第32話 手のひらの上

青空雨音


 華美を監視しつつ夕凪のヘイトを溜めるにはどうするべきか。私が出した結論は同時進行だった。積極的に華美と行動を共にし、夕凪に見せつけ続け、時折巻き込む。これがもっとも効率的だと思ったから。


『俺のことが好きで告白してきたのか? それとも別の狙いがあって俺を利用する形で告白してきたのか?』


 だからあの時の二択もむしろ都合が良かった。大胆に好意を示さなければいけないという条件がつきはしたものの、華美への密着自体は元々するつもりだったし。


 それに、一度疑いを持たれた人間から再度得られる信用はより強いものになる。事実、華美は私の言うことなすことを全て受け入れ、信じてやまない。


 よく、一度失った信用は絶対に取り戻せないなんて言うけど、あんなのはただのいましめ、もしかしたらそうなっちゃうかもしれないから人を裏切るような真似はやめようねってだけ。ことの加減によっては二度と取り戻せない可能性も当然あるけれど、絶対はない。


 浅慮せんりょで自己を肯定されれば警戒心を弱めていく華美の信用を勝ち取るなんて簡単なこと。結果が伴ってるからこそ、断言できる。


 気がかりがあるとすれば誰が華美に入れ知恵したかだ。そいつはきっと、私を怪しんでいる。


 決定的な証拠を何一つ持ち合わせていないから全ては憶測になるけれど、多分男子じゃない。正直、華美の友人は皆アホばかり、物事を表面上でしか捉えることができないアホばかり。


 だとすると女子の誰か。仮交際を始めてから華美と関わっていた女子は……私の知る限り夕凪と月見山、それから朝陽の三人だ。


 私の認識している人物像から消去法で考えれば……朝陽が怪しい。けれど、だとしたら動機はなんなのだろうか? わからない。


 動機の点から探るなら夕凪がもっとも濃い。私から華美を奪い取る為と考えるまでもなく頭に浮かぶから……でも、それはまずない。なんせ夕凪は馬鹿だから。


 ま、第三者が誰であろうと構わないけど。華美と夕凪の関係はぶち壊せたし、後は修復させないよう、華美を自由にさせないよう意識してればいい。


 仮にまた第三者が介入してきたとしても、私の裁量にかかればなんの問題もない。

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