよろしいでしょうか」

「わかりました。ではこちらにサインと、銀貨1枚になります」


 俺は定員さんのいうとおりにお金と名簿にサインをする。


「ルーナ、部屋で話そうか」

「はい」

「部屋の鍵はこちらになります。2階の201の部屋番号になりますのでごゆっくり」


 俺は鍵をもらい、ルーナを連れて2階へと向かう。


「あっ? 2階の部屋は防音がしっかりしているので安心してください」


 防音がしっかりしてるから安心してください?

 どういうことだ。


 あっ! まさか店員さんは、俺とルーナが恋人同士だと思っているのか。

 やばい。そんなこと全然気にしていなかったけど、店員さんに指摘されてドキドキしてきた。

 ルーナの方を見ると、ルーナも店員さんが言っていることの意味がわかったのか、頬を赤くして下を向いている。

 ルーナよ。そんな顔をしていると、俺も勘違いしてしまうぞ。


 そして俺とルーナは2階の部屋に到着した。

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