巻き添え恋愛大戦

突撃!隣のマンモス校!

 札幌の地下を走る地下鉄の路線には円山公園駅と言う場所がある。


 そこから南に少し歩くと、野球・サッカー・陸上のコートなどの大きな屋外運動場に加え、プール、武道館、弓道場などに加え複数の体育館と校舎をそろえる道内最大の私立高校「札星サッセイ大学付属北円山高等学校」通称、北円山高校が見えてくる。市内にありながら、その敷地面積は自然公園ほどの大きさを誇り、学校内の移動でも地図を見る必要があるほどだ。


 琴似区にある桜鳥から、中央区にある北円キタマルまでは近い位置では無かったが、この近辺には高校が少ないためお隣に当たる学校であり、今日で行われる桜鳥サッカー部設立以来初となる練習試合の相手こそ、北円山高校サッカー部だった。


「わっ、広いね!」


 学校の正門に着いて早々にロッテは驚きの声を上げる。

 門の先には背の高い木々が植えられている並木道が広がっていて、木々の合間からは両脇に建っている校舎が見えた。あの大都会、中央区の中にある――といっても端の方ではあるが――とは思えぬほどに自然豊かな光景は正門からも覗くことができる円山の木々がここまで伸びているようだった。


「ここは札幌が誇る二大マンモス校の一つだからね~」


「マンモス!?」


「規模の大きい学校の例えね」


 今日は登校日ではない土曜と聞いていたのだが、校内には平日の桜鳥よりもよっぽど多い生徒の姿が見える。ロッテの隣に立つ彩里は門を通る黒い学ランやセーラー服、ジャージを着た北円高生徒の視線に「やっぱこうなるよね」と思い、苦笑いを浮かべながら答えた。


 これだけ大きな学校であれば外国人の一人や二人居そうなものだが、どうも桜鳥生と同じようにロッテの事が物珍しいようで、男女問わず皆が皆、通り過ぎる際にブロンド少女の方を向いていた。


 そんな二人の後ろではミソラが付いてきて正解だったと、心の中で思いつつ北円の生徒に文字通りの睨みを利かせ、負のオーラを出している。


 ミソラは北円山が運動系の部活が強い高校で、スポーツ推薦の生徒も多く、そう言った生徒は部活の傍らで地域ボランティアに参加するなど真面目で評判が良い事を周辺住民の一人として知っている。しかし、全員がそうと言う訳でもない事も同時に知っていた。ここは桜鳥と違って生徒の母数が圧倒的に多い故に、中にはチャラい奴や、ガラの悪い奴も混じっているのだ。


 そういう訳で、ひとだすけ部がサッカー部に同行して北円山高校に行くという話を聞いた彼女は知らぬ間にロッテに何かあってはまずいという不安に駆られ、強引に予定を空けて付いてきたのだった。


「あたし知らなかったなぁ。ロッテと千崎さんが仲良しだったなんて」


「みっちゃんはね、私と同じひとだすけ部の部員なんだよ!」


「ロッテの謎部活は人を助ける部活なんだっけ」


「そうそう! だから私たちひとだすけ部は、今回サッカー部をお助けします!」


「助っ人の正多に加えてロッテまで付いてくれるとなると、サッカー部の士気も爆上がりだからホント助かるよ、応援よろしくね!」


「まっかせて!」


 三人は門を越え、サッカー部が先に待っているコートへと向かった。


「千崎さんは――」


「なに」


「あっいや……」


 彩里はそれまで絡みの無かったミソラに興味があって、ロッテのを挟んで反対側に歩く彼女に声をかけてみた。しかし、周囲に対する警戒オーラを隠さぬ雰囲気に思わず圧倒され、思わず話を切り上げてしまう。

 普段物静かで同級生と必要以上に交流こそしないが、ミソラが人見知りや、人間嫌いと言った感じでない事を一年生の頃の経験から知っていた彩里は他校に来て緊張してるのかな? と、あまり彼女を刺激しない様に気を付けようと心に決めた。


「ってあれ、ロッテ?」


 ちょっと視線を校舎の方に向けている間に、つい先ほどまで隣を歩いていたロッテが消えて、隣にミソラが来たことに驚くように彩里が声を上げる。


「えっ」


 と周囲の生徒たちを見ていたミソラも同じように驚いた声を上げ、周囲を焦るようにキョロキョロと確認する。


「あっ、いた」


 彩里の指さす方をミソラが見ると、いつの間にかロッテは二人よりも後ろで三人の男子生徒に囲まれていた。


「げっ」


 不安が的中したミソラは猛ダッシュでロッテの方へと向かった。


「きみ桜鳥の生徒さん? 日本語上手いね~」


「えっと、その、ありがとうございます」


 と――ミソラの嫌いなタイプである――チャラそうな男に褒められているロッテの姿にはらわたが煮えくり返りそうにになりながらも、それを隠す無表情のままで男子生徒三人の中へと割り込む様に入って行ったミソラは、


「もう、迷子になったらどうするの。行くよロッテ」


「あ、みっちゃん。ごめんごめん」


「きみロッテちゃんって言うんだ。そっちのきみも桜鳥の生徒? 桜鳥ってかわいい子が多いんだね~。今日はうちに何か用事で来たの?」


「あなたに言う必要ありますか」


 急いでいるので失礼します、といきなり邪見な態度で言われてすっかり固まった男子生徒たちを横目にミソラはロッテの手を引っ張って彩里の方へと戻って行った。


「知らない人について行っちゃいけません。分かった?」


「千崎さんお母さんみたい~」


 茶々を入れる彩里を横目に、まだ門を越えて数分と経っていないのにこの調子じゃ先が思いやられる……ロッテは私が守らなければ、とミソラはため息をつきつつ、同じ轍を踏まないために周辺のみならずロッテの事もしっかり見張っておく事にした。


「あ、彩姉って、ロッテ先輩! 来てくれたんですか!」


 サッカーコートのベンチ周辺には既に双方のサッカー部員が集まっていて、腕にキャプテンマークを付けている勇矢が両手を大きく振っていた。

 そこから少し遠くを見ると、桜鳥チームの顧問兼監督兼コーチと一人三役こなす宗谷が居て、スーツ姿の中年男性――相手チームの顧問教師であろう人——と、少し年老いたジャージ姿の監督かコーチらしき人物の三人で談笑していた。


「応援に来たよ~!」


 手を振りながら部員の方へと近寄って行くと、歓迎の声が聞こえ彩里の予想通りロッテの影響で士気がぐんと上がっているのが分かる。

 ロッテについて行こうとする彩里だったが、それまでロッテにべったりだったミソラが足を止めたことに気が付いて「どうかした?」と声を掛けた。


「え、い、いや、なんでもない」


「どっか具合でも悪くなった?」


 ミソラの顔が少し青ざめたような気がして心配そうに言うが、


「ほんとに大丈夫」


「そう。ならいいけど何かあったらさ、気軽にいってね」


 先ほどから明らかに様子がおかしいミソラの事を心配しながらも、本人にそう言われては仕方ないのでチラチラと時折様子を伺いつつ、彩里はロッテを追うようにしてベンチへと向かった。


「あっれ、正多と史家は?」


「え? 彩姉と一緒じゃないの?」


 ところで、試合の開始まであと十数分。残る二人は色々あって集合時間を遅刻していたのだった。

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