第9話 隠し下手
青空雨音
朝陽が去っていくのを横目で確認し、私は華美の背中に回してる腕を下ろした。
「いきなり無理言ってすみませんでした、華美さん。もう、いいですよ?」
「……………………」
「……………………華美、さん?」
一向に離してくれない華美を不思議に思い、顔を上げると、
「青空」
真剣な眼差しで見つめてくる華美の顔が目と鼻の先に。
え、ちょっと様子おかしくない? いやおかしいのはいつものことだけど、これってまるで…まさかコイツ!
「何も言わずに、目を閉じてくれ」
――雰囲気に呑まれてるッ⁉
「は、華美さん? 気は確かですか?」
「確かだ」
「で、でもさっきは段階を踏んでからと仰ってましたよね? 抱きしめてと要求した私が言うのも何ですが、飛躍しすぎでは……」
「あぁ。鳥だって永遠に飛ぶことはできない。休息が必要だ……今の、俺にも」
「あの、まるで意味がわからないんですけど」
「つまり目を閉じてくれってことだ。でなきゃ一生このままだ」
「脅しじゃないですか⁉」
「お前が脅さなきゃこうにはならなかった」
「そ、それは……」
か……返す言葉も見つからない。
「さぁ」
……ははっ、何を勘違いしてるんだか。初めてに拘れるほど私の心は清くなんかないじゃない。ファーストキスは好きな人と、そんな少女チックな夢を抱ける資格は、私にはもうない。
「数秒で済むから」
逆に考えるのよ。コイツとキスをすれば、その事実が夕凪をさらに苦しめる武器になる……何それ最高じゃない。
「目を閉じてくれて」
だから――かかってきなさいよ。
「ありがとう、青空。すぐに終わるから」
……………………ん?
「もういいぞ」
唇に何か触れたわけでもなく、窮屈さからも解放され、終わりを告げられた。
「…………どうして足をクロスさせているんですか?」
言われるがままに従った私の目に飛び込んできたのは、モデル立ちをしている華美だった。
「今はこの体勢が落ち着くからだ」
「そう……ですか……」
「――おっと! そうジロジロ見るな。気になるだろうがホントに深い意味はないんだ」
怪しむ私に反応して、すかさず〝局部〟を両手で覆い隠した華美。
…………なるほどね。
華美の露骨さが暗に示しているようなものだった。俺はあなたに〝興奮〟していましたと。
思わせぶりな態度で私をテンパらせたことに関してはイラつくけど……まぁ、私にも原因はあるし、今回は痛み分けってことにしといてあげる。
「わかりました、気にしません。けど、浮気はもうしないでくださいね?」
「いや今日のは浮気とかじゃなくてだな――」
「華美さんが違うと主張しても、私は浮気とみなしますから。だから、お願いしますね?」
「あ……お、おぅ」
「…………じゃぁ、帰りましょうか」
「いや…………俺はもうしばらくここにいる」
でしょうね。
「わかりました。それじゃ華美さん、また来週」
一人佇んだままの華美を残して私は四季公園を後に。
それにしてもまさか〝お月さま〟に続いて〝お日さま〟も絡んくるとは……脅しだけじゃダメだ。もっと上手くやらなきゃ。
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