第3話 初めての実戦の末

「ヒイロちゃんから光が⋯⋯」


 どこからか声が聞こえてくる。

 スキル魔法の真理を取得しました。


 魔法の真理? なんだこれは?

 俺は疑問に思っていると、魔法の知識が頭の中に入ってきた。

 これは魔法の使い方?

 この通りにやれば魔法が使えるのか。

 これが本当ならいける。

 俺はこの力を使って、魔物を倒してやる!


 その前にまずは体を治さなくては。


 【完全回復パーフェクトヒール


 俺の傷だらけの体は、一瞬で回復する。


「ヒ、ヒイロちゃん」


 俺が立ち上がる姿を見て、リアナは涙を流しながら、安堵している。


 しかしトロルにとって、俺が起き上がったことは関係なく、リアナに向かってこん棒を振り下ろす。


「キャアァ!」


 リアナはあまりの恐怖に目を瞑る。


 【炎槍魔法フレイムランス


 10数本の炎の槍が、トロルの体を貫き、内部から炎の柱が上がる。

  そしてトロルは声を上げることもできず、燃え尽きる。


「えっえっ? 何これ?」

「俺の魔法だ」

「魔法! ヒイロちゃん、いつ魔法が使えるようになったの」

「その話は後だ。今は女の子を助けるぞ」

「う、うん」


 俺は女の子の上にある石に、魔法をかける。


 【重力魔法グラヴィティ


 石は、重力を無視したかのように浮かび上がる。


「リアナ、今のうちに女の子を」

「わかった」


 リアナは女の子を引きずり出す。


「サディア良かった!」


 母親が喜んだのも束の間、女の子はぐったりしており、今にも意識が途切れそうだ。


「サディアお願い。目を開けて! サディア!」


 母親の悲痛の叫びが木霊こだまする。

 俺は重力魔法を解き、女の子に向かって魔法を放つ。


 【完全回復パーフェクトヒール


 女の子の傷は完全に治り、少しずつ目が開いていく。


「あれ? お母さん、ここは?」

「ああ! サディア!」


 母親はサディアちゃんを抱き締める。


「娘を助けて頂き、ありがとうございます」

「ここはまだ危ないので、早く逃げてください」

「は、はい」


 母親は娘を連れて、トロルキング達とは反対の方へと逃げる。


「ヒイロちゃんはどうするの」

「もちろん、こいつらを倒す。だからリアナは下がっていてくれ」

「気を付けてね」

「ああ」


 俺はトロルキング達と対峙する。


「グオー!」


 魔物は俺を目掛けて向かってくる。

 どうやら俺を敵として認めたようだ。


 二匹の魔物はこん棒を頭上高く上げると、勢いよく振り下ろしてきた。

 その攻撃は、風圧で人を殺せるほどの威力があり、俺もなにもしなければ、あっという間にあの世に行くことができるだろう。

 だが俺はまだ、そんな所に行く予定はない。


 【炎壁魔法ファイヤーウォール

 

 高さ3メートルほどの炎の壁が、トロルキング達の攻撃から俺を護るだけではなく、こん棒を燃やし尽くす。


「グオッ、グオー!」


 突然武器であるこん棒が燃えてしまったため、トロルキング達は混乱する。

 後はとどめの魔法を放つだけだ。

 しかしこの時、魔法を使った影響なのか、疲労感が押し寄せてきたため、俺は地面に膝をつく。

 知識は入ってきたとしても、体は以前と変わらないということか。

 トロルキングは膝をついた俺をみて、チャンスととらえたのか、猛然と迫ってくる。

 このままだと殺られてしまう。

 俺は立ち上がり、気力を振り絞って魔法を唱える。


 【稲妻爆破魔法ライトニングブラスト


  上空より現れた稲妻が魔物達に当たると、トロルキング達は跡形もなくぜる。


 すごい魔法だ。

 この魔法を俺が放ったなんて信じられない。

 これも【門と翼の紋章】のお陰だな。

 神様ありがとうございます。


 ぐっ! 疲労感がある中で魔法を使ったせいか、俺は意識を保つことができず、その場に倒れてしまった。



 俺は目を開けると、そこは見知った天井だった。


「ここは、俺の部屋か」


 魔法を使って、トロルキングを倒した記憶があるが、夢じゃないよな。

 左手の甲を見ると【門と翼の紋章】が刻まれている。

 どうやら現実だったみたいだ。


「ヒイロちゃん!」


 声がする方に首を傾けると、リアナがいた。


「リアナ」

「ヒイロちゃん、ヒイロちゃん」


 リアナは俺の手を掴み、涙を流している。


「どうしたんだ? そんなに泣くことか。魔物を倒して、疲労で寝てただけだろ」

「だって、ヒイロちゃん2日も起きなかったんだよ」

「2日! そんなに寝てたのか!」

「そうだよ。だから私、心配で⋯⋯」


 リアナは下を向き涙を拭う。


「そっか、ごめんなリアナ」

「ううん、いいの。ヒイロちゃん起きてくれたし」


 ともあれ体の体調は悪くないので、俺は体を起こしベットから降りる。


「大丈夫?」

「大丈夫だ」


 リアナが、俺を支えようと左手を伸ばしてきたときに、手の甲にある紋章に気づいた。


【魔方陣の中に剣と盾の紋章】


 やっぱりリアナは勇者なんだな。

 リアナは俺の視線に気づいたのか、左手の紋章を隠してしまう。


「まさか私が勇者になるとは思わなかったよ」


 リアナは勇者という重圧に、プレッシャーを感じているようだ。


「俺はリアナが勇者で良かったと思ってるよ」


 リアナは俺の言葉に驚いている。


「どうして?」

「変な奴がそんな力を持つと大変だろ? そうなると勇者じゃなくて魔王になりかねない」


 例えばベイルとか。主にベイルとか。


「それに俺の紋章は何の紋章かわからないけど、とりあえず戦闘職の紋章っぽいから、これで二人で冒険者になることができるな」

「うん。そうだね。私だけ置いてけぼりにならなくて良かったよ」

「むしろ俺が勇者のリアナに置いて行かれそうだ」

「何言ってるの。あんなかっこいい魔法を、紋章を頂いてすぐに使えるヒイロちゃんの方が凄いよ」


 確かに普通ではありえない。

 紋章をもらってすぐに強くなれるなら、13歳で冒険者や騎士になれるはずだ。しかし、本来は15歳になったら3年間学園に行き、しっかり自分の職について勉強や訓練をして、初めてその職種に就けると言われている。

 正直な話、今俺はこの世界にある、中級以下の魔法を全て使用することができる。上級魔法以上については、単純にMPが足りないだけなので、レベルが上がっていけば、全ての魔法を使えるようになるかも知れない。


「俺の紋章って何の紋章だろう?」

「わからないなら冒険者になって探しに行こうよ」

「そうだね、王立の図書館にでも行けばわかるかもしれない」


 これで冒険者になってやりたいことがさらに増えたな。


 そして俺達は、成人の儀のことや紋章のこと、そして冒険者のことを話し、戦闘職を授かったこともあり、将来は希望に溢れた未来がくると思っていた。


 この時までは。

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