第31話 面白すぎて嗤える
青空雨音
「取りあえず、場所移すか」と、辺りを気にしながら提案してきた華美に私は頷いた。
「……まるで
「あはは……私の口からはなんとも」
移動したところで有意義な時間をすごせるわけもなく、口数が極端に減った華美とは会話という会話が生まれなかった。
その後、どちらからともなく帰る流れに。華美と二人で残っていても意味がないと思っていた私には好都合だった。
日が沈み、辺りがすっかり暗くなった頃に華美の家に着いた。
「……………………」
「……あ、そうでしたそうでした」
家を前にして佇む華美に、私は今の今ままで忘れていたみたいな演技を挟んで、バッグからラッピングされた小さな箱を取り出した。
「これ、付き合い始めた記念で、私から……です」
「…………あ、おう、ありがとう」
躊躇いつつも華美は受け取ってくれた。ちなみに箱の中身は香水、通販で適当に見繕ってついでに包装してもらった物だ。
「…………なぁ、青空。知っているんだったら、教えてほしいんだが」
華美は箱に目を落としたまま私に訊ねてきた。
何についてかを明言されなくてもわかる、そしてもう無知を装って避ける必要もない。
「………わかりました」
承諾の言葉を皮切りに、私は〝作り話〟を華美に語る。内容は清暖に言わせたものとは少し違う……華美が青空を嫌ってるんじゃなく、その逆。
――――――――――――。
「そっか、だからか……俺は気付かぬうちに、夕奈を無理させていたんだな」
全てを聞き終えた華美は、疑問を抱く様子すらなく、どこかスッキリした表情でそう零した。
「ごめんなさい、夕凪さんに口止めされてて言えなくて……でも! 華美さんが辛そうだったから……」
「青空が気にすることはなにもない。別にこのことを夕奈に言うつもりもないし……しばらく、距離を置くとする」
「……華美さん」
「――悪かったな、今日は。気まずい空気で終わらせちゃって……全部、俺のせいだ、すまん」
「それこそ気にしないでください」
「……すまんな。後で抽冬にも謝っておくよ。じゃ、また月曜日。これ、ありがとな」
「いえいえ……また、月曜に」
華美が家の中に入るをの最後まで見送り、私はその場を後に。
「――もしもし、そっちは終わった? ……そう……わかった。じゃあ今から落ち合いましょう……ええ、そこでいいわ。じゃ、また」
清暖と事務的な話を済ませて通話切った。
ひどく疲れるような一日だったはずなのに、不思議と足取りは軽やかだった。充足感がまるで麻酔のように疲れを忘れさせてくれる。
やったやったやったやったやったやったやったやったやったやったやったやったやったやったやったやったやったやったやったやったやったやったやったやったやったやったやったやったやったやったやったあああッ! ちゃんと――ちゃんとぶち壊せたああッ! ざまぁみやがれ……夕凪ぃ! そしてたんと味わえ、私が飲まされてきたようにお前も、苦汁をなぁ!
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