出会いは突然、回想は必然?
突然名前を呼ばれた二人が声のする方向に振り返ると、どこからともなく伏見が手をひらひらと振りながらやって来た。
「あ、伏見さん」
「ホントだ。どうしてこんなところに?」
「そりゃこっちのセリフですよ」
疑問に答えるより先に彼女は疑るような表情を二人に浮かべ、
「二人ともライブを聞きに来た……訳じゃなさそうですね、列に並んでないし。こらこら~ダメですよ~? 高校生が用もなく来たら~」
前のハイテンションと打って変わって、どこか落ち着いたような口調で茶化す伏見に対し、とりあえず誤解を解くために二人はこれまでの経緯を説明した。
「ほう、つまり二人は友達の為にこんな場所まで……! 私は感動しましたっ!」
「あっ……はい」
説明を終えた二人は彼女の口調が先ほどの落ち着いた感じから急に厄介な感じに変わり始めた事に気が付く。これ以上ここにいると面倒なことになりそうだ、と察して顔を見合わせてから「俺たちはこの辺で……」と息を合わせて言った後、彼女に背を向けた。
「いやいやいや、ちょっと待ってくださいよ! こう、私の話を聞くとか、そういう展開でしょ! 今の流れは!」
しかし、伏見はそんな二人の肩をがっちりと掴んで阻止する。
「話を聞くって言われても……」
「何の?」
「『なんで伏見さんは、こんなラブホ街に一人でいるのかな~』とか『あ、伏見さんだ! 探偵のあなたが友達探しに協力してくれるなら百人力です!』とか! あるでしょう、色々と!」
「俺と史家で、話はもうひと段落着いたって言うか」
「とりあえず結論は出てるんで、これ以上はどうしようもない訳で」
「もっと私の方にも興味持って!」
「興味を持つと言われましても」
「あっ、こんな場所に一人で居るってことは彼氏に捨てられた……とか」
史家が気まずそうに言うと「されてません!」と即座に返す。
「あ、そうなんですね。よかった」
「なら、一件落着。よし帰ろう」
「だ・か・ら、待てって!」
伏見はどうしても話を聞いて欲しいようで、意地でも話を聞かせるために両手で帰りたい二人の手首を掴んで逃げられない様にしてから聞いても無いのに話を始める。
「さてさて、私がなぜこんなところに居るかと言うとですね、あれは今朝まで遡ります」
(この流れどこかで……)
(なあ、正多、この話長いと思うか?)
勝手に回想を始めた伏見を横目に、二人は小声で話した。
「……と、言うわけで私はライブハウスで警備員をすることになったのです」
「へー」
「すごーい」
「あ! 二人とも真面目に聞いてなかったでしょ!」
「いやー真面目にー。……って、ライブハウスの警備?」
数分か十数分に渡った伏見の話を二人は全くもって聞いてなかったのだが、最後の方にさらっと出た言葉がすごく重要だったことに気が付いて、正多は確認するように言う。
「お、おい、それってもしかして」
「やっと気が付きました?」
そんな二人の様子を見て、人の
「つまり、私の助力があれば、お二人の友達があの会場内に居るかどうかが分かる訳ですよ。確証の無い結論じゃモヤモヤしたままでしょう?」
「「本当ですか!?」」
文字通り、湧いて出てきたチャンスに二人は驚きながらも嬉しそうに反応すると、伏見は「アスパラのお返しとして、二人に協力してあげましょう」と頷きながら言った。しかしその直後に、二人に聞こえるか、聞こえないかぐらいの小さな声で「条件は付きますけどね」と呟く。
「でもなんていうか、都合が良すぎない?」
「やけに小さい声で言った『条件』ってのも気になるな」
「あ、聞こえてました?」
二人からすっかり怪しまれて、じとっとした目で見つめられた伏見は別に怪しい話じゃないと焦るように「その条件とはですね……」とすぐに説明を始め、二人はその口から一体何が出てくるのか、と固唾を飲んで見守った。
「私と一緒に警備員のアルバイトをやってみません?」
「警備員の」
「アルバイト?」
「ええ。なんせ人気アイドルのライブ。ファンが大勢来てるじゃないですか」
伏見は伸ばした両手を行列の方に向ける。
「こんなに人が居るとやっぱりガラが悪いのも混じってくるんですよねぇ」
「IPASの警官だらけで治安はよさそうですけど」
正多はファンの民度は伏見が言うよりはずっと良く感じた上に、先ほどからずっと警官が視界に途切れることなく映っているため、特段問題は無さそうに感じた。
「たしかに未成年ファンに万が一の事が無いようにと、この周囲の警察による見回りは厳重、さらに成人向けの店はほとんどが臨時休業中です」
「だったらなんでアルバイトの警備員が?」
「全部の店が休業に応じてくれた訳じゃないですから、警官は見回りに割かれて会場内は民間の警備業者とアルバイトの警備員で何とかしないといけないんですよ」
史家の疑問に伏見は芝居がかったように頭を抱えながら答えて、
「そしてこの列に並んだ人数は想定の三倍。それに合わせるように入場できる人数を緩和したもんですから……」
「元々の警備員では人手が足りてないと」
いまだに多くの人が並ぶ行列を見ながら正多が言った。
「そういう事です。二人とも腕っぷしは強く無さそうですけど今は猫の手も借りたいってことで」
「正多、俺たちさらっとバカにされてないか?」
「確かにお互いケンカは弱そうだし」
「俺は頭脳派なんだ」
「まあまあ、頭脳派でも男の子ですからね。居ると居ないとじゃ違いますよ」
「でも警備員って、そう簡単に増やせるものなんですか?」
「私は権限を沢山与えられたバイトリーダーなんで大丈夫です。……それも話しましたよね?」
二人は彼女の回想を全然聞いていなかったので知らなかったが、取り合えず話を合わせる感じで頷いだ。
「と、言う訳でどうです、バイトしませんか? 今ならお給料に加え青春ポイントを二人に100Pずつ上げちゃいますよ」
「うわ出た、謎ポイント」
「そういえばそんなの有ったな。確か前に100Pもらったっけ」
「ここは伏見さんを助けると思ってどうか慈悲の心を~」
どうしても二人に助けてほしいらしく、両手を合わせてお願いする伏見を見ながら、二人は実態も使い道も無いポイントの事はどうでもいいとして、このアルバイトを受ければ彼女の協力を得られる上に、警備員として会場内に入ればミソラを探すことができるな、と承諾した。
「いや~助かります~。そうと決まれば、あっちに更衣室があるのでそこでスーツに着替えてくださいな」
正多も史家も警備員と聞いててっきり制服を着るのかと思っていたのだが、ふと伏見の服装がスーツ姿だったことに気が付く。
「制服がないので代わりにスーツを着るんです。もちろんバイト用のも有ります。二人に合うサイズもあるはず……っすよ」
と伏見は話の途中で自分のキャラ付けを思い出したらしく、急に語尾を付けだした。
「あ、伏見さん絶対さっきまでその口調忘れてたでしょ」
「い、いえ、違うっす」
史家の指摘に伏見は震えた声で言い訳をする。
「これは完全に忘れてた感じだ」
「わ、忘れてないっす~」
「「急に露骨になった」」
「あ~、もう! 確かに忘れてました! これでいいですか! ほら、行きますよ!」
伏見に手首を掴まれた二人は彼女に引っ張られるようにライブハウスへと入って行った。
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