第39話 晴れのち4
「――金輪際、夕凪さんとは言葉を交わさない。この条件を呑んでくれるのなら、別れてもいいですよ?」
「……………………え?」
思考が停止していていたのか華美は遅れて反応、動揺が隠しきれていない様子。
となれば朝陽が出しゃばってくるのは火を見るよりも明らか。
「いまいちピンとこないんだけど、まずなんで夕凪さん限定?」
予想通り前に出てきた朝陽を、私は視線だけ動かして捉える。
「華美さんにとって、夕凪さんは大切な存在だからですよ」
「大切な存在だから、関りをなくそうっていうの?」
「はい。さっきも言いましたが私は華美さんと別れたくありませんしそれ以上に、心は広くありません。だから、華美さんがどうしても考えを曲げないつもりであるならば、それ相応の覚悟はしてもらいます。私が負った心の傷と同等のものを受けてもらう覚悟を」
「懇切丁寧に説明してくれてありがと。けど、それを知ったウチが「じゃあお好きにどうぞ」って見過ごすと思う?」
「思う思わない以前に、部外者のあなたには黙っててもらいたいのですが」
「当時者だからなに要求してもいいと勘違いしちゃってる青空さんにこそ、部外者の意見は必要だと思うけど?」
一歩引くどころか逆に詰め寄ってきた朝陽。意外と口が達者ねこの女……ムカつく。
「……朝陽さん、もしかして華美さんのことが好きなんですか?」
「は? 意味わかんないんだけど。どうしてそうなんの?」
「だって、さっきから私達を別れさせようとやたら必死じゃないですか。そんな風にされたら誰でもそう思いますよ」
「全然違うし。てか逆に聞くけど、青空さんてホントに華美君のこと好きなの?」
朝陽は腰を折って私と同じ目線に合わせ、神経を逆なでさせるような笑みを浮かべてそう口にした。
「好きだからこうして私なりに抗ってるんですが……今までのやり取りをもう忘れたんですか? それともその目はただの飾りですか?」
「ど~にも説得力に欠けるんだよな~……つか、青空さんて全体的に嘘くさいんだよね~」
「感覚で物言うのやめてください。というか、それで私を追い詰めてるつもり?」
「あんたこそ、あれでウチを揺さぶったつもりなの?」
こいつ……。
「――二人とも落ち着け」
「……華美さん」
ヒートアップする私と朝陽を引き離したのは華美だった。衝突を阻止する為か、彼は朝陽に背を向ける形で間に入ってくる。
「……青空」
「はい」
私は立ち上がり、華美と真正面から向き合う。
「……この話は、なかったことにしてくれ」
「――ちょ、なに言ってんの華美君ッ⁉ まさかとは思うけど、青空さんの条件を真に受けるつもり?」
「…………すまん朝陽」
すかさず声を上げた朝陽だったが、華美は振り返ろうともせずに俯き加減で謝るだけ。
「謝られても、困るんだけど」
「……すまん」
「…………はぁ、馬鹿らし」
謝ることしかしない華美に呆れでもしたのだろう、朝陽はそう冷たく言い放ち、私に一瞥をくれてから教室を出ていった。
手こずらせてきた割にはあっけない最後だったわね。ついでに、〝お日さま〟に絡まれるのもこれが最後であってほしいわ。
朝陽が去るのを見届けた私は、ゆっくりと華美に視線を戻した。
「考え直してくれてありがとうございます……その、嬉しかったです」
「ああ……青空、悪いが一人にさせてくれないか?」
……朝陽を相手して疲れたし、今日のところはいいか。
「わかりました。それじゃ、また明日」
「ああ」
軽く手を挙げた華美に私は笑って返し、教室を後に。
……あの鏡は。
引き戸を閉めきる直前で私の目に映ったのは――寂し気な表情で手鏡を見つめる華美だった。
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