第12話 初めての旅仲間
「はあ、はあ」
背後を確認してみるが、どうやら追手のゴブリンは来ていないようだ。
「ふう、ここまでくれば大丈夫かな」
「そ、そうですね。危ない所を助けて頂きありがとうございます」
少女の方を振り向くと大変なことが起きていた。
着衣が乱れ、胸の谷間がもろに見えている。
「いやっ!」
降ったばかりの雪のように真っ白い肌。何より年齢にしては胸のサイズが規格外だ。
ゴブリンに跨がられた時に服を乱され、その後全速力で走ったせいか。
少女は両手で胸を隠し、その場にしゃがむ。
まずい。いつまでも見ているのは失礼だ。
だが、思春期の男子としては目が離せない。
俺の中の天使と悪魔が壮絶な戦いを繰り広げる。それはまるで、勇者と魔王が戦っているかのようだ。
そして激闘の末、残念ながら天使が勝ってしまった。
「後ろを向いているから。今のうちに服の乱れを直してください」
俺は理性で抑えて、前方を見続けている。
見てはダメだ見てはダメだ。
見てはダメだ見てはダメだ見てはダメだ。
見てはダメだ!
「あ、あの。もうこちらを向いても大丈夫です」
できれば10秒前に振り向きたかったです。
少女は俺に対して、少しオドオドした態度をとっている。
それもそうか。初対面で服が乱れた姿を見られたのだから。
「肩の傷大丈夫?」
少女はゴブリンの攻撃を受けた所から出血しており、洋服に血が垂れてきている。
これは治療した方がいいな。
俺はバッグの中にある傷薬を探し、手に取る。
しかしその時、少女の左手の甲が視界に入り、【十字架の紋章】と人差し指に綺麗な指輪が見えたため、俺は取り出した傷薬をまたバックにしまった。
「僧侶の紋章を持っているんですね」
僧侶は初級、中級の回復魔法、補助魔法が使える。
回復魔法の
しかし、少女は回復魔法を唱えない。
「ひょっとしてMPがないのかな?」
「い、いえ、違います。私魔法が使えないから⋯⋯」
「今年の成人の儀で、紋章をもらったばかりなの?」
「紋章は⋯⋯2年前に頂きました」
2年前というと、俺と同じ年だな。
そうなるとなんで魔法が使えないのだろう。
俺の場合、ベイルの推測だが、紋章の力を使いすぎたことが原因で魔法が使えないらしいが、僧侶の紋章で、魔法が使えなくなるなんて聞いたことがないぞ。
「痛っ!」
ゴブリンに斬られた所が痛むのか、少女は顔をしかめる。
俺も魔法が使えないので、気になるといえば気になるが、それより先に治療をしないと。
俺はさっきバックにしまった傷薬を取り出し、少女の肩に塗る。
「あ、ありがとうございます」
少女は、黙って俺の治療を受ける。
「そ、その」
少女が意を決して話かけてくる。
「どうしたの?」
「ど、どうして見ず知らずの私を助けてくれたのですか? 他の人は皆、私達を見捨てて逃げっていったのに」
「逆にどうして君は女の子を助けたの? 」
「私は⋯⋯困っている人がいたら助けたいから⋯⋯、それと誇れる自分になりたいから⋯⋯です」
リアナと同じようなことを言うな。
もし二人が出会うことになれば良い友達になれるかもしれない。
「今君が言ったことが、助けた理由だよ。俺も君と同じで、困っているがいたら助けたいからだ。それに自分を捨ててでも他人を優先する人を、放って置けないからね」
少女はしばらく考えて、それが自分のことだと気づき、頬を赤くする。
そういう仕草をすると益々可愛くなるな。
傷薬を塗り終わり、俺は立ち上がると、少女が声をかけてきた。
「あ、あの、お名前を教えて頂けませんか」
「名前? 俺はヒイロ。君は」
「私はルーナです」
「ルーナか、良い名前だね」
褒められて、ルーナの顔が赤くなる。
さっきから思っていたが、あまり男性に慣れていなさそうなだな。
