第29話 好きが為の虚言、己が為の虚言

抽冬ぬくとう清暖きよはる


 賭けに負けた二人を休憩所で待つことに。



「はぁ……デレデレしちゃって、ホントなんで来たかな、真琴のヤツ。彼女ができて舞い上がってるんだろうけどさ? 自慢したくてしょうがないんだろうけどさ? もうわかったっちゅーねん! ムカつくからあたしの前でイチャつかないでほしいわホント。青空さんも青空さんだよ、断りきれなかったのは百歩譲ったとしても、事前に知らせてくれてたらそれでいいじゃん! そしたらこんな……ああもう! 真琴の馬鹿! アホ!」



 夕凪さんはぶつぶつと文句を垂れている。さっきからずっとこんな調子、よっぽどスポッチャァ中の雨音と華美が気に食わなかったんだろう。


 ……二人はいないし、夕凪さんが好き……っていう〝設定〟は一旦忘れて、僕の役割を果たそう。



「そんなに華美が嫌なの?」

「真琴が嫌ってわけじゃなくて、この状況が嫌なの! あたし達もいるっていうのに真琴と青空さんは二人の世界でキャッキャウフフ、イチャつきたいなら二人で勝手にデートしてろっての! あたしたといを巻き込まずに! 抽冬君もそう思うわない?」

「あ、あはは。ま、まぁ、そうだね」



 まったくこれっぽっちもイラつかないと言えば、嘘になる。



「だよねだよね! もういっそ真琴に直接文句言ってやろうかな……じゃないとアイツわかってくれないし」



 と、再びぶつぶつ独り言を呟きだす夕凪さん。


 こんなこと、わざわざ聞くまでもないけど、違和感を与えないためには必要なことだ。



「夕凪さんはさ、華美のことが好きなの?」

「……………………え?」



 ポカンと口を開け呆然とした表情を晒した夕凪さんは、次第にその顔を赤く染め上げていった。



「い、い、いきなりなに言い出してるの抽冬君ッ! なにを以てそ、そんな――」

「う~ん、なんとなく? だけど……違った?」



 夕凪さんは即座に首をブンブンと横に振る。



「ないないあるわけないッ! だって真琴だよ? 自分のことしか考えてない真琴だよ? 残念な要素しかない真琴だよ? あり得ないってッ!」

「そっか。じゃあ友達としては好き? ラブじゃなくライクみたいな」

「それは……まぁ、それなりに長い付き合いだし? 友達としては、その、特別な部類に入る、かな? うん」



 髪を指でクルクルと巻きながらボソボソと言った夕凪さん。


 心を鬼に。



「……あのね、これは雨音と華美の為にも、そしてなにより夕凪さんの為にも言うんだけど――華美とはもう関わらない方がいいよ」

「…………ど、どうして?」

「直接本人からじゃなくて雨音伝いに聞いたんだけど、どうやら華美は夕凪さんのことをウザいと思ってるらしいんだ」

「え……う、ざい?」



 嫌々言う反面どこか嬉しそうだったさっきまでと違い、ただただ辛そうな表情をしている夕凪さん。



「うん。夕凪さんは華美が来るのを嫌がっていたけど、華美も同じように思ってたかもね。それでも華美が参加したがった理由、わかる?」



 問いかけに夕凪さんは力なく首を横に振る。



「雨音が好きだからだよ。雨音と一緒にいたかったからだよ」

「……ホントに、真琴が、あたしのことを」

「さっきも言ったけど僕は華美に直接聞いたわけじゃない。雨音に相談されて、その時に知ったんだ……雨音、言ってたよ。二人には仲良しでいてほしいなって」

「……………………」

「ここからは僕の推測なんだけど、雨音は華美を断りきれなかったんじゃなくて、というかその話自体がそもそも嘘で、実は雨音が華美を誘ったんじゃないかって……二人の為を思って」

「……………………」

「でも僕は、ちょっと厳しい言い方になるけど、そんな半端な関係は切った方がいいと思う。雨音のしたことも余計なお世話以外の何物でもない、そう思っている――ま、あくまで僕の意見、聞き流してくれても全然いいよ。どう受け取るのかを最終的に決めるのは夕凪さんだしね」



 遠くからこっちに向かって走ってくる雨音の姿を捉えた僕は、やや強引に話を終わらせた。


 ごめんね夕凪さん……これも雨音の為、強いては僕の為なんだ。

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