第2話 午前のアダム
にぎやかに空を飛びながら着いた目的地はとあるマンションだった。その一室、二人の目の前には、スマホを片手にじっと悩んでいる青年がいる。
「あれかな?好きな人にお誘いのラインを送るかどうか悩んでる感じかな?」
「そうなるな。今日はイブだし、決意を固めるにはちょうどいいしな」
無論、二人の声は彼には聞こえない。ただ、スマホのキーボードを叩いては消してを繰り返しているだけである。
「なかなかライン送らないね。あんなのすぐ送っちゃえばいいのに」
「人間はなかなか決断できないもんなんだよ。イブに誘うなんて露骨すぎるかなとか、興味を持たれなかったらどうしようとか。心の声が俺たち天使には丸聞こえだっつうのに…」
「ふーん。悪魔のあたしにはよくわかんない。それで、この人をどうすんの?」
「俺が背中を押すんだよ。恋の手助けをするんだ」天使は、ベッドの上で何やらジタバタしている青年を、例の死んだ目つきで見下す。
「どうやって?」悪魔がそう口にしようとしたところ、唐突に青年は迷うことなく文字を打ち始め、急ぐようにして送信ボタンを押した。
「えっ、なんで?さっきまであんなに迷ってたのに」
「俺が念じたんだよ。動くようにな」
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