第4話 本物か偽物か
華美真琴
翌朝、家の前に夕奈の姿はなく、久しぶりに一人で学校へ。
道すがら俺は昨日のことを振り返っていた。
牛丼で幻滅作戦は失敗、しかも逆に喜ばれてしまった。本心か気遣いかわからないが、どちらにしろ青空はいいヤツだ……いや、
『別れ話だとしたら言いふらしますよ? 華美さんは好きでもない女子とも付き合い襲う変態だと』
嘘も
唯一わかること、それは――、
「ったく…………モテる男は辛いぜ」
脅してまでも俺と別れたくないってことだ。それすなわち、青空は俺のことが好きすぎて仕方がない……そういうこと。
***
朝陽日向
学食から教室に戻る途中、中庭のベンチに腰を下ろしている月見山の姿が視界に。うつろな目をして虚空を見つめている。
「あ、ごめん、ウチちょっと飲み物買ってくるから、先に教室戻ってて!」
「んじゃあたしのもよろしく~、ミルクティーで~」
自然な流れでパシり扱い……下に見ている証拠、ね。
「おっけ! すぐ戻るから待ってて!」
「お願いね~」
ミカ達が階段を上っていくのを確認し、踵を返して月見山の元へ向かった。
「昼間から哀愁漂わせちゃって、どうしたの? 〝お月さま〟」
「………………朝陽」
瞳だけをゆっくり動かした月見山と視線が交わる。
「昨日、ウチがいなくなった後のこと、教えて」
「……………………好きって言ってたわ。華美が、青空って女に」
「え、それホント?」
「ええ、二人がついた席の隣で耳をそばだてていたから、間違いないわ」
「ちょっと待って、あんたおひとり様でテーブル席についたの?」
「そうだけど……何か問題でも?」
「いや問題はないっちゃないだけど……まさか、注文すら取ってないってことは……」
「お冷だけ頂いて帰ったわ」
どんだけ神経図太いのよ! 店員さんに同情するわ!
悪びれる様子もなく言った月見山に、内心でツッコミを入れる。
落ち込んでいる原因はわかった。けど、好意を華美君から直接伝えるってことはつまり……偽物じゃない?
「他は? 前後に変わったことあった?」
「……昨日は聞きそびれてしまったけれど、あなた、何を企んでいるの?」
「既に言ってあるじゃん、理由は言えないけど目的は同じだって」
「……………………」
切れ長の目をさらに細め、訝しげな視線を送ってくる月見山。
華美君をウチ好みに矯正して最終的にステータスにする……なんて口にして広められでもしたら最後、ウチの高校生活は終わり。
ここは適当言ってはぐらかすしかなさそうね。
「実は……ちょっと華美君のこと、いいなぁって思ってて、それで……もう! 恥ずかしいこと言わせないでよ!」
「……………………」
「無反応って酷くない?」
「…………正直引くわ。彼女持ちの男性を狙うなんて」
あんたに言われたくないわッ!
「あ、あははは……やっぱダメ?」
「……いいわ、身の程知らずの恋を望む憐れなあなたに、せめてもの情けとして教えてあげる」
「あ、うん……ありがと、ね?」
作り笑いは慣れたものとばかり思っていたけど、まだまだね……ムカつきのあまり頬が勝手にひくひくしちゃう。
「と言っても、後について語れることは何もないわ……気がついたら二人ともいなくなっていたから」
視線を落とした月見山は、悲しげな表情をしながら、そう静かに口にした。
どうせ、ショッキングな事実に狼狽えていたらいつの間にかいなくなってた、ってオチでしょ……目に浮かぶわ。
「なら前は?」
「……ほんの少し、違和感を覚えた部分があったわ」
「違和感?」
「ええ。華美、店を出ようとした女狐を「話がある」と言って引き留めたのよ。声からして軽い内容ではなかったはず」
「はずってことは、結局言わずに終わったってこと?」
「遮ったのよ、女狐が。「先に私からいいですか?」と言って。そうまでするからにはよほどのことが、と思うじゃない? けれど実際は私のことが好きかどうかという確認だけだった……おかしくないかしら?」
「確かに、わざわざ遮る必要性はないかもけど……でも、華美君は好きって返したのよね?」
「………………ええ」
昨日のことを思い出しでもしたのか、しゅんと縮こまってしまう月見山。想像以上に好きなのね、華美君のこと。
「――この話は終わり! 教えてくれてありがとね月見山。そんじゃ」
これ以上この場に居ても気分が重くなるだけと判断したウチは、月見山の返事も待たずに来た道を引き返した。
あの二人が本物か偽物か、どっちかわかんなくなっちゃったな…………悩んでても仕方ない、直接本人に問い質してみるとしますか!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます