第4話 不穏な影
目が覚めた翌日。
俺は紋章のことを聞くため、教会へと向かっていると、一昨日トロル達から助けた親子がいた。
「先日はありがとうございました」
「お兄ちゃんありがとう」
「いえ、俺も無我夢中でやったことですから」
サディアちゃんはお母さんと手を繋ぎ、仲良さそうに寄り添っている。
この笑顔を護れて良かった。
俺は改めて、神様からもらった紋章に感謝する。
「お兄ちゃん、今度何かお礼をさせてね」
そう言ってサディアちゃんは去っていった。
「ヒイロ! 昨日は魔物を倒したらしいな」
近所の農家のおじさんが話しかけてくる。
「たまたま成人の儀で、良い紋章をもらえたからですよ」
「なんかこう、すげえ魔法を使ったって聞いたぞ」
「ええ、自分でもビックリですけど」
「それならヒイロは魔法使いの紋章か? もし良ければ、畑に成長魔法をかけてくれねえか。最近畑の野菜の育ちが悪くてよお」
魔法使いではないが、そういえば俺の魔法にそんなやつがあったような気がする。
俺はスキル、魔法の真理を使用する。
え~と、あった!
「うまく行くかわかりませんが、それでよければ」
「いい、いい。このままだとこの畑を捨てることになっちまうから」
それなら使ってみるか。
もし失敗したとしても、破棄する畑ならいいだろう。
俺は芽が出ている野菜に成長魔法を使う。
【
魔法を受けた芽はみるみると大きくなり、一瞬で立派なキュウリを身につけた。
「なんでいきなり、キュウリができているんだ!」
俺が聞きたい。
本来成長魔法は、土の状態を良くするだけで、こんなにすぐ植物が成長する魔法ではない。
「すげえ、すげえ。とんでもねえ魔法だな。勇者様も出るし、この村は安泰だ。ありがとうヒイロ」
俺は農家のおじさんに、何度もお礼を言われてこの場を後にした。
他にも教会へ向かう道の至る所で、俺は魔物討伐のお礼であったり、紋章についての質問を受けた。
そしてそんなヒイロを疎ましく見る1つの視線があった。
「くそっ! ヒイロの奴調子に乗りやがって!」
ベイルは、近くにある木を苛立ちのあまり蹴りとばす。
「本当だったら、俺の戦士の紋章を称える日だったのによ!」
今やよくわからない紋章が出たヒイロは、村の英雄にされている。
くそっ! くそっ! くそっ!
何かヒイロを追い落とす方法はねえのか。
実力行使に出たいが、以前とは違い、今のヒイロはトロルキングを倒すほどの魔法が使えるから、それは避けたい。
家に帰って、親父の持ってる魔道具を探してみるか。
ひょっとしたら何かヒイロを痛め付けるものが、あるかも知れないな。
ベイルは悪意のある視線をヒイロに向け、自宅へと戻った。
「失礼します」
「どうされました」
教会に到着しドアを開けると、返事が返って来た。
どうやら神父様は教会に滞在しているようだ。
「おお、ヒイロくん。元気になったのかね」
「はい、お陰さまで」
「それにしても、ヒイロくんの魔法は凄かったね。神様から紋章を授かって、すぐにあんな魔法を使えるなんて、魔法の練習をしてたのかい?」
「実はそのことでお聞きしたいことがありまして」
「どうしたのですか?」
「俺の紋章は結局なんの紋章なんですか?」
「⋯⋯それは私にもわかりません。ヒイロくんの魔法を見た村の人達は、魔導王やマジックマスターではないかと噂していますが」
魔導王とマジックマスターか。
歴史上10数人しか出ていない紋章だ。
だがその2つの紋章は、書物で見たことがあるが、【門と翼の紋章】ではなかった。
「もし本格的に調べたいのであれば、王立の図書館へ行った方がいいと思います」
やはり王立の図書館に行かなければわからないか。
「ただ⋯⋯どこかでヒイロくんの紋章と似たものを見たことがあるような⋯⋯」
「どこですか!」
「いえ、申し訳ありませんが、思い出すことができません」
「そうですか」
「しかし、全く同じ形状ではなかったと思います」
けど似たものはあるのか。そこから俺の紋章を推測してみるのもありだな。
「ラーカス村の教会から、勇者の紋章とヒイロくんのような素晴らしい紋章が出て誇らしいです。しかしその力に溺れず、正しき道を進んでください」
「はい」
俺は神父様の忠告を聞き、教会を後にした。
自宅の前に着くと、リアナ家の前におじさんがいた。
「ヒイロくん、リアナを知らないか」
今日はリアナとは会っていない。
教会に行った時、リアナの姿を見なかったから、おそらく裏の山にいると思う。
成人の儀の前に、よくそこで修行していたので、勇者の紋章の力を試しているような気がする。
「たぶん裏山にいると思います」
「そうしたらヒイロくん、そろそろ夕飯だから、リアナを呼んできてくれないか」
「わかりました」
俺はおじさんからの要望で、リアナを探しに裏山へと向かった。
ベイルside
「おい! ちょっと蔵の鍵を借りるぜ」
俺は執事のアルソンから鍵を奪おうとする。
「坊っちゃま、蔵には危険な魔導具がございます。もし蔵を開けるのでしたら旦那様の許可を得ませんと」
「うるせえ! 俺は次期当主だぞ。戦士の紋章をもらった俺に口出しするのか」
アルソンはベイルを
「坊っちゃま、坊っちゃま」
追いすがるアルソンを俺は振り切って、家の敷地内にある蔵へと向かう。
蔵の前に着くと、俺は鍵を使って錠を開ける。
中は暗く、クモの巣や埃が舞っているため、しばらく使っていなかったことが伺える。
「くそっ! きたねえな! こんな所を探すはめになったのもヒイロのせいだ! あいつを陥れる魔導具はどこだ!」
俺は手当たり次第探すが、剣や魔導書、金塊など魔導具関連の物は見つからない。
できればヒイロを呪える物があると最高だ。
くそっ! くそっ! くそっ!
ガラクタしかねえ。
俺は一心不乱で探すが、めぼしい魔導具は出てこない。
ガシャン!
足元が暗いせいか、何かに
「誰だこんな所に物をおいた奴は!」
俺は躓いた物を投げ飛ばそうとするが、よく見ると魔導具だったため、思い止まった。
「これは」
黒いドクロの形をした鏡で、如何にも呪いのアイテムという物が出てきた。
俺は鏡を覗いてみる。
⋯⋯⋯⋯⋯⋯特に何かが起きる気配はない。
「ガラクタかよ!」
俺は鏡を拳で叩き割ろうとしたその時、どこからか声が聞こえてくる。
「ガラクタではないぞ」
「だ、だれだ!」
周囲を見渡すが、人の気配はない。
まさか。
俺は改めて鏡を見てみると、黒いゴーストのようなものが写っていた。
「ひぃ!」
な、なんだこれは、幽霊か。
「先ほどから聞いていていたが、貴様は誰か陥れたい人物がいるのか」
鏡のゴーストが話かけてきた。
ま、まさか俺を呪うつもりじゃないだろうな。
けど、これは相手を呪う魔導具かもしれない。
俺は意を決して鏡の問いに答える。
「そ、そうだ! ヒイロの奴を陥れるために力を貸せ!」
「なぜ、そのヒイロを陥れるのだ」
「あいつは成人の儀で変な紋章を手に入れて、調子に乗っているからだ」
「それだけで憎んでいるのか」
「昔から気に入らなかったんだよ! 今回だって俺が戦士の紋章、そしてリアナが勇者の紋章を手に入れて注目されるはずだったんだ」
俺の言葉に鏡のゴーストが反応する。
「貴様今なんて言った!」
俺は鏡から発せられる威圧に、尻込みしてしまう。
「む、昔から気に入らなかったんだ」
「違う! その後だ」
「お、俺が戦士の紋章、リアナが勇者の紋章を手に入れて注目されるはずだったんだ」
「⋯⋯⋯⋯クックック」
俺の答に鏡のゴーストが笑いだした。
「ハーハッハ! まさか勇者が生まれるとはな」
「ゆ、勇者がどうかしたのか」
「一応、災いの芽は潰しておくか」
鏡のゴーストは俺の問いに答えない。
「勇者がなんなんだよ」
俺が言葉を発すると鏡が突然光り出し、そこには1人の男がいた。
「お、お前は誰なんだ!」
男は浅黒い肌で、鋭い目付きをしている。そして何より、これまでに経験したことのないほどの威圧感を感じる。
「私か⋯⋯私は魔王。魔王ヘルドだ」
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