青年たちは家具語る?(後)

 家具店を三人は繁華街の色々な店に行ってみたのだが、結局リサイクルショップに流れ着いた。


「流石にココならちっさい冷蔵庫も置いてるよな……」


 史家は疲れ果てたように言う。


 家具店を出た三人はまず冷蔵庫を、と家電量販店を回ってみたものの全部家庭用の大型冷蔵庫ばかり。どうやら小さい物は需要が少ないらしく、どの店でも置いてすらいない有様。


 そういう訳で三人は、この繁華街で一番品揃えがあると噂のこの店に最後の期待を込めてやって来ていた。


 店内には服から家具、玩具まで置いてあり、品揃えが豊富な一方で、同時に物が溢れるようにごちゃごちゃとしていて、お目当ての物を見つけるのに時間が掛かりそうだったので、三人は手分けして店内を探索することにし、


「ちょうどいい冷蔵庫あったわ」


「わざわざ持ってこなくても」


 それから数分が経って、史家の呼びかけによって三人は合流していた。


「このままレジに持っていった方が早いだろ?」


 彼が両手で抱えてきたミニ冷蔵庫はジュースが数本入る程度、クーラーボックスぐらいのサイズで、それはまさしく求めていた物だったので、正多もロッテもすぐに賛同して、レジに持って行く。


 先ほどの家具店でもそうだったが、このリサイクルショップでも商品の大型ドローンによる宅配サービスを行っていた。しかし、宅配を無料で行ってもらうには、冷蔵庫の値段だけでは微妙に足りず、三人は追加で何か買う事になった。


「他に何か買う物って言ったら、机とか?」


「そういえば、冷蔵庫探しに夢中になってすっかり忘れてたな」


 史家と正多がここで机を買うかどうか話をしていると、ロッテが「いい感じの机をさっき見つけたけど、どうかな?」と声を掛け、それならとミニ冷蔵庫は一度店員に預けて、三人はその机が置いてるコーナーへと向う。


「それで、この机なんだけど」


 二人がロッテに案内された場所は店の一角に設けられているビンテージコーナーで、その一角に佇む長机を彼女は指さしながら、


「これさ、漫画に出てきた机にそっくりなんだよね」


 と紹介する。


「言われてみれば、確かにアニメで見たことあるな」


 その机は長方形の黒っぽい木材で作られた天板に、黒い塗装のされた鉄で造られた四つの脚を持っていて、どうやら古い時代には学校などでも使われていたタイプだったようで、ビンテージコーナーに置かれているだけあって、随分古い物のようだったが特段錆などは無く状態は良好だった。


「でも、これはちょっと古臭いって言うかシンプル過ぎるような……」


 もう少し新しい物の方がいいんじゃない、と言う学園漫画やアニメを普段見ない正多に対して、これが良いなぁ、買いたいなぁ、と言った感じの視線をロッテと史家は向ける。


「他に良いのが無いなら反対はしないけど」


 二人の視線に負けた正多は渋々と言った感じで承諾すると、


「「やったぁ!」」


 喜ぶ二人は何も持ってこなかった正多に対して、ほかに何か買いたい物ある? と上機嫌に声をかけるが、当の正多はもう宅配は無料になるし、これで良くないかと答えるが、


「折角だし正多もなんか買っちゃえよ。今なら学校の金で落とせるんだぞ?」


「なんでも落とせる訳じゃないだろ」


「多少無理がある物でも、部活動に必要な家具っていえばヘーキだよ! きっと!」


 二人は上機嫌なまま部室に置くいい感じの物を選んで来て! と期待の眼差しを正多に向け、彼は仕方なくリサイクルショップを再度探索しに行った。


「正多ってこう、真面目っぽいじゃん? だから実用的な物を買ってくると思うんだ」


「実用的か~。冷蔵庫は買っちゃったし、扇風機とか?」


 冷蔵庫と机を買って、後は正多が買ってくる何かと共に宅配先を指定するだけの二人は彼を待つ間、店内にある休憩用の椅子に座って、買ってくる物を予想しようという話をしていた。


「教室には空調付いてるし、扇風機は必要ないと思うな」


「そっか。じゃあシカ君は何を買うと思うの?」


「俺は時計だと思う。大きな壁掛けか、目覚まし時計みたいな小さいのかまでは分からないけど」


「そういえば部室に時計って置いてなかったね」


「買ってきたぞ」


「おー! 正多、壁に掛けるちょうどいい物、買ってきたよなぁ!」


 時計であると確信していた史家とロッテは、帰ってきた正多の方を見るが、


「……買ってきたっていうよりも、セータ君のは、狩ってきた……かな?」


 正多が買ってきた物を見て、二人は衝撃を受けた。


「かっこいいだろ? 飾っておけばオシャレに見えると思って。あとこれ時計機能もあるんだ、ちょうど部室に時計ってなかっただろ?」


 衝撃を受けたのは、もちろん買ってきた物のせいなのだが、


「え、あ、うん、そうだな。さ、さすが正多だ、す、すごいなぁ」


 何よりも、それが熊の頭のハンティングトロフィーだったからだ。


「あぁ、セータ君、すごいね……色々と……」


 ハンティングトロフィーに時計機能をくっ付けた、謎の壁掛け時計を部室に飾ろうとする以前に、いくら予算で落とせるからと言ってそんな物を買ったのは恐らくこの世で彼だけだろうと、その予想をはるかに超えるセンスと、天然な図太さにとにかく二人は脱帽するしかなかった。



