第3話 デート×牛丼=新たなる可能性


月見山花咲里


 私は今、真琴君と女狐(青空)の後を尾行している。


 真琴君と放課後デートだなんて……うらやいまいましい。


 あの女狐は後で絶対に化けの皮を剥いでやるとして……、



「何故、あなたがここにいるの? 家は反対方向でしょ」

「それはこっちの台詞。あんただって逆じゃない」



 朝陽日向、ヒエラルキーに固執するしか能のない八方美人のブス女がどうしてここに。



「〝おひさま〟はそろそろ沈んで、おねんねする時間じゃなくて? さようなら」

「今は五月の下旬で沈ぬにはまだ時間がかかるんですけど~、季節すらわかんなくなっちゃったの~? あ! それとも「夜は私の所有物!」ってこと? うっわ、なにそれ、えっちぃ」

「ふ、何とでも言いなさい」

「えっちえっち! 月見山のド淫乱!」

「…………殺すわよ」



 私が足を止めるのに合わせて朝陽も立ち止まる。昔から何一つ変わらない、私にだけ見せる余裕綽々といった憎たらしい顔。



「冗談はさておくとして……月見山、あんた華美君と青空さんの後をつけてるでしょ?」

「別に……そういうあなたはどうなの?」

「ウチもべつに~…………あ! 華美君と青空さんがチューしようとしてる!」

「うそッ――」



 咄嗟に顔を向けたが、二人の距離に特段変化はなく、付かず離れずをキープしている。



「…………騙したわね」

「ごめんごめん! そんな怒んないでよ。同じ目的を持つ者同士、仲良くしよ?」

「同じ目的?」

「そうそう! さ、見失う前に早く追いかけよ!」

「ちょっと! 待ちなさいよ!」


 ――――――――――――。


 真琴君と女狐が入っていったのは牛丼チェーン店だった。



「いまどき女子高生とのデートで牛丼をチョイスするとは…………さすが、外見だけの残念系イケメン」

「何もわかってないのね。華美は敢えて牛丼を選んだのよ。コスパが良く、時間効率も良い……女狐に騙されてることを見抜いてるからこその、合理的な判断よ」

「騙されてるとわかった時点で時間を費やさないようにするのが最も合理的だと思うけど……ちょっと待って、電話」



 手で制し、スマホを取り出した朝陽。いちいち上からの態度が癪に障る。



「あ、もしもし! うん! うん! あ~今はちょっと…………あ、ううん! 大丈夫! これから向かうよ! うん! じゃあね!」

「…………お誘い?」

「そ、友達から。ウチは行くから――どうせ、店に入るんでしょ? 後で聞かせて」



 言い残して朝陽は慌ただしく駆けていった。


 余裕があるんだかないんだか。


     ***


青空雨音


 ここ数日間、華美真琴がいかに残念系イケメンかを間近で見せつけられてきたが……まさか、牛丼とは……無理にでも私が店を選べばよかった…………恥ずかしい。



「表情が固いけど、やっぱここは嫌だったか? 青空」

「い、いえ……ただ、ちょっと慣れていなくて……」

「だ、だよな……あんま女の子が来るようなとこじゃないし」



 ホントだよ。



「で、でも! 普段来れないからこそ、貴重な体験ができましたし、牛丼も美味しかったです」

「だろ? 実は敢えてここをチョイスしたんだよ…………最高だったろ?」

「はい!」



 顎に手をやり、声音を低くしてイラつく発言をしてきた華美に、私は感情を殺して微笑んだ。


 恥ずかしがってる場合じゃない、イラついてる場合じゃない、平静を保て私。この関係を続けてさえいれば、アイツを――〝夕凪〟のヤツを苦しませることができるんだから。



「じゃぁ、そろそろ行きましょうか? 華美さん」



 邪魔な〝ストーカー〟も聞き耳立ててることだし…………ほんとに、夜道を照らす〝お月さま〟が陰に徹するって、面白いくらいの皮肉。



「待ってくれ青空…………話がある」



 ……………………。



「何ですか?」

「いや、あの…………そのだな、俺と――」

「――すみません。話を促しておいて申しわけないのですが……先に私からいいですか?」

「え? あ、あぁ。いいぞ」



 許可をもらったところで、私は即座にスマホを取り出し、文字を打ちだした。


『別れ話だとしたら言いふらしますよ? 華美さんは好きでもない女子とも付き合い襲う変態だと』



「私のこと……好きですか?」



 質問と同時に、華美にスマホを突き出す。



「――な……そんな……」



 華美の顔が見る見るうちに青ざめていくのがわかる。



「私のこと……好きですか?」

「…………う、うん。す、好き」

「――うそッ⁉」



 ストーカーの断末魔…………ごめんね、恨みはないけど、今後邪魔になりそうだったから。



「え、誰?」

「知らない人ですよ。それで、華美君のお話は?」

「あ、いや……何でもない」

「そうですか。それじゃ今日は帰りましょう」

「お、おう…………ここは、俺が奢る」

「本当ですか! ありがとうございます!」



 笑顔で感謝を口にしながら私は思った。たかが牛丼如きでわざわざ口にすんなよ、と。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る