第30話 亀裂

華美真琴


 青空は先に抽冬達の元に戻っていたらしく、俺は遅れて合流……したのだったが、



「……………………」



 おかしい、飲み物を買いに行く前と後で夕奈の様子が明らかに違う……もの凄く怒っていらっしゃるよう。



「……何かあった?」

「ん? 何かって?」



 小声でそれとなく抽冬に訊ねてみたが、頭の上に疑問符を浮かべるだけで情報は得られず、俺は「いや、気にするな」と返しておいた。


 一緒に待っていた抽冬も心当たりがないとなると……そうか! 夕奈は運動後で早く水分を補給したかったのに、俺がちょっと遅れちゃったからそれで――機嫌を損ねてしまったのかッ!


 豆電球を光らせてしまえばこっちのもの。俺はやれやれまったく幼稚なヤツめと内心で呟きながら手に持っているスポーツドリンクを夕奈に。



「ほら、待望の水分だぞ」

「……………………」



 プイと顔を逸らす夕奈。え、無視?



「いや、ちょっと遅れちゃったけどもね? まだ冷え冷えだから、ぬるくなってないから、だから、な? 喉乾いてんだろ?」

「……………………」



 またしても無視か……そっちがその気なら。



「そうか、いらないんだな? なら俺が頂くとするか……ホントにいいのか? 冗談じゃなく本気だぞ? 飲んじゃうぞ?」

「……………………」



 まったく反応を示さない夕奈。なに、俺が遅れてきたことに怒ってんじゃないの?



「……はぁ。お前さ、なにが気に入らなくてへそ曲げてるか知らないけど、今は俺と夕奈の二人じゃなくて他にもいる――」



 急に立ち上がり突き刺すような視線を向けてくる夕奈。



「さっきからなんなんだよ、文句があるなら言葉にしろよ。黙られててもわからないから」

「……………………帰る」

「はぁッ⁉ おまっ、いきなりなに言って――ちょっと待てよ」



 本気で帰ろうとしている夕奈を引き留めようと俺は咄嗟に彼女の腕を掴むが、



「――放してよ!」



 彼女はヒステリックな声を上げて俺の腕を振り払った。


 周囲にいる人達の視線が自分達に集まっているのがわかる。



「マジでどうしたんだよ……夕奈」

「………………ごめんね、青空さん」



 夕奈は俺の問いには答えず、何故か青空に謝罪の言葉を残してから去っていた。



「――夕凪さんが心配だから、僕も帰るよ。じゃあね、雨音。それから華美も」



 そのすぐ後に抽冬が走って夕奈を追いかけていった。



「…………華美さん」



 青空の消え入りそうな声が、どうしてか俺を攻めているように聞こえた。多分、自意識過剰なんだろうけど。


 ……なんだよ、なんなんだよ……意味がわかんねーよ。

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