探偵
「それで、具体的にどんな猫なんですか?」
「え、あ、こんなのです」
正多は色々と驚きながらも、自分のデバイスで史家から送られていた猫の画像を見せ、この猫の名前やアウトドア派である事やこの公園で行方不明になったのは昨日である事などを伝えた。
「ふむふむ」
「はぁ、僕は先に帰るよ。あと夕飯はシチューだから」
それだけ言い残して、シュミットは帰路につく。
「結局シチューでいいんですか?」
そんなシュミットの背中を見つつ尋ねるロッテに対して、伏見は「今は猫探しが優先だから」と軽く答える。
しかし、三人は夕飯をめぐっての口論を聞いていたので、あれほど熱心だって事をあっさりと諦めて猫探しに協力する彼女の優先順位がさっぱり分からなかった。
「なんで急に協力なんて言い出したんですか?」
「ついさっき言ったじゃないっすか、謝罪ですよ」
正多の質問にあっさりと答えるが、納得できていないような視線を向る。
「それだけじゃ理由は足りないっすか?」
その問いに三人は合わせたように頷く。
「そうですね…………。私、こう見えてもタンテイをやっているんですよ」
「「「タンテイ?」」」
それを聞いた三人は首を傾げ、その言葉の意味をそのままでは理解できずに頭の中で変換する。
タンテイ、たんてい、探偵。
「「「探偵!?」」」
探偵、それは他人の秘密を密かに調査する仕事の事。
そして、青春をするはずだった部活になぜかくっ付いている名前。
「そう。私、こう見えても私立探偵なんですよ。探し物は本職なわけで高校生が頑張っているなら、ぜひ力を貸したいと思いまして……っす」
「その口調やっぱり作ってますよね?」
「ま、まさか。この口調は素……っすよ」
さすがに違和感のある語尾だがどうやらごり押しで通すつもりらしく、正多の指摘にも軽く口笛を吹きながら相変わらず無理があるままに答えた。
そんな様子を見ながら、正直胡散臭いとは思いつつもシュミットと共に居たため怪しい人ではなさそうだし、ついでに言うなら猫探しに行き詰っていた現状を打破するには自称私立探偵の力を借りるのは都合がいいと考え、協力してもらおうと正多は考えていた。
「三人だけだと実力不足だって話をしていた所なんで、伏見さんの力を借りられるなら――」
しかしながら、史家は違う意見のようで、
「いや、待て」
「どうかした?」
「なあ、俺たちがなんで猫探しをやってるか、憶えてるか?」
「なんでって、シカ君が迷子の猫が居るって情報を仕入れてきたからだよね?」
「そうじゃなくて、俺たちが猫探しをするのは、人助け部の部活動だろ? 中央区の迷子はさ、ロッテちゃんのおかげも勿論大きいけど、結局はIPASに助けて貰った訳じゃん」
「迷子を見つけた後、警察に保護してもらうっていうのは至極真っ当な解決方法じゃないか」
突然力説し始める史家に急に何言いだしてるんだと、言った感じで正多は答えるがそんな話もどうやら納得はできないらしく反論する。
「確かに迷子はそうだ。俺たちにはそれ以上のことはできない。でも猫は違うだろ? 確かに今日は見つからなかったけど、明日また探せば俺たちの力で見つかるかもしれないだろ?」
「つまりシカ君は誰かの力を借りずに自分たちの力で解決したいって事?」
「なんというか、発想が子供っぽいぞ。助けてくれるって言うんなら素直に助けてもらうべきだろ」
子供っぽいと言われながもそれを甘んじて受けると言いつつ、やはり自分たちの力で解決したい事を史家は力説する。
「だって今のところ、人助けしてるのはロッテちゃんだけだからな? 俺と正多は現状、人助けられ部だぞ」
「いやそうはならないだろ……」
「私! 感動しました!」
伏見はその会話に割り込むように突然声を上げると、今度は史家の手を握ってブンブンと振り回す。
「これは私が悪かった。そうですよね、高校生。子供ではないんですから、自分たちで解決することも必要ですね!」
彼の手を解くと、伏見はポケットから携帯型のデバイスを取り出して何やら操作をして、しばらくいじった後にその画面を三人に見せた。
「地図?」
伏見が三人に見せたものはこの付近の周辺地図で、公園を中心にした円が書かれている。
「自分の力で解決するっていう意気込みは素晴らしいとおもい……思うっす。でもやはり、謝罪の念を伝えたいので、ヒントを上げます!」
伏見の見せている地図がヒントである事はさすがにわかるが、それが意味する物までは分からない三人は首を傾げながら考えてみる。
円の中の範囲はほとんどが住宅で、猫の飼い主の家やスーパー、コンビニそして桜鳥高校があるが、それ以上に大きな建物などはなく、に映し出されている範囲には他の公園などもない。
「猫が一日で動ける行動範囲は、この丸の範囲内って事かな?」
ロッテはうーんと考えながら口にするが、伏見はあくまでもヒント、と言わんばかりに口をつぐんでいる。
「動き回る猫を探すとなると、一週間以上は軽くかかりそうだな」
「じゃあ、しばらくは猫探しかな~?」
「飼い猫が一週間も帰ってこないんなら……」
正多は飼い猫が外の世界で一週間以上も生き延びるのは難しいのではないか? と言おうとして途中で口を閉じた。
「史家、この範囲を探すって事でいいか?」
「まぁ、ヒントなら……」
今後の方針を話しかけた正多に対して、自分たちで解決できるならヒントは受け入れよう……と考えていて、話を何も聞いていなかった史家は見当違いな返事を返した。
「あのー」
と、そんな考え込む三人に再度割り込むようにして、伏見が声をかける。
「ヒントを出しとくだけ、出しておいてアレなんですけど、もう暗くなってきましたし、今日はこの辺にしておきません?」
三人に何かあってはシュミットにどやされる、と言って今日はもう切り上げることを進めた。
確かに彼女の言う通り、気が付けば公園を照らしていた夕日が家々の影に隠れ、辺りは夜の訪れを感じさせるほどに暗くなり始めている。
「張り込みも捜査も一日で終わるものではない……っすよ。その猫ちゃんは今日行方不明になったという事ですから、まだ猶予はあるはずっすよ」
張り込みや捜査をするのは探偵ではなく刑事の仕事では? というツッコミを抑えつつ、確かに暗くなってからでは暗い毛並みの猫を探すのは至難の技である事ぐらい分かる三人は今日のところは一度帰宅して、明日再度捜索することに決めた。
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