第28話 不安の種

 ボウリングの次は様々なスポーツがたしなめる〝スポッチャァ〟を利用した。


 二時間という定められた時間内で俺達が遊んだのはペア戦ができるスポーツばかりだった。これも青空の計らいで、抽冬と夕奈をできる限り一緒にさせようという考えだ。



「……抽冬のヤツめ、涼しい顔しながらとんでもないスマッシュを放ってきやがって……悔しい」



 そして今、俺と青空は自販機の前にいる。飲み物を賭けたバトミントンでの勝負に敗れてしまったからだ。



「今回は負けてしまいましたけど、でもどっちが勝ってもおかしくなかった内容でしたよ? だから次に戦う機会があったら今度は勝てますよ! ――はい、華美さんのと、それから夕凪さんのです」



 青空から二本のスポーツドリンクを手渡される。



「あぁ、次こそはヤツの鼻っ柱を折ってみせる。必ずだ」

「ですね!」

「おう。行くか」

「……戻る前に一つお聞きしたいのですが」



 青空は近くに備え付けられてあるベンチに視線を向けて言った。座れってことだろう。



「……少し休憩するか」

「はい」



 俺がベンチに腰を下ろすと、彼女も続いた。



「……〝教えてもらいたいんだが〟って、何についてですか?」

「ん? どういう意味だ?」

「華美さん、ここに来る前、駅で私に言ってたじゃないですか」

「あ、あぁ、あれね……特に大したことじゃないから気にしないでくれ」

「……気にしないでと言われると逆に気になってしまうのが人の性だと、私は思うんですが」



 ムスッとした表情で詰め寄ってくる青空。ちょっと近い、近いって。



「隠しは事は良くないと思うんですが」

「いや隠し事ってほどのもんじゃ……」

「なら話してください」

「わかった話す、話すからちょっと離れてくれ」



 俺は両手を前にして青空を押し返した。


 素直に従ってくれた彼女だったが、依然として口元を尖らせている。



「今日、顔合わした時に夕奈のヤツ、めちゃくちゃ冷たかったらさ、嫌われるようなことしちゃったかなって気になって、でも心当たりが全然なくて、それで青空なら何か知ってるかなと思って聞いたんだよ……しょうもない話だろ?」

「……………………」



 ……え、無視?


 俺から逃げるように視線を逸らし俯いてしまう青空。


 あれだけ気にしておきながら無反応ってのもそうだが、どことなく落ち着きがないな……怪しい。



「……もしかして、何か知ってる?」

「――いいいいいえ! 何も!」



 あ、これ絶対隠してる。



「嘘、ついてるでしょ?」

「つつつつつついてないですッ! 信じてください!」

「その動揺っぷりで信じてくださいはさすがに無理あるだろ」

「かかかかかか彼女である私をはははははは華美さんは信じられないと言うんですか!」

「いや彼女とか関係なくない?」

「――しつこいです! 〝口止め〟されてることくらい察してください!」



 立ち上がって怒り気味に言い放った青空は、自分の失態に遅れて気付いたのか、あわあわとしだす。



「い、い――今のは聞かなかった事にしてくださいお願いしますうううううッ!」



 ピューンと背を向け逃げてしまった彼女。


 人の性だとか言ってた割には酷な真似するじゃないですか、ほんと。

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