第11話 少女と逃走する

 俺は急ぎ旅の準備を行う。


 ただ、もうすぐ夕方になるので、出発は明日の朝一番にしよう。


 え~と着替えに、短剣、後ランタンも必要だな。それに魔物とあった時のためにけむりだまも入れておこう。

 どれもこれも、持ってきたいものがたくさんあって困るな。

 けど厳選しないと荷物が多くて、旅先でバテてしまうし、魔物が現れた時に対処できなくなる。

 こんな時に収納魔法が使えれば楽なんだけど⋯⋯。

 ええ~い! 無いものを言ってもしょうがない。


 俺は一晩中考えて、必要なものを選び旅の準備を終えた。



 翌日。


「ヒイロちゃん気をつけてね。これ、お弁当だから旅先で良かったら食べて」


 俺はおばさんからお弁当の包みをもらう。


「ありがとうおばさん」


 旅の見送りにリアナのおじさんとおばさんが来てくれた。


「ヒイロくんありがとう。リアナのために」

「いえ、来年には王都行くつもりだったので、少し予定が早まっただけです。気にしないで下さい」

「そうか、でも礼は言わせてくれ」


 おじさんはリアナのことを溺愛しているから、本当は自分で行きたいのだろう。


「リアナに変な虫がついたら駆除していいからね」

「えっ? 今なんて?」

「リアナに変な男が近寄って来たら、始末していいと言ったんだ」


 この人ハッキリと言っちゃったよ。


「善処します」


 俺も初め、リアナと仲良く遊んでる所を見られて、おじさんに殺されそうになったことを思い出す。


「それでは、行ってきます」


 こうして王都への旅が始まった。



 村を出るとすぐ近くに街道があるので、まずはそこへ移動する。

 後はそのまま、街道沿いに進んで行けば王都ルファリアに到着する。

 王都まではおよそ一週間かかり、途中に街が2つ、そして村が1つあるのでそこに立ち寄って行く予定だ。


 旅をしていく上で、俺が一番気をつけなければいけないのが、魔物だ。

 ホワイトラビットでさえ苦戦する俺が、さらに強い魔物と戦うことになったら、死ぬかもしれない。だから街道からそれた道を進むわけにはいかない。

 街道沿いにいれば、王都へ向かう人達も数多くいるので、1人で魔物と戦うこともないはずだ。


 街道に着くと、看板が見えてきた。


「ラームの街まで後30km」


 予定では、後6時間ほどでラームに到着するので、そこで一泊することになっている。

 街道に入るとデコボコとした道が続く。

 石畳で舗装されているわけでもなく、土が剥き出しになっているため、歩くのが少し大変だ。

 これは、ラームに着く時間が、遅れることも考えた方がいいかもしれない。


 街道の歩道の件で、予定より少し遅れているが、旅は順調に進み、後2時間ほどでラームに着きそうだ。

 そんなことを考えていたせいか、後方で何か叫び声が聞こえてくる。


「逃げろ! ゴブリンだ」


 商人風の男が俺の方へと逃げてくる。

 目を凝らして後方を確認して見ると、3匹のゴブリンがこちらに向かってきている。


 ゴブリンは、1対1なら低レベルの戦闘職で勝てるほどの強さだが、もちろん今の俺が勝てるはずがないので、商人と一緒になってラームの方へ逃げる。


「だ、誰か助けて!」


 声が聞こえる方を見ると、後方に男が5人と少女が1人、そしてその後ろに母親と女の子がいる。

 どうやら助けを求めてきたのは母親のようだ。

 男達と少女の方はなんとか逃げきれそうだが、女の子の方は走るスピードが遅く、追いつかれるのは時間の問題だ。


 母親の助けの声が届いたのか、少女は女の子の元へ向かい、手をつないでゴブリンから逃げる。

 無理だ。あの速さでは追いつかれるぞ。


 戦えもしない俺は、このまま見捨てるのが正しいと思う。

 だけどリアナならこんな時、必ず助けることを選択する。

 俺は逃げるのをやめて、少女の元へと向かう。


「あんた何やっているんだ? あの3人はもうダメだ」

「戦闘職でもない限り、倒すことはできないぞ」


 逃げてきた5人が俺に忠告をしてくる。


「ここで逃げたら、合わせる顔がないんでね」

「俺は知らねえぞ」


 そう言って男は走り去って行く。


 俺はゴブリンの方に視線を向けると、少女が今にも追いつかれそうになっていた。

 ゴブリンの1匹が、手に持っている斧を持ち上げ、少女と女の子に向かって振り下ろす。


「痛っ!」


 少女は女の子をかばい、右肩に傷負う。そして痛みのせいか、そのままバランスを崩して倒れてしまった。


「お姉ちゃん!」


 女の子の悲痛の叫びが、街道に響きわたる。


「いいの。そのまま逃げて下さい」


 少女は親子に向かって、逃げるよう促す。


 自分より他人を優先する。まるでリアナみたいな人だ。

 そんな人を、ここで死なせるわけにはいかない。


 少女はまだ起き上がることができず、その隙をついてゴブリンが少女の上にまたがる。


「いやっ!」


 そういえば、彼らの繁殖は多種族の女性を孕ます事により、子孫を作ると聞いたことがある。

 このままでは少女がえらいことになってしまうので、俺は急ぎ少女の元へと向かい、跨がっているゴブリンに蹴りを食らわすと、ゴブリンは数メートル吹き飛び、何とか救出することができた。


「大丈夫?」


 俺は倒れている少女に手を差し伸べ、起き上がらせる。


「あ、ありがとうございます」


 少女はけっこう、いやかなりの美少女だった。

 金髪の長いストレートの髪に、童顔だが出るところは出ている。こんな時でなければいろいろ話をしたいが、どうやらゆっくりする時間はないようだ。


 残りの2匹のゴブリンも追いついてきて、俺と少女を威嚇してくる。

 正直こいつらと戦って、倒すことはできないので、俺は旅支度でポケットに入れていた、けむりだまを地面に向かって投げる。

 けむりだまが地面に当たると、一瞬にして煙霧えんむが広がり、辺り一面の視界が悪くなる。


「今のうちだ」

「は、はい」


 俺は握ったままの少女の手をひっぱり、ラームの街の方へと逃げ出した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る