「ヒ、ヒイロくんだって、かっこいい名前だと思います」
俺も褒められて、頬が赤くなる。
そういえば俺も、リアナ以外の女性とは、あまり話したことがないのを忘れてた。
「ル、ルーナはこの後、ラームへ向かうのかな? 」
「はい。ラームを通って王都ルファリアまで行く予定です」
「ルファリアに? 俺もルファリアに行くんだ」
目的地が同じだなんて。1人旅だと盗賊に襲われやすいから一緒に行くチャンスかな。
「友達と来ていたんですけど、途中ではぐれてしまい、その後ゴブリンに襲われてしまったのです」
「そうなんだ」
残念。連れがいたのか。
「ヒ、ヒイロくんさえ良ければ、ラームまで御一緒して頂けませんか? ディアナちゃんもラームにいると思うので」
「いいよ。こっちからお願いしようと思っていたんだ」
ディアナって娘が一緒に旅をしている人みたいだな。
ラームで見つかるといいけど。
とりあえず、俺とルーナの即席パーティーが出来上がり、共にラームへと向かった。
ラームへと向かう街道で、せっかくだからルーナのことを聞いてみる。
「ルーナはなんで王都を目指しているの?」
「お、同じ村のディアナちゃんと、冒険者になるために、王都へ向かっているの。ただ、私は体術が苦手だし、魔法が
使えなくなった?
前は使えたということか。
「だからディアナちゃんは試験が目的だけど、私は王都の有名な先生に、魔法が使えない原因を見てもらうために行くの」
「そうなんだ。それならおれも見てもらおうかな」
「えっ?」
「俺も魔法が使えたんだけど、今は使えなくて⋯⋯」
そういえば、俺が魔法を使えなくなったのは2年前の今日だったな。
「えっ? 私と同じ? ヒイロくんは何の紋章をお持ちなんですか」
俺は左手の甲をルーナに見せる。
「その紋章は初めて見ます」
まあそうなるよね。神父様も見たことがないって言ってたし。
「【門と翼の紋章】でしょうか。そんな紋章見たことないですよ」
「王都にそれを調べに行くのが目的の1つなんだ」
「1つ?」
「後もう1つは、ルーナと同じ冒険者になるためだよ」
「そうなんですか! 魔法が使えるようになって一緒に冒険者学校に行けるといいですね」
「そうだな」
「ただ⋯⋯」
ルーナは言いにくそうな表情をする。
「その有名な先生に見てもらうには、金貨20枚もかかるの」
金貨20枚! 普通の一般家庭が5年は生活できるお金だ。
とてもじゃないがそんなお金はない。
「私のためにお父さんとお母さんが一生懸命働いて⋯⋯。だから必ず魔法が使えるようになって、冒険者になりたいの。それでお父さんとお母さんに楽をさせたい」
ルーナは良い娘だけど、ちょっと無防備な所があるな。
そんなことを初めて会ったやつに言ったらダメでしょ。
「素敵な目標だね。けどルーナ、あまりその話をしない方がいいよ。特にお金のことは」
ルーナは俺の言葉を聞いて、キョトンとしている。
これはわかっていないのか。
「そんな大金を持っているのを悪い人が聞いたら、お金を盗もうとするだろ」
さすがにこれで伝わるはずだ。
「ヒイロくんは悪い人なんですか?」
「悪い人じゃないと言いたい」
さっきも、ルーナの服が乱れている時に覗かなかったので、悪い人じゃないはずだ。うん。
「自分の命を省みず、ゴブリンから助けてもらったので信じています。それに魔法が使えなくなった境遇が似ているので、親近感がありますし」
そこまで信じてくれているのか。
それならその信用を裏切るわけにはいかないな。
その後、暫くお互いのことについて話をしながら進んでいると、前方に、城壁に囲まれたラームの街が見えてきた。
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