第33話 罪悪感
深間駅近くのファーストフード店へ。
……いたいた。
中に入って店内を見渡し、窓際の席で座っている清暖を見つけた。向こうも私の存在に気付いたのか、軽く手を挙げる。
「――よ、清暖ッ! 待った?」
「ううん、僕も今着いたところだから。それより、かなり機嫌よさそうだね、雨音」
「そりゃそうよ」と清暖に返して、私は丸椅子に腰を下ろす。
「清暖もその眼にしっかりと焼き付けたでしょ? 夕凪と華美の知能指数の低い喧嘩! ホント、笑い堪えるのに必死だったわよ! おかげで下唇が痛くて」
「噛んで笑いを我慢してたんだね」
「そうなのよ~。どっちかが冷静でいれればこんな事態にはならなかったのに、お互い意地張っちゃって。手のひらで踊らされてるのにも気付かないで
「はは……でもやっぱり、罪悪感は残るよ」
そう零して窓の外に視線をやった清暖。その横顔が私の瞳には憂いを帯びているように映った。
「なに、いまさら後悔してるの?」
「当たり前だよ。だって僕は、夕凪さんの気持ちを察した上で、あんな嘘を刷り込ませてしまったんだから」
「罪悪感を覚えるくらいなら、初めから引き受けなきゃよかったじゃない」
私が冷たく言い放つと、清暖は首を回してこっちに顔を向け微笑む。
「どうして……引き受けたと思う?」
「……ひょっとしなくても私を試してる?」
清暖はイエスともノーとも言わず、首を縦にも横にも振らない。答えるまでは反応しないって意思表示だろうか?
「……幼馴染の頼みだったから、仕方なく……とか?」
「…………うん、そうだよ」
視線を斜め下に移して頷いた清暖。その声音からは諦めが含まれているような気がして、正解と言われているはずなのに手応えをまったく感じられなかった。
「間違ってたけど面倒だからもういいやって雰囲気がでてるけど?」
「そんなことないよ――それよりこの後はどうするの? 夕凪さんへの復讐は果たせたんだし、華美との関係を継続する意味はもうないよね?」
「どうにも腑に落ちないけど……ま、いいわ。それで、華美との関係を継続するのかって質問だけど、答えはもちろん継続する、よ」
「え……」
困惑した表情で見つめてくる清暖に、私はニッと笑ってみせる。
「私はまだ全然満足してないの。だから復讐を終わらせる気はない。華美を利用できるうちは利用する」
「…………そっか。うん、わかったよ」
か細い声で言った清暖はおもむろに立ち上がる。
「……もう帰るの?」
「うん。今日はちょっと疲れちゃったから。じゃあね雨音」
あははと力なく笑ってそう返して私に背を向けた清暖。
一人残された私は特に意味もなく頬杖をついて窓の外を眺める。
と、近くの交差点で信号に引っ掛かっている清暖の姿を見つけた。
…………あ。
私の視線を感じ取ったのか、振り返った清暖と不意に目が合った。
一瞬、驚いた態度をみせたが、彼は切り替えるように笑みを浮かべて手を振ってきた。
私は信号が青になっていることを指し示して伝えると、気付いた清暖は手を合わせ感謝。そして早足で横断し、やがて人の群れに消えていった。
「……ふぅ」
これまで感じていなかった疲れが、どっと押し寄せてくる。
……罪悪感とか、口にするなよ。
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