第51話息子くんと誕生日

 息子くんは夏生まれで、丁度夏休みになるため友だちを呼んで誕生日パーティーなどは皆無です。

 誘うにしても人数が夏休みのため定まらず、また旅行などで来れない友だちがいたりするので毎年「誕生日パーティーどうする」とママが聞いて「家で焼きそば食べるわ」というような会話が行われています。

 尤も誕生日はちゃんとご馳走を用意してケーキも用意するので、焼きそばという訳ではありませんが。

 誕生日ケーキは保育園時代、キャラクターのケーキを取り寄せしたりしていましたが、ママがクリームが苦手なためホールケーキがなかなかに苦行になり、息子くんも食べ切れるものでもなく小学校に上がる頃にはカットケーキで好きなものを複数選んで買うようになりました。

 そんな息子くん、最近はケーキより刺身か寿司と言い出し、ケーキのような飾り付けの寿司を購入しようとしてママが叱られました。息子くん、ガッツリとマグロとサーモンが食べたかったようです。

 そんな寿司大好きな息子くんへ、ママから誕生日プレゼントとして一度回らない寿司を食べにいきました。

 回らない寿司、ママも今ではめっきり足が遠のいていましたが近所にある寿司屋に緊張する息子くんを連れて暖簾をくぐり、いざ参らんと何故かプルプルと震える息子くんをカウンターに座らせて寿司屋の大将に「息子くんの誕生日なので一番好きな寿司を目の前で握ってもらって食べる経験をプレゼントしたい」と伝えると大将より女将が張り切ってしまい、オススメからサービスから何から何までお膳立てしてくださいました。

 息子くんの目の前の寿司下駄に一番大好きなマグロがヒョイと乗せられると息子くん箸を持ちながら迷い出す、女将から「食べやすい方でいいのよ」と手掴みでもいいと言われた息子くん、口に入れた瞬間にみるみるいい笑顔に。

 お任せにしようか悩んでいたら、大将から食べたいものがいいだろうと言われ、息子くんの食べたいものをお願いして満腹の息子くんを連れて帰宅。

 帰り際「ご馳走さまでした」と笑顔の息子くんが店を出ると、そっと女将が「丁度孫が同じくらいでね、今日は楽しかったわ」との言葉をもらい、いい誕生日にしていただいたお礼を言って店を後にしました。

 息子くん暫くは回らない寿司の話をキラキラとした目で話して回ってましたが、あの日息子くんが食べた寿司がマグロとサーモンのみだったんですよね。食の冒険はしなかったようでした。

 

 

 

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