第13話 暗殺依頼? ルーナの捜索

 ラームの街の城門に着くと、身分証明の検査があったが、俺とルーナは問題なく通ることができた。


 ラームはラーカス村から一番近い街で、過去にお城があったこともあり、街は城壁で守られている。

街は4つの区画に別れており、北は富裕層が住んでおり、東が平民の住宅街、西が商店街、南は東と同じ住宅街になっているが少し治安が悪い。

 ちなみに今俺達は、南の門を通ってきたので、なるべく早くここから離れたい。


「ヒイロくん、私はディアナちゃんを探しに行くので、ここで失礼します」


 けどここでルーナを1人にするのはちょっと心配だな。


「もし良ければ俺もその人を探すの手伝おうか?」


 ルーナは一瞬考える。


「いえ、ヒイロくんには色々ご迷惑をおかけしてしまったので、私だけで頑張ってみます」

「そっか、わかった。今日は西にある商店街の方で宿泊するから、何か困ったことがあったら言ってくれ」

「ありがとうございます。ヒイロくんには本当にお世話になりました。また王都ルファリアでお会いしましょう」


 そして俺達は別々の道を行く。ルーナは、俺の姿が見えなくなるまで手を振って見送ってくれた。

 二時間くらいのパーティーだったが、2人で旅をすることの楽しさを覚えてしまい、1人になって寂しさを感じる。


それにしてもルーナは本当にディアナのことが好きなんだな。

ラームに着くまでの話題はほとんどディアナのことだった。

無事に会えるといいけど。


 俺はルーナのことを心配しつつ、泊まる場所を決めるため、西の商店街へと向かった。



 周囲を確認すると灯りがなく、もう夕方に近い時間ということもあって、暗闇に満ちている。特に路地裏は一際暗く、危険な場所であることが伺える。

 あんな所に連れ込まれたら、何をされるかわからないな。

 俺は急いで西区画に移動しようとするが、その時知った言葉が聞こえてきたので、その場に止まる。


「なんで魔法の使えない僧侶を殺すことができないのよ!」

「ゴブリンに襲われて、そのまま巣に持ち帰られるはずだったが、誰かが助けやがったんだ」


 ゴブリンに襲われた? 魔法を使えない僧侶? それってもしかして。

 俺は勇気を振り絞って、路地裏に近づいて覗いてみる。

 しかし視界が悪く、男と女がいることぐらいしかわからない。


「誰かってだれよ! あそこの場所に戦闘職は1人もいなかったのに、何やっているのよ」

「まだ次の手は残っている。それに俺らの後ろにはデカいバックがいるから安心しな。必ずこの街で仕留めてやるよ」

「私はもうルファリアに行かなくちゃいけないから、成功の報告をしにきなさいよ」

「わかってるぜ。依頼はきっちりこなす」


 そう言葉を残して、2人は暗闇へと消えていく。


 俺も急ぎ追跡するが、土地勘がないせいか2人を見失ってしまう。

 今話に出ていた僧侶は、ルーナしか考えられない。

 男はこの街で仕留めるって言っていた。


 それってやばくないか。


 俺は全速力で南門まで戻る。



 南門に戻ると日はすっかり落ちてしまい、ますます視界が悪くなっていた。

 くそっ! こんな時に夜になるなんて!

 俺は前後左右に視線を送り、ルーナを探す。

 いない、いない、いない。

 ルーナはどこに行ったんだ。

 少なくとも俺の方にはついてきていなかったので、西区画には向かっていないはずだ。

 さすがに治安の悪い南区画にはいないと思うが、そうなると富裕層が住んでいる北区画か、平民の住宅街がある東区画だ。

 しかし、その2つの区画を、俺1人で調べるなんて不可能に近い。

 それなら目撃者がいないか、ここにいる人達から聞き込みをしよう。


「すみませんちょっとお聞きしたいことが」


 俺は二十歳くらいの青年に話しかける。


「どうしたんだい」

「10分くらい前に、金髪で髪がロングの女の子を見かけませんてしたか?」

「その容姿の子だと、候補が何人かいるなあ。他に特徴はないのかい?」


 他に特徴? 胸が大きいことだがそれで伝わるか。いやもう1つあった。


「右の肩にケガをしています」

「右の肩にケガか。いやそれなら僕は見ていないな」

「そうですか。ありがとうございました」


 俺は続けて他の人に聞く。


「ちょっとお聞きしたいことがあるのですが、今よろしでしょうか」


 俺は、大人の店の前で客引きをしていた娼婦に話を聞いてみる。


「どうしたの坊や。大人の店に入ってみたいの」


 入ってみたいけど、今はそれどころではない。


「10分くらい前に、右肩にケガをしている、金髪で髪がロングの女の子を見かけませんてしたか?」

「うちの店にそんな娘はいないねえ」

「お店ではなくて、外で」

「う~ん、見てないわよ。それより坊やかっこいいわね。お姉さんが相手をしてあげようか」

「い、いえ。けっこうです。失礼しました!」


 何かもったいないことをした気がする。

 大人の階段を昇るチャンスを逃したかもしれない。

 俺は後ろ髪が引かれる思いで、次の人に聞き込みをする。


「すみません、人を探しているのですが今よろしいでしょうか」


 門番の方々に話しかける。


「10分くらい前に俺と南門を通ってきた、金髪ロングの女の子がどの方向に行ったかわかりませんか?」

「そんな子いたかなあ。お前知っているか?」

「知ってるよ」

「ほ、本当ですか」

「君と一緒にいた女の子だったら、2~3分前くらいに、馬車に乗ってまた外に出ていったよ」


 この暗闇の中、外に?

 夜は魔物に襲われる危険があるから、余程の理由がない限り城門を出ることはしないはずだ。


「その女の子は、命を狙われているんです」

「なんだって!」

「だから衛兵を出して追いかけて頂けませんか」


 ひょっとしたら友達が馬車で迎えにきた可能性もあるが、もし違っていたらルーナが殺されてしまうので、俺は兵の要請をする。


「それは本当かね」


 門番の人は俺の話を信じていないようだ。

 どうする。俺だけで追いかけるか。


「君はその情報をどこで聞いたのかね」


 もう時間がない。とりあえず門番の人達の手は借りず、俺だけで行こう。

 俺は門を出ようとしたその時、後ろから声をかけられた。


「とりあえず衛兵を出してあげたらどうですか? その少年の様子を見る限り時間が無さそうですし」


 背後を確認すると、端正な顔立ちをした40歳くらいの男性がいた。


「こ、これはマグナス様」


 マグナス様? どこかの貴族か?


「私のことより、この少年の頼みを聞いてあげたらどうですか」

「は、はい! 」


 門番の人はマグナスと呼ばれた人に言われ、すぐに衛兵を召集しに行ってくれた。


「助かりました」


 この人が門番の方々に、衛兵を呼ぶように言ってくれて本当に良かった。


「懐かしい物も見れましたし、気にしないで下さい」


 懐かしい物? なんだろう?


「それより君は馬車を追いかけなくていいんですか」


 そうだ。とりあえず先に馬車を見つけて、ルーナの無事を確認しよう。


「マグナスさん、ありがとうございました」


 俺は城門をくぐり抜け、馬車を探しに再び街を飛び出した。

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