第38話 晴れのち3
「それで、話ってなんですか? 華美さん」
私は椅子に座り、華美に続きを促すと、彼はかしこまった表情でこっちを見つめて口を開いた。
「率直に言う……俺と別れてほしい」
ま、そうでしょうね。
「理由を聞かせてもらってもいいですか?」
「……すまない。俺は、お前のことを好き、ってわけじゃないんだ」
「好きじゃないなら、どうして私からの告白にオッケーしてくれたんですか?」
私がそう訊ねると、華美は僅かに表情を歪める。
「……悪いが、深い事情があってのこと、としか言えない」
何が深い事情よ……浅瀬、いや砂浜に転がってそうなしょぼい事情の間違いでしょ?
居心地悪そうにしている華美に私は心の中で悪態をつくが、表には一切出さない。
「華美さん。今の説明で私が納得すると本気で思ってますか?」
「……いや。ひどく身勝手な言い分だとは自覚している……それでも、青空には納得してもらいたい。そして……俺と別れてもらいたい」
「主張を曲げるつもりは、ないですか?」
「…………ああ」
声を落として答えた華美に私は何も言わず、視線を落として床を見つめる。
真っ先に思いついたのは
いくら私が演じたところで客観的立場の朝陽が口を挟んでくれば雰囲気が壊される。しかも華美の精神を安定させるというおまけつき、しらけて終わるに決まってる。
ならどうすればいいか……
「……わかりました」
私はゆっくりと顔を上げ、華美を見据える。
「ただし、条件をつけさせてください」
「――ちょっと待って青空さん」
案の定、朝陽からの横槍が。彼女は私の前まできて見下ろしてくる。
「なんですか?」
「条件つけるっておかしくない?」
「おかしくはないですよ。だって華美さんは好きでもない私と付き合って、好きじゃないからって別れようとしてるんですよ? 人の気持ちを
「それは、そうかもだけど……でもそこはさ、
「朝陽さんが思い描く理想ですよね? それ。私に押し付けてくるのやめてもらっていいですか?」
棘のある言い方を意識して私が口にすると、朝陽はムッとした表情に。
「別に押し付けてるってわけじゃ」
「――それに、なんだかんだ言いつつそれでもまだ私は華美さんのことが大好きなんです。できるなら別れたくないんです。その為の条件でもあるんですが……これはおかしなことですか? 朝陽さんは未練がましいと否定しますか?」
「……青空さんの気持ちはわかったよ。条件の内容を聞いてもないのに突っかかってごめんね。ただ――内容次第じゃまた突っかかることになるかもしれないから、その辺は承知しておいてね?」
あくまで譲るのは今だけ、とでも言いたげな雰囲気を醸しだしながら朝陽は後退し、私と華美を視野に入れられる位置に。
「それで青空、条件というのは一体何だ?」
促してきた華美を見て、私は内心ほくそ笑む。
……それじゃ、〝無理難題〟をぶつけるとしましょうか。
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