第5話 勇者VS魔王

「ま、魔王だと! そうなはずはない。魔王は1年前に倒されたはずだ」

「そうだな。残念ながら貴様の言うことは正しい」


 魔王は倒されたはずだが、こいつの風貌は書物に載っていた魔王の絵とよく似ている。

 それに先ほどから感じている威圧感。

 それが本能でこいつが魔王と認めてしまっている。


「なるほどな。確かに微弱だが勇者の力を感じる」


 魔王は背後を振り向いて、何かを感じたようだ。


「この村は今日で壊滅させるが、勇者の存在を教えてくれた褒美に、貴様は一番最後に殺してやろう」


 俺はその時、魔王から発せられた殺気に抗えず、失禁してしまう。

 何か言葉を出そうにも恐怖で喋ることができない。


「まずは勇者を殺しに行くか」


 ドゴーン!


 魔王は蔵の天井を破壊し、どこかへと飛び立ってしまった。


 このままでは、勇者のリアナは魔王に殺される。

 どうしてこんなことになったんだ。

 村の自警団に知らせるか。いやそんなことをしたら俺が魔王を呼び出したことが、バレてしまうかもしれない。

 それに役立たずのあいつらには、魔王を止められねえだろう。

 ベイルはどうすればいいかわからず、混乱している。


「し、知らねえ。俺は悪くない」


 そう言い残してベイルは、この場から逃げ出すという選択をした。



 ヒイロside


 俺はリアナを探しにいっている時に、上空から悪意のある気配を感じたため、視線を向けると、何かが裏山の方に飛んで行くのが見えた。


「何だ今のは」


 俺は嫌な予感がしたので、急ぎリアナの元へと向かった。



 リアナside


火炎弾魔法ファイヤーボール


 手の中から生まれた炎が、目標物である岩に当たる。


「やったー! できたよ」


 私はヒイロちゃんに置いていかれないよう、幾度か繰り返し練習することによって、やっと魔法を放つことができた。


「ふぅ、ヒイロちゃんはやっぱりすごいなあ」


 私は何日かかけて、やっと魔法を成功させることができたのに、ヒイロちゃんは紋章を神様から授かって、すぐに使うことができるんだもん。

 私は自分が魔法を使えるようになって、改めてヒイロちゃんの凄さを知る。


「けど戦闘職の紋章を神様から授かって良かったよ。これでヒイロちゃんと学園に行って、冒険者になれるよ」

「残念ながらそんな未来がくることはないがな」

「誰?」


 自宅の方の道から誰かが声をかけてくる。


「私か? 私は魔王ヘルドだ」

「えっ?」


 魔王? うそ? 魔王は1年前に倒されたってヒイロちゃんが言ってた。

 けど、魔王と言った人の見た目が、ヒイロちゃん家で見せてもらった本の絵とそっくりだ。


「貴様は勇者のわりには疎いな。もう少し探知能力を上げた方がいいぞ。だが今日ここで死ぬから、そんなことをする時間はないがな」


 魔王が右手を払うと突風が起き、私は後方へと吹き飛ばされ、岩に打ちつけられてしまう。


「くっ!」


 背中に激痛が走る。この魔王は私を殺す気だ。

 私は腰にかけていた剣を取り、敵に向かって構える。


「ほう? これだけの力の差でまだ立ち向かうか。さすがは勇者だな」

「やあっ!」


 私は魔王に向かって、上段から頭に向かって斬り下ろす。

 魔王は動かない。

 なぜかわすことも受けとめることもしないの。

 しかし、私にはそんなことを考える余裕はないので、そのまま斬り下ろし、見事魔王に当てることができた。


「この程度か」


 魔王の体はまるで岩を斬ったように硬い。

 私の放った斬撃はかすり傷をつけることも叶わなかった。

 しかし、それでも私はあきらめずに左右に斬りつける。


「うるさいハエだ」


 魔王は右の拳を私に向かって、突きだしてくる。


 速い!


 魔王の拳は私の右肩に当たり、その勢いで後方まで吹き飛ばされる。


「があっ!」


 私は地面を転がり、大きな木に当たることで、なんとか止まることができた。


「痛っ!」


 今の攻撃で私の右腕はグチャグチャになり、剣を振ることも持つこともできなくなった。


 ダメ。この人は強すぎる。

 戦っても勝てる気がしない。

 けど私が逃げたら村の人達が殺される。

 ヒイロちゃんも強いけど、この魔王はそれ以上に強いと思う。

 だからヒイロちゃんの元に行かせる訳にはいかない。


 私は左手をかざし、魔法を唱える。


火炎弾魔法ファイヤーボール


 手のひらサイズの炎の弾が、魔王めがけて飛んでいくが、魔王は最初と同じように右手を払うと、突風が起き、魔法は勢いを失くして、地面に落ちてしまう。


「そんなあ」


 離れた位置からの魔法では、さっきの風で防がれてしまう。


「それなら」


 私は左手で剣を持ち、魔王に突撃する。

 そして距離が近くなった時に剣を投げつけ、左手で魔法を放つ。


火炎弾魔法ファイヤーボール


 元魔王は、投げた剣を右手で弾き、追加攻撃として放った【火炎弾魔法ファイヤーボール】をまともに食らう。


「やったー!」


 魔王がいた位置には爆炎が舞い、辺り一帯を燃やしつくす。

 これで少しはダメージを当てられたはず。


 爆炎がなくなり始めると、そこには無傷の魔王の姿が見えた。

 これも効かないとすると、どうすればいいの。


「私の魔法も見せてやろう」


 そう言って魔王は、私の方に左手をかざし、魔法を唱える。


火炎弾魔法ファイヤーボール


 私の【火炎弾魔法ファイヤーボール】の数倍くらいある大きさの火炎弾が地面に当たり爆風が巻き起こる。

 私はその爆風で吹き飛ばされ、起き上がることができない。



 勝てないよ。

 剣はかすり傷すらつけることができない。

 魔法はダメージを当てることができない。

 この人には何をしても通じない。

ヒイロちゃん、もうダメだよ。

 私は諦めかけたその時、修行中にヒイロちゃんが言っていた言葉を思い出す。


「魔物には弱点があるんだ。水モンスターには雷が、火のモンスターには水が、魔族には聖の魔法が。だからもし魔法が使えるようになっても闇雲に魔法を打っちゃだめだぞ」


 勇者なら聖の魔法が使える。けど私は勇者になれるなんて思ってもいなかったから練習すらしていない。

 私が恐怖で涙を滲ませていると魔王が語りかけてきた。


「死ぬのはお前だけではない。この村の全ての住民を、さっき貴様が話していたヒイロとかいう奴も殺してやるから安心しろ」


 ヒイロちゃんを殺す?

 この人は何を言っているの?

 そんなことさせない、させるはずがない。

 お願い勇者の紋章よ! この魔王を倒す力を私に貸して!

 ここでこいつを殺さないとヒイロちゃんが。

 私は勇者じゃなくなってもいい。

 だから、だからこの時だけ力を貸して!


 私の左手の紋章が光出し、力が集まってくる。

 そして手のひらをかざして、元魔王に向かって魔法を放つ。


聖稲妻魔法ホーリーライトニング

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