第16話 DS.ダルセーニョ

 ヒイロside


 ドックン、ドックン。

 心臓の音が鮮明に聞こえ、徐々に弱くなっていくのがわかる。

 辛うじて映った視界には、鮮血を伴って倒れたルーナの姿が見えた。

 やはりラームの衛兵は間に合わなかったか。

 せめてルーナだけでも助けたかった。

 俺の人生はここで終わりか。

 身体能力が下がり、魔法が使えなくなったのによくやったよ。あの世には父さんや母さんがいるから未練はないかな。



 そんなはずはないだろう!

 俺は魔法が使うことができたんだ。

 もし今魔法が使えたら、ルーナを救えたはずだ。

 俺は最後の力を振り絞って、左手に力を込める。

 しかし【門と翼の紋章】は答えてくれない。


 ちくしょう! 今こそその力を発揮する時だろ。

 いつになったら紋章の力を使えるようになるんだ。

 明日? 1ヶ月後? 1年後? それでは遅すぎる。

 


 なんだ? この言葉を以前どこかで、聞いたことがあるような気がする。


 ズキッ!


 頭が! 頭が割れるように痛い!

 走馬灯なように色々なキーワードが頭の中に入ってきた。


【門と翼の紋章】

 父さん、母さん

 勇者パーティー

 元魔王ヘルド

未来終魔法フューチャーエンド



 お、思い出した。

 俺はヘルドを倒すために、未来を犠牲にする魔法、【未来終魔法フューチャーエンド】を使ったんだ。

未来終魔法フューチャーエンド】は、未来に使えるはずの力や魔力を先取りすることによって、一定期間その凝縮した力を使用することができる。

 あの戦いで俺は2年間分の未来をもらい、ヘルドを倒すことができた。

 しかし、極大魔法同士がぶつかった衝撃によって、俺は記憶を失ってしまったのと【未来終魔法フューチャーエンド】を使った代償として2年間、身体能力と魔力が奪われ続けていた。


 だがそれも

 魔法が使えなくなってからちょうど2年がたったからだ。

 俺の体から力が、魔力が溢れてくる。

 先ほどまで魔法が使えなかったのがうそのようだ。

 まずはルーナに回復魔法を。このままでは血を失いすぎて死んでしまう。

 俺は離れたルーナに向かって手をかざす。


完全パーフェクト⋯⋯回復ヒール⋯⋯】


 魔法を受け、ルーナの体が光輝く。

 よし。後は自分に回復魔法を。

 しかし、魔法を使うために動いたせいか、胸の傷口から、さらに血が出てくる。

 ま、まずい、目がかすんできた。

 俺の意識は闇の中へと落ちていった。



「ヒ⋯⋯く⋯⋯。ヒイ⋯⋯く⋯⋯」


 どこからか声が聞こえてくる。

 この声はルーナか。

 残念ながらルーナもあの世に来ちゃったんだな。

 回復魔法が遅かったのか。


 ちくしょう! せっかく力を取り戻したのに、女の子1人救えないなんて。


「ヒイロ⋯⋯ん! ヒイロくん!」


 さっきより鮮明に声が聞こえてくる。

 俺の顔に何か濡れたものが降ってきた。

 なんだこれは。

 あの世にも雨が降るのかな。

 俺は重い目蓋まぶたを上げると、そこには泣きじゃくったルーナの顔があった。


「ヒイロくん起きて!」


 どうやら、ルーナが呼び掛けてくれたお陰で、意識を取り戻すことができたらしい。

 この運命の女神にもらった時間で俺は自分に回復魔法をかける。


パー⋯⋯フェクト⋯⋯ヒー⋯⋯


 俺の体が光輝き、胸を刺された傷や、鞭によって受けたケガが瞬時に治る。


「えっ? ヒイロくんの体が輝いて⋯⋯傷が⋯⋯治ってる!」


 危なかった。もしあの時もう一度目を覚まさなければ、あのまま死んでいた。


「ありがとう、ルーナが呼びかけてくれたお陰で助かったよ」

「そんなことない! ヒイロくんは私のせいで胸を刺されて死にそうになったんだよ。私なんかを助けに来たから⋯⋯」

「私なんかなんて言うなよ。ルーナだってもし俺が危ない目にあったら助けに来てくれただろ」

「それは⋯⋯そうですけど」

「それに友達を助けるのは当たり前だろ」

「友達⋯⋯⋯⋯はい、友達です」


 ルーナは瞳に涙を残しながら、出会ってから一番いい笑顔で笑ってくれた。



 さて、後は俺達をこんな目に合わせた奴らを始末するか。

 俺とルーナはもう少しで命を落とす所だったんだ。ただでは済まさない。

 それにルーナの首には、まだ奴隷の首輪がついたままだから、奴隷商人は必ず処分する。


 俺は盗賊達を倒しに行く前に、【鑑定魔法ライブラ】で自分のステータスを確認する。


 名前:ヒイロ

 性別:男

 種族:人間

 紋章:翼と門

 レベル:35

 HP:1,231

 MP:7,014

 力:A

 魔力:S

 素早さ:B

 知性:A

 運:B


 力を失う前より強くなっている。

 ひょっとしたら、この2年間、毎日剣と魔法の鍛練をしていた分が上乗せされているのか。


 無駄じゃなかった。無駄じゃなかったんだ。

 俺はこの2年の成果に涙が出そうになったが、今はやらなければいけないことがあるので堪えた。


「ルーナ、あの2人がどこへ行ったかわかるか?」

「ごめんなさい。私が目を覚ました時には2人はもう」

「そうか。それなら魔法で探す」


 俺は、盗賊と奴隷商人を探すために、スキル【魔法の真理】から魔法使う。


探知魔法ディテクション


 俺を中心に魔力の波が広がっていき、2人の居場所を捉える。

 どうやら自分達が乗ってきた馬車の近くにいるようだ。

 そのまま逃げるつもりか?

 そんなことは絶対に許さない!


「先程瞬時に治療されたことと、今の魔力の波を見て思ったのですが、これは魔法ですか?」


「そうだよ」

「で、ですが、ヒイロくんは魔法が使えないはずでは」

「さっき使えるようになったんだ」

「さっき?」

「とりあえず、俺達を殺そうとした二人を逃がすわけにはいかないから、ルーナはここで待っててくれないか」

「ですが、2人はもうここには⋯⋯」


 俺は元魔王のヘルドとの戦いで使用した転移魔法を使う。


転移魔法シフト


 ルーナの前から一瞬で馬車の所に移動する。


「えっ? えっ? ヒイロくんどこ?」


 ルーナはヒイロが突然消えたことにより、混乱してしまった。



 目的の場所に着くと、盗賊と奴隷商人が馬車に乗り込む所だった。


「だ、誰だ!」


 いきなり俺が馬車の前に現れたことによって、2人は驚きの声をあげる。


「て、てめえはなんでこんな所に。短剣が刺さって死んだはずだろ」


 盗賊の男は、信じられないものを見たような顔で俺を問い詰める。


「まさかサジを殺した時のように、短剣が刺された演技をしていたのか」


 さすがにそんなマジックのようなことはできない。


「ちゃんと刺さってたよ。この胸に」


 自分の胸が刺されたジェスチャーをする。


「それならなぜ生きている!」


「お前達を殺すために、地獄から舞い戻ってきたんだ!」


 俺は奴隷商人に向かって風魔法を放つ。


風短剣魔法ウインドダガー


 透明の風の短剣が、俺の頭上に数多く生まれる。


「へっ! 何も起きねえじゃねえか。ただの脅しか」


「怯えたふりや、死んだふり。そして魔法を使うふりをするお前の紋章は手品師か」


 暗闇で視界が悪いこともあり、盗賊達は数十本の短剣が見えていない。


「手品かどうか、こっちに来てみればわかるんじゃないか」


「うるせえ! このぺてん師が!」


 奴隷商人が、鞭を持った方の手を振り上げた時、俺は3本の短剣を奴隷商人に向かって放つ。


 ザシュッ! ザシュッ! ザシュッ!


「ギャーッ!」


 奴隷商人の胸に3つの穴が空き、悲痛の叫びが響きわたる。

 そして大量の出血と共に、その場に倒れた。


「お、おいどうした!」


 盗賊は奴隷商人に近づき抱き起こすが、奴隷商人は既に息絶えていた。


「し、死んでいる」


 突然の死を目の辺りにして、盗賊は怖じ気づいている。


「どうした? こんなことは日常茶飯事じゃなかったのか」

「た、助けてくれ! 俺もこんなことやりたくなかったんだ! 全部お頭の命令なんだ!」


 やはり他に黒幕がいたか。

 路地裏で聞いた男の声は、どう考えてもルーナを拐った3人ではなかった。


「もうこんなことは2度としねえ。今までやってきたことも全て話して自首をする。だから命だけは」


 盗賊は額を地面に擦り付けて、土下座をする。

 俺は一歩づつ、盗賊に向かって歩いていく。


(クックック、バカめ! 近づいてきたら、お前がサジを殺したように胸を突き刺してやる)


 盗賊との距離がなくなった時、突然短剣を手に攻撃をしかけてくる。


「死ね!」


 しかし俺は、頭上に用意していた数十本の風の短剣を、盗賊の両手目掛けて撃ち下ろし、左右の手を地面に縫いつける。


「グアッ!」


 俺はゴミを見るような目で盗賊を見下ろす。


「ヒッ!」


「最初からお前のことは信じてないよ」


 俺は新たに風の短剣を生み出し、俺とルーナがやられたように、盗賊の胸を目掛けて短剣を突き刺す。


「ゴボッ!」


 盗賊は胸を刺され、口から血を吐き出す。


「ちきしょ⋯⋯う。死に⋯⋯たく⋯⋯ねえ」


水回復魔法アクアヒール


 俺は盗賊に向かって回復魔法をかけると傷が塞がっていく。


「ど、どういうことだ! なぜ回復魔法をかけ、ぐふぅ!」


 俺は風の短剣を再度盗賊の胸に刺した。


「お前達に俺とルーナ、合わせて二回短剣で刺されたから、お前にも同じ数だけ食らってもらう」


「や、やめてくれ」


水回復魔法アクアヒール


 俺は再び盗賊に回復魔法をかける。


「もう、許してください」


「お前達の頭のことを全て話すか?」


「そ、それは」


 風の短剣を準備する。


「ヒイッ! わかりました。しゃべります。何でも話します」


 俺は言質を取ったので、盗賊に向かって威力を落とした雷魔法を放つ。


稲妻魔法ライトニング


「ギャッ!」


 盗賊は雷魔法によって軽く焦げ、気絶した。


―――――――――――――――


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