 翌日、三人は学校に届いていた家具を部室に設置し終えた所だった。


 四人掛けのイスモドキが二つ。


 古風でシンプルな机が、イスモドキの間に一つ。


 部屋の隅に小さな冷蔵庫が一つ。


 そして壁には熊のハンティングトロフィー型の壁掛け時計。


「……」


「……」


「……」


 広く、何もない教室が三人の購入した家具たちによって、賑やかな部室に生まれ変わる、はずだった。


 しかし、買ってきた家具を配置しても教室があんまりにも広いので、隅っこに密集するように設置された家具たちが余計に室内の寂しさを誘うほど。

 家具教室にを運ぶ途中で薄々気が付き始めた三人の間で家具を増やそう、と言う話になったこともあったが。



「……何、これは」


 部室の様子を見に来たシュミットは、少しムッとしたような表情を浮かべながら、真っ先にハンティングトロフィーに反応した。


「それ、壁掛け時計なんですよ……ほら」


 正多がリモコンで操作すると、熊の口の部分から僅かな光が投影され、それが徐々に数字へと変わって行く。


 それは正しく最新技術である3Dホログラムを利用した時計だった。


 光が微弱すぎて、日中だとほぼ何も見えないという点を覗いては。


「あぁ。だからリサイクルショップに置いてあったんだ……」


 中古品だし、値段もそこまで高くなかったので、まあ仕方ないと頷く正多だが、彼の横に立つシュミットは「こんなガラクタを買うために部費とは別の予算を承認した訳じゃない」と呆れたように言った後、しばらく予算の承認は出さないから、と捨て台詞の様に言ってから部室を後にした。



 そんなわけで、とても「部室が寂しいので、追加で家具を買ってもいいですか」なんて言いに行けなかった。


「熊の頭。いいと思ったんだけどなぁ」


「……それでどうするよ。座るところは確保できたけど、結局だだっ広い部屋が残っちまったが」


 正多のセンスの話は一旦置いておいて、と言った感じで史家は二人に問いかける。


「予算は出ないし、部費は今後の事を考えたら使わない方がいいし。とにかくしばらく買えなさそうだね。……私の家から何か持ってこようか?」


「ロッテ、何か持ってこれるの?」


「いざそう言われると……う、うーん。鏡か、うちで飼ってるオ……、犬とか」


「流石にそれは飾っておけないよ」


「だよね~」


「史家はどう、……って聞いても俺と同じで家から持ってこれる物なんて無いか」


「あー、それなんだけど、本棚とかどうだ?」


「「本棚?」」


 二人は首を傾げる二人に対して、史家はデバイスの画面に映っている、本棚の写真を見せる。すると、そこには縦二段に積まれた横長で木製の本棚が壁を背にして置いてあり、中には紙媒体の小説や漫画がずらりと並んでいた。


「おぉ、本がいっぱいだ!」


「すごい量だな。これ全部一人でそろえたのか?」


「あぁ。収紙令の期限が切れた後、交換し損ねた紙本が大量に安くなってて、それを買い漁ったんだ」


「これは今、史家の家に?」


「いや、それが実家の方にあってな」


「じゃあシカ君のご両親から届けてもらうってこと?」


「そういう事。しばらく連絡も取ってなかったし、挨拶のついてに頼んでみるよ」


 史家の言葉から余り両親との仲が良く無さそうなことが伝わってきたが、二人は詮索せずに話題を変えた。


「寂しくはあるけど、とりあえずは家具は揃ったわけだし、次は何する?」


「あ! はい! 私アイデアがあります!」


「お、ロッテちゃんノリノリだね」


「ポスターを作るっていうのはどうかな」


 そう言うとロッテは自身のカバンの中から正多が前に見た物と同じ漫画雑誌を取り出して、ちょうどこの漫画のこの話がポスターを作る回なの、とページを開いて見せた。


「なるほど。いいアイデアだね」


「俺もロッテちゃんのポスター作りに賛成。桜鳥ウチのポスターは全部新素材だから、ちょうどいい大きさのを買ってこないとな」


「うん、じゃあさっそく買いに行こう!」


 三人はどんなポスターにしようか、と話ながら部室を出た。


 この後、ポスター作りは順調に進んで校内のいくつかの場所に掲示し、後は待つだけと浮かれていた三人だったが、完成した絶妙にセンスがないポスターを見て、わざわざ四階の部室に生徒が訪れることはついに無く、数週間が経ってしまう事などは予想だにしていなかったが。

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