行ったり来たり
一階の廊下はどこからか生徒の話し声が聞こえてくるなど、如何にも学校と言った感じの音を奏でていて、部室のある静かな四階とはまるで別空間だ。
そんな廊下をしばらく歩くと奥まった場所にポツンと木製の両開きドアがある。その如何にもな扉こそ理事長室の扉。宗谷から先に連絡しておくと言われていた二人は扉を軽くノックすると扉を開ける。
どこの学校でも校長室や理事長室と言うのは絨毯が敷いてあって、木目調の家具や黒い長椅子なんかが置いてあり落ち着いた雰囲気を出している物だが、ここも例外に漏れずそんな感じだった。
「いらっしゃい。お二人さん」
部屋の奥にあるな椅子に座っている優し気でどこか貫禄のある女性、荒川は手招きして二人を机の前まで呼び寄せる。
「卵を持ってきました」
机の前まで来た正多は生卵の入ったタッパーを机に置く。
「本当にありがとうね。今日はちょうど卵を切らしていて」
荒川はタッパーを自分の前まで持ってくると、机の引き出しからお茶碗を取り出す。
「「お茶碗!?」」
正多とロッテは高そうな木製机の引き出しからお茶碗が出てくることにまず驚くのだが、荒川はそんな二人を見ると不敵な笑みを浮かべ、お茶碗が入っていた引き出しの下の段を開ける。
「「炊飯器!?」」
木製机の一番下の段にある大きな収納スペースの中にはすっぽりと中型の炊飯器が入っている。
「さらにこのボタンを押すと」
炊飯器の下には何やら電動の機会を仕込んでいるらしく、荒川がボタンを押すと機械の音を立てて、炊飯器がご飯を取り出しやすいように机の高さまで上がってきた。
「どうかしら、いつでも白米が食べられるように改造した机は。あとね、内側に装甲版で補強してあるから即席爆弾を仕掛けられてもビクともしないように出来てるのよ」
荒川はまだあるの、と言って反対側の大きな収納スペースを開く。
するとそこには小型の冷蔵庫が入っていて、蓋を開けるとその中には黄色い箱のバターが入っていた。
「おぉ! すごい! かっこいい!」
「でしょ? この理事長室は私の砦。これ以外にも色々あるんだけど、一番の目玉はやっぱりこの机よ」
ご飯のために机をそこまで改造しなくてもいいのでは? と思っている正多を横目にロッテは目をキラキラと輝かせている。
「座ったままバター醤油卵かけご飯が作れる最強の机。私はこの机目当てで桜鳥の理事長になったのよ」
「えっ、そうなんですか!?」
真面目に驚く正多に荒川は「冗談よ」と軽く笑いながらまた別の引き出しを開き、二人は今度は何が出てくるのか、と興味深そうに覗き込む。
「ここにはね、お醤油が入って……」
荒川が開けた引き出しには醤油のボトルが入っていたのだが、その中身は空っぽだった。数秒間沈黙が室内を支配した後、つい先ほどまで意気揚々としていた荒川は真顔になり、視線を正多とロッテの方へ向ける。
「お金上げるから超特急でお醤油買ってきてくれない?」
「え? いや、その、えっとぉ」
「俺たちペンダントを探してて……」
「ペンダント?」
どうやら宗谷は卵の事だけ連絡してペンダントの事は忘れていたようだ。そんなわけで二人はペンダント探しのついでに卵を届けに来ただけなのでおつかいには行けないことを伝える。
「あらあら、それは大変ね。すぐに鍵を……あら? どうやら教頭先生、帰ってきているみたいよ」
荒川はタッチパネルを操作しながら続ける。
「うーん。今教頭先生に連絡はしておいたけど……」
何やら考えるように声を詰まらせた荒川に、何か問題が起きたのではないか、と二人の間に緊張が走る。
「やっぱりお醤油が欲しい……。そうだ、教頭先生のとこに行くついでに、おつかい頼めるかしら?」
「ついでと言うと」
「どゆこと?」
とりあえず何か問題が起きた訳ではないことに安心しつつ、正多とロッテはそこまで醤油が欲しいのか、と思いながら荒川の話に耳を傾ける。
「確か二階の家庭科室に調味料があったと思うの。だから機室に行ってペンダントを見つけた後にお醤油を取ってきてくれないかしら」
「同じ階なら二度手間ではない……かな?」
「届けるのはペンダントが見つかった後で構わないから。お願い!」
正多とロッテは卵も似たような経緯で承諾したわけだし……と承諾した。